第71話 似た者同士

 なぜ『カイルは何かを隠している』なんて言葉が浮かんだのかはわからない。

 だからか……話は納得できるように思えるのだが、何かが引っかかった。


 カイルは何を考えながら話しをしているのだろうか?


 はるかはふと、そんな事を思った。


「ねぇ……どうして今になって話してくれたの?」

「話の流れで……伝えておいた方がいいと思ったからだ。ハルカも知っておいた方がいい事実だろ?」


 心がざわつく。

 その気持ちをそのままにしておけなくて、はるかは思い切って聞いてみた。


「ねぇ……、何か隠してない?」


 その瞬間、カイルの目が僅かに泳いだ。


「カイル……やっぱり何か、他にもあるでしょ?」


 はるかにそう言われてカイルは観念したように話し始めた。


「ハルカはなんでこんな時だけ勘がいいんだ?」


 そう言いながらも、カイルはとても真剣な表情でこちらを見てきた。

 そしてゆっくりと理由を話し始めた。


「じゃあ……、落ち着いて聞いてくれよ? 今日の夜にでもちゃんと話すつもりでいた。話の流れで今になっただけだ。あとな……、ハルカと初めて話した時、頭のいかれた黒の魔法使いかと思ったんだ」

「頭のいかれた!?」


 思わずはるかは机を叩いて身を乗り出した。


 まさかそんな事を思われていたなんて!

 そりゃあ挙動不審だったよ?

『違う世界から来ました!』みたいな事言ってたから痛い子に見えたかもしれないけれど——


『頭のいかれた』は酷くないっ!?


「悪い! 俺もここまで正直に言う気はなかったんだが……」

「正直過ぎでしょ!!」


 まだ言葉のダメージから回復していないはるかには、カイルの謝罪は何も心に響かなかった。


「と、とにかく聞いてくれ。俺は異世界の事に関して多少詳しいから半分は信じていたし、浮かれてもいた。だけどな、黒の魔法使いだったから用心もしていた」

「用心って、どういう事?」


 先程の発言で心はモヤモヤしていたが、話の続きを聞く為にはるかは椅子に座り直しながら尋ねた。


「黒の魔法使いは変わった奴が多い。だからいかれたフリをして……また火種を持ち込んでくる奴かもしれないと思っていたのは事実だ」

「それなのにどうして私を町に入れたの?」


 そこまで警戒しているのにカイルの行動は不思議でしかなかった。


「実際、本当に異世界から来たのなら保護しようと思ったからだ。もし違った場合は……訊問してからギルドにでも突き出そうと思っていた」

「い、今は? 今はもう信じてくれてる!?」

「信じてなかったらこんな事話さないだろ? だから安心してくれ」


 その言葉でほっとしたのも束の間。

 カイルから続けて話された内容にはるかは気を引き締め直した。


「だけどな……異世界の歴史を知っている俺ですら半信半疑になった。他の奴に知られたらどんな反応をするかわからない。今後もとにかく気を付けてくれ」

「わかった。今まで以上に気を付けるね」


 先程の発言から動揺していたはるかは——少しだけ険しい表情をしていたカイルに気付かないでいた。


 ***

 

「とにかく、さっき説明した通り誓約があるからコルト行きの定期便を襲ってくる人間はまずいない。魔物対策で雇われた冒険者も乗り合わせているから、そっちの方も安全だ」

「旅路が安全ってそういう事だったんだね」

「あぁ。だからハルカは明日からの魔法探しに集中して構わない。もし何かあっても俺が対処する」


 コルトまでの道のりがどうして安全なのかを話し終えた時、不思議な音が響いた。


 キィーーーーーン


 頭に直接響くような音が壁の飾りから聞こえてきた。

 しかしカイルは驚く事なく、その壁飾りにそっと触れていた。


「どうした?」

『ちょっと早いかもしれないけど、出来立ての料理はいかが?』


 聞こえてきたのはルチルさんの声。

 

 これは……電話?


 白い石で出来たユリのような花の壁飾りから声だけ聞こえるので、きっとそういう魔具なんだとはるかは理解した。


「いや、問題ない。ありがとうな」

『いいんだよ! 差し入れしてくれた2人に最初に食べてほしいからね! それじゃ準備しておくから支度ができたらおいで』


 そう言ってルチルさんの声は途切れた。


「カイル……それも魔具?」

「ん? あぁ、通信石っていう通話できる魔具だ」

「本当に至る所に魔具があるね」

「あるのが当たり前だからな」


 確かに私の生活にも様々な機械が身近にあった。

 そしてこの世界もそれに似た魔具が沢山あって面白い。


 はるかがそう考えていた時、カイルから続けて話しかけられた。


「ハルカにはきっと1番必要な魔具になるんじゃないか?」

「なんで?」

「迷子になった時、困るだろ?」

「何言ってるの? 私は迷子になんてならないよ!」


 あははと笑うはるかを他所にカイルはため息をついていた。


「自覚がないのが1番たちが悪い」


 そんな事を小声で呟かれたが、先程の通信石に興味津々のはるかはその発言を聞き逃していた。


「何か言った? 私の世界にもね、似た機械があったんだよ!」


 振り返ると何かを諦めたかのような表情のカイルが目に留まり、はるかは首を傾げた。

 

「いや……。で、どんなキカイなんだ?」

「えっとね、いろんな形があるんだけど——」


 はるかの説明が始まるや否やカイルは記録石を取り出してメモを取り始める始末。


 はるかの事を好奇心旺盛だと思っていたカイルもまた、異世界の事になるとはるか以上だという事が証明された瞬間だった。

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