第58話 自分を大切にする生き方
自分がいかに無責任な事をしてしまったのかと、はるかは原っぱに座り込みながら心の中で自身を責め続けていた。
「謝ってほしいわけじゃない」
そう言いながらカイルは座り込んでいたはるかの手を優しく引き、立ち上がる。
「ハルカのいた世界はこことは全然違っていたんだろ? だから少しきつい事を言った自覚はある。だけれどそれくらい……死が自然と隣り合わせだという事を自覚してほしかっただけだ」
先程の冷たい響きの声ではなく、いつもの柔らかい話し方で語りかけられた事にはるかは安堵しながらも……別の事を考えていた。
こんなにも優しい人を、あんなにも怒らせてしまった。
その事実に胸が痛む。
謝っても謝ってもきりがない事はわかってる。
それでも謝ろうとする私は……私の事だけしか考えていない。
それがいつもの私。
誰かに嫌われて生きる事ができない私。
嫌われないように演じる私。
いつも……そして今も一緒にいる私だ。
こんな私だけど……変わりたい。
私も誰かを心の底から包み込めるぐらい、強くなりたい。
目の前の彼が……カイルが教えてくれた事はとても大切な想いを気付かせてくれた。
しばらく無言になっていたはるかを心配したのか、カイルがかなり顔を近づけて覗き込んできた。
黒緑色の瞳に見つめられて、はるかは驚くどころか魅入ってしまう。
そしてカイルがいきなり魔法をかけてきた。
「癒しを」
「えっ?」
いきなり癒しの魔法をかけられたが無傷な為、何の効果もなかった。
「いや、返事がないからどこか打ったかと思ってな」
「怪我も打撲もないから大丈夫だよ!ちょっと考え込んじゃっただけだよ」
そこまで心配をかけてしまってはるかは更に申し訳なくなった。
「待て、それはわからないぞ? 自分で気付いてない怪我もある。急いで治癒院に行こう」
「いやいやいや! それに今、カイルが魔法かけてくれたじゃん!」
「俺の回復魔法は大した事がないんだ。だからちゃんと専門の奴に任せよう」
「本当に本当に大丈夫だから!」
優しい……というよりは過保護すぎなカイルの様子に笑いが込み上げてくる。
「心配かけちゃってごめんね。私の事を考えて言葉を選んでくれてありがとう。私はもっと……自分に正直に生きてみる」
「人生1度きりだ。正直に生きなきゃ損するからな」
カイルは相変わらずそんな優しい後押しをしてくれる。
「自分の命も気持ちも、大切にするね」
「そうしてくれ。俺はその生き方が好きだ」
私の考えた事を笑うわけでも、無視するわけでもなく受け入れてくれる。
そんな存在がこんなにも近くにいてくれる事を、奇跡のように感じた。
「ありがとう」
「ハルカが自分で考えて進む道に何か協力出来る時はする。ただそれだけだ」
「それでも、ありがとう」
何も考えずに謝るのはやめよう。
謝るぐらいなら感謝を伝えよう。
きっとこれからの私の生き方は感謝の連続で作られていくはずだから。
そんな事を考えながら微笑むと、カイルはまたも心配そうな表情を浮かべていた。
「そこまで礼を言われる程の事でもないんだけどな。それじゃこの後は急いで帰って、とりあえず治癒院な」
「だから大丈夫だって!」
「でも万が一の事があったらな……」
「お願いだから私の言ってる事、信じてよ!!」
そんなはるかの心からの叫びが辺りに虚しく響いた。
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