第42話 直感という名の必然

 はるかはセドリックさんの次の行動を待ちながら、目の前の武器達を眺めていた。


「さて、大体この辺りから試してみるかの」


 セドリックさんはそう言うと細身の棒状の武器を手に取り始めた。


「まずはこれを」

「はい」


 とても長い棒状の武器を差し出されたはるかは恐る恐る手に取ってみた。


 とても軽い。

 だけれど……何故だかしっくりこない。


 はるかは感じた事をなんとなくだが、セドリックさんに伝えてみる。


「よくわからないのですが……とっても軽過ぎて……」

「ふむふむ。ならこれならどうかの?」


 先端に刃のついた先程よりも重さのある武器を手渡された。


 さっきより持ちやすい気がするけれど……これもなんだか違う気がする。


 やはり言葉を濁しながらはかるは言葉を選んで伝える。


「さっきの武器よりはこっちの方が持ちやすいんですが……」

「ほうほう。ならこれかの?」


 そう言って手渡された武器は、はるかと同じぐらいの背丈の杖のような槍に見える形状をしていた。


 持った感じはとてもしっくりくる。

 だけれど——


 何かが足りない。


 はるかは直感でそう感じた。


「ん? ハルカさん、何か感じたかの? 教えておくれ」

「えっと……」


 まだ冒険にすら出てもいない私が何か言ってもいいのだろうか?


 そんな思いがはるかの口を重くさせた。

 そして急にカイルから声がかけられた。


「大丈夫だ。思ったままを口にしろ」


 それに賛同するようにセドリックさんも言葉を続けた。


「そうじゃ。何も遠慮は要らん。その感じた事がハルカさんだけの武器を見つける手掛かりになるんじゃ」


 2人から力強く後押しされ、はるかは感じた事をそっと口にしてみた。


「あの……うまく言えないんですが……何かが足りない気がして……。手によく馴染んではいるんですけれど……」


 それを聞いたセドリックさんがすぐに動いた。


「少し待っておれ」


 そう言い残してカウンターの後ろへ歩いて行くと、その奥にある扉の向こう側へと消えていった。


 そんなセドリックさんを見送りながらはるかはカイルと2人きりになった瞬間、気になった事を思い切って聞いてみた。


「あのさ……私、何か変な事言っちゃったかな?」


 武器はすぐに決まるものだと思っていた。

 だからこのやり取りだけでも迷惑をかけている気がして、はるかはそんな事を聞いてしまった。


「何を気にしてんだ? こんなやり取りは普通だ。むしろもっと色々言っていい」


 不思議そうなカイルから心強い返事が返ってきた。


「なんかね、自分に合った武器ってすぐに見つかるんだろうなって思ってて。武器の種類まで選んでもらってるのに情けないなぁって……」


 それでも納得できなかったはるかは必要以上に自分を落としていく。

 そこへカイルの言葉が止めに入った。


「すぐ見つかる奴もいれば、何日もかかる奴もいる。色々な人間がいるんだから気にするな。自分が選ぶ事に意味がある。それ以上でもそれ以下でもない」


 きっぱりと言い切られ、はるかのモヤモヤとしていた気持ちは薄れていった。

 自然と気持ちが前向きになり、はるかはカイルへお礼を告げる。


「うん、そうだね。ありがとう! カイルの言葉ってとってもわかりやすいから、すぐ納得できたよ」

「それならよかった。それにな——表に出ている武器は見本だ。ハルカの手と魔法と感じた事から、セドリックオススメの本命が出てくるぞ」

「えっ!? この沢山ある武器が見本なの?」


 はるかは驚きながら尋ねた。


 周りを少しだけ見回しただけでも数々の武器がある。

 てっきりみんなこの中から決めるものだと思っていた。


「この見本を選ぶ奴も、もちろんいる。要は相性だな。全ての物には意思がある。その相性を見抜くのが得意なのがセドリックだ」


 はるかの疑問に対して、カイルはわかりやすく説明を続けてくれた。


「はぁ〜……。凄すぎて言葉が出てこない」

「初めからセドリックが選んでくれる武器を使えるのは運が良いな。俺もどんな武器が出てくるのか楽しみだ」


 そんな会話を楽しみつつ、これからの新たな出会いにはるかの胸が高鳴った。

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