第27話 心と向き合う時間
なんとか、泣かずに伝えられた。
なんとか、震える声で言い切れた。
なんとか……両親がもういない事と向き合えた。
もう両親がいない事実を自分の口から伝えた事によって……その現実と向き合えた気がした。
だからといって、平気なわけじゃない。
胸が苦しくて、痛くて、呼吸が浅くなる。
もう私を無条件に受け入れてくれる存在はいなくて——
本当に1人ぼっちになってしまった現実が、急に怖くなった。
徐々に感じた事のない恐怖が心を埋め尽くしていく。
はるかは目を閉じ、俯き、涙が流れないように必死に歯を食いしばってその感情に耐えていた。
そんなはるかを急に何かが優しく包み込んだ。
「俺に泣いている姿を見られたくないのか? こうすれば俺は見えない。だから無理はするな。それに……ハルカは両親の死に対して、ちゃんと泣けたのか?」
いつの間にか抱きしめられていたようで、凄く近くでカイルの優しい声が聞こえた。
そして壊れ物を触るように、頭をゆっくりと優しく撫でられているのがわかった。
「泣けていないのなら、今、ちゃんと泣いておけ。今の自分の気持ちを置き去りにするな」
なおもカイルは優しく話しかけてくるが、はっきりとその言葉を言い切った。
あぁ……まったくカイルには敵わない。
なんでこの人はこんなにも私に寄り添ってくれるのだろうか。
もう話す事が出来なくて小さく頷く事しかできない事を少しだけ申し訳なく思いながらも、はるかはカイルの厚意に甘えた。
そしてぽつりとぽつりとカイルが自身の事を話し始めた。
「俺も両親を……家族を……仲間を、ある奴らに殺された。その時俺は、うまく泣けなかった。それだけが……今は心残りなのかもしれない。だからハルカは泣けるうちに泣いておけ」
改めてカイルから口にされる真実。
いつか話してくれる日が来るとは思っていたけれど、まさか今話してくれるとは思わなかった。
きっと同じ境遇だから余計に私の事を理解してくれているんだ。
私よりもずっと辛いはずなのに私を慰めてくれる心優しい人。
そしてこの人は……まだその辛い真実の中にいる。
だからこそこんなにも優しい人なのだろう。
だからこそ……1人にしてはいけないと思った。
なぜだかわからないけれど、強くそう感じた。
「それなら……カイルだって辛いはずだよ? 私の事ばかり気にかけちゃだめだよ。もっと自分の事も見てあげて?」
まだ声は震えるが、はるかは抱きしめられたまま小さな声で呟いた。
この距離ならばこの声でも届くと思って気持ちを伝えた。
「俺は……3年前に別れは済ませた。ハルカはついさっきの事で心が追いついていないだろ? 俺の事は気にせず、泣いておけ」
はるかの言葉をちゃんと拾ってくれたカイルはそう答えると、更に深く抱き込んできた。
もう余計な事など考えずに済むように、心地良い腕の中に閉じ込められた。
本当にこの世界は優しい人ばかり。
嬉しくてさらに涙が溢れた。
この時、はるかは本気でそう思っていた。
そう遠くない未来で私は今日の事を鮮明に思い出す日が来る。
光あるところに闇は必ず存在するように、人には表と裏がある。
その事を——
身をもって知る、その時に。
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