第10話 お勉強の時間です

 カイルは常連みたいでさほど手続きをせず、はるかはすんなりと宿に通してもらえた。


 ただし、同室。


 本当の親戚なら同室でもわかるけれど、私達数時間前に出会ったばかりの異性なんですが?

 お金を持っていない私が言うのも何だけど……普通は別室にするよね?

 もしかしてこれは異性とみなされていないのかな!?

 それなら安心なんだろうけど……なんだかそれもそれでイラッとする。


 複雑な乙女心と1人で葛藤していたはるかは気分を落ち着ける為、椅子に座り直してお茶を飲んだ。


 優しい香りと口の中にほのかに広がる甘いハーブティーのお陰で、はるかは少しだけ落ち着きを取り戻した。


「お茶とお菓子を用意してくれた事には異性に対する優しさを感じるんだけどなぁ」


 そんな独り言を呟きながらカイルに対しての感想を漏らした。


 そのタイミングで扉が開く。


「待たせたな。不都合はなかったか?」

「お帰り。全然待ってないよ。のんびりお茶してた」


 また変な事を考えていた事を悟られないようにはるかは自然に話す事を意識した。


「そうか。それなら早速で悪いが、色々と話すとするか」


 カイルはそう言いながらはるかのいるテーブルまで歩いてくると、向かいに座りながら何かを小さく呟き、指をパチンと鳴らした。


「声が漏れないように防音壁を張ったから好きに話してくれ」


 これ、魔法だよね?

 やっぱり簡単に使えるんだ。


 そう思ったはるかはまず、魔法について聞いてみた。


「えーっとね、私はこの世界の事、まるっきりわからないんだよね。それに魔法ってどう使うの?」

「そ、そこからなのか? ハルカの世界の魔法は使い方が違うのか?」


 戸惑うカイルから質問され、はるか少しだけ考えた。


「うーんと……私の世界に魔法は存在していなくて、機械っていう道具が魔法みたいな事をできるようにしていた……って言ったらわかるかな?」


 あまり上手く言葉にする事ができなくてはるかはもどかしさを覚えた。

 しかしカイルには何となく伝わったみたいで、目を輝かせながらこちらを見てきた。


「それがハルカの世界での魔法だろ。その『キカイ』って道具で魔法みたいな事ができるなんて凄い事だな!」


 思った以上にカイルが興奮気味話すのではるかもなんだか嬉しくなった。


「私の世界の機械を魔法って言ってくれて嬉しいな! でも私からすればこの世界の魔法の方が凄いと思う。私でもすぐに使えるの?」


 そう話しかけた瞬間、カイルの表現が曇った。


「カイル?」


 その表情を見て少しだけ不安になったはるかは彼の名前を呼んでみた。


「……悪い、少しだけ考え事をしていた。魔法を知らないのなら属性から説明するか」


 そう言って元の表情に戻ったカイルから魔法の説明が始まった。


「まず6種類の属性がある。赤、青、黄、緑、白、黒と色分けされているんだが、大体の想像はつくか?」


 そう問われてはるかはすぐに想像できた事を伝える。


「火、水、土、風、光、闇で合ってる?」

「おっ? 話が早いな。生まれ持った得意な属性があって自分だけの魔法が存在する。まぁこの辺りは同じ属性の奴を見ていると見つけられる事が多いかもな」


 そう言い切って、少しだけ黙ったカイルがゆっくりと話し始める。


「俺の場合は風なんだが、凄い奴は天候を意のままに操れたりする。俺はそこまで出来ないが別の事が出来る。得意な事がわかると、そこから更に魔法の種類は増やしていける。ここまでは大丈夫か?」

「大丈夫」


 この辺りの説明はゲームを想像しながら聞いていたのではるかはすぐに理解ができた。

 そしてカイルはようやく本題へ入った。


「よし、それじゃ続けるな。ハルカが魔法を使うならその髪の色と目の色からすると、闇。黒の魔法が得意なはずだ」


『黒だから白の魔法は苦手なのか?』


 ふと、怪我を治してもらった時のカイルの言葉が浮かんだ。


 黒とか白とか言っていたのって、この髪と目を見ての事だったんだ。


 そう納得したはるかは考えた事を質問をする。


「魔法の属性って髪の色と目の色でわかるの?」

「そうだ。皆、髪や目に属性の色が合わさっているから見たらわかるな」

「カイルは目も髪も黒っぽい緑色だけれど、鮮やかな緑色の人もいるって事?」


 はるかは先程町中で見つけられなかった金髪碧眼の存在を確認するべく、期待を込めて聞いてみた。


「そこまで鮮やかなのはいなんいんじゃないか? 少し強めに色が出ている奴なんて稀な存在だしな。普通は黒みのある緑やら赤って感じだぞ?」


 この言葉を聞いてはるかは身を乗り出した。


「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど、もしかして金髪碧眼みたいな人っていないの!?」


 そのはるかの勢いに押されたようにカイルはたじろぎながら質問を返してきた。


「ま、まさか……町中で必死に探していたのは……金髪碧眼の奴だったのか?」

「うん」


 はるかの返事に呆れ顔のカイルはため息をついていた。

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