僕は今日も仮面をつける

西条塔夜

第1話 席

 学校は社会の縮図だなんて大人は言うけど学校は社会よりも複雑でめんどくさい。

 社会は上下関係と仲の良い同僚を大切にすれば成り立つ。学校も文面にして表せば同じだ。でも、事はそんな簡単ではない。仲の良い友人をつくっても学年が上がったり、選択科目が違ったりしてクラスが違かったら意味がない。なら、友人なんて必要ないじゃないかと考えたいがそれも違う。学校はボッチに厳しい世界だ。 

「学校は猫を被る場所である。」 小さい頃どこかの本屋で立ち読みをしていた時に見つけた一文だ。猫を被るという言葉を知った瞬間だった。

 その出会いからどのぐらい経った頃だろうか。猫を被るより仮面を着けると言い換えるようになったのは。


 学校で誰かと話していてふと考えることがある。いつになったらこの人は僕の本性を知るのか、それとも知らないまま関係が無くなっていくのだろうかと思うことがここ最近でふえた気がする。

 相手の話に適当な相槌を打ち、時々話しやすそうな話題を振ってあげるだけで仲良く学校生活を送ることができる。 

 おかげさまでクラスでうくことも、はぶかれることもなく入学から半年が過ぎていった。

  

 九月だというのにまだ暑い朝、僕は毛布を頭から被っていた。なぜかといえば二学期の初日だからだ。ベットから出るために心の中で十秒数え、勢いよく飛び起きる。覚悟が決まらない時はいつも十秒という時間で気持ちをつくっているのだ。

 いつ頃からやるようになったのかは、覚えていないが本に出てきた主人公をマネしてはじめたのは覚えている。今もそうだがいろんな本を読んでいた。あの頃はものごとをはっきり言える主人公に強くあこがれていた気がする。

 壁にかけてある、制服をハンガーから外し手に取りパジャマから制服へと着替える。学校指定の紺色のスクールカバンを持ちリビングのある一階に下りていく。


 いつも通りにパンをトースターに入れ、焼けるまでに電気ポットの再加熱ボタンを押し、青い熊が描かれたマグカップの中にインスタントコーヒーの粉末を入れる。ペーパータオルをいつもの定位置に置く。少し経つとパンが焼けたことを知らせる音が鳴るのと同時にパンがトースターから勢いよく飛び出る。 この家のトースターはポップアップトースターなのだ。しかも壊れてるやつ。だから物凄い勢いで飛び出してくるが何年も付き合っているとどこら辺に跳んでくるのか分かるようになってしまった。

  口に焼けたパンを咥え、マグカップにお湯を注ぐ。スプーンで軽くかき混ぜ一口飲む。インスタントらしい甘さが口の中に広がる。パンを食べコーヒーを飲むのを繰り返し、パンを食べ終え少し冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干す。

 ここまでは普段学校のある日と変わらないが今日はここからが少し違う。いつもならあと三十分はくつろいでいられるが今日は家を出なきゃいけない。なぜ早く行かなければならないのかというと、なぜだが学校中の奴らが早く登校する日だからだ。


 短すぎる約一ヵ月の夏休みが終わり、考えるだけで頭痛がしてくる行事が盛りだくさんの二学期が始まる日だというだけで十分憂鬱なのに。

 普段遅刻を当然のようにしている奴らだって今日だけは早い。

 長い休みが明けてクラスメイトに会うのが楽しみと言う理由から早く登校してしまうと聴いたが、全くもって理解できない。

 俺はこの事に関してすごく疑問をもつ。

 長い休み明けは憂鬱になるものだというのに世の中の高校生はどうなっているのか不思議だ。

 学校の前の通りを歩いていると前にも後ろにも同じ校章のはいった制服を着ている人達が学校のある方向に向かて歩いている。

 校門の前に来た時には既に俺は誰にも見破られない仮面を顔に張り付ける。

 下駄箱で上履きに履き替え教室の前にたどり着き教室のドアを開ける。 

 比較的普段から登校するのが早い三人組のクラスメイト達とかるい雑談をして自分の席に向かう。

 席に着きカバンから筆箱などを出しているといつも同じグループで行動している笹井智也ささいともやが話しかけてきた。

 彼と会話をしているうちに、クラスメイトが次々と教室に入って来た。やがて、チャイムがなりガヤガヤしたまま皆がそれぞれの席に戻っていく。

 教室のドアを開ける音と同時に担任が入って来た。

 教卓の後ろに着き口を開く

 「えー、転校生の紹介です」とだるそうに言った。

 今の一言で普段からうるさい教室が更にうるさくなる。

  前の席に座っている笹井が振り返って

 「なあ、美少女が来たらどうするよ」と白い歯を見せながら言ってきた。

 彼は何かと話しかけてくるが適当に返しても問題がないぐらいどうでもいいことを話しかけてくる。

 「美少女は来ねーよ」

と軽く返したそのとき、教室から音が消えた。

 転校生はうつむき加減で教卓の前まで来ると顔を上げる。

 彼女はモデルをしていてもおかしくないぐらいに美人だった。

  琥珀色に近い茶色をした大きな瞳に高い鼻筋。色白の顔は小さく、クリーム色をした髪の毛は背中ぐらいまで伸びていて、癖のないストレートの髪をおろしていた。

 「転校してきた紗川雪乃さがわゆきのです。よろしくお願いします。」

彼女は簡単な挨拶だけ済ませ頭を下げた。彼女が頭を上げると徐々に拍手が鳴り始めやがて教室にいる全員の拍手で迎え入れるかたちとなった。

 「紗川の席持ってくるから静かにしてろよ。一学期から言ってた席がえもするから。」

とだけ言い残し教室を出て行った。

 ドアが閉まるとさっきまでのことを忘れたようにまたガヤガヤしだした。

 この担任の行動で停止していた脳が再び動き出す。

 そして思い出す。この担任の計画性の無さに。

 普通ならあらかじめ席とか用意しとくものじゃないのか。この待たされてる間に彼女が戸惑うことすら想像もできない教師がうちの担任なのだ。

 彼女は前の席の女子たちに質問攻めにあっている。

 これ以上彼女のことを考えるのがだるくなり彼女のことを意識的に考えないようにする。

 やがて席がえがはじまり、カバンを持ち新しい席に向かう。

 新たな席の隣をふと見ると、・・・そこに彼女は座っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る