《第一章》

授業を終えるチャイムは僕にとっての目覚ましだ。席の1番後ろからふと顔を上げると黒板にびっしり書かれた文字。ふと下を見るとしわくちゃになった真っ白なノート。みんなが授業だるいだの、分かりにくいだの、なんか色々言ってるけど僕にはわかりにくい授業だったかどうかも分からない。

ん〜と体を伸ばしはぁ。と力を抜いてまた眠りについた。僕には部活の時間しかこの学校に行く価値がないと思ってる。

僕は美術部。基本的にゆるゆるな美術部は絵を描いてるやつはほぼいなくてみんな好き勝手喋ったり次の日の課題を進めたり、人狼ゲームをしたり、黒板で絵しりとりをしたりしている。顧問の先生は美術経験0。忙しい先生だから部活に顔を出すことは滅多にない。

そんな中僕は美術準備室という素晴らしい場所を発見した。静かに落ち着いて絵が描ける。

そう思っていたのに。

「いいねここ」

そう言って僕の陣地にズカズカ入り込み、絵を描き始めるやつが1人だけ現れた。

泉永遠。

「ここ、僕の場所なんだけど」

「中学校にあなたの場所なんてものがあるの?」

「いや、ないけど...」

「でしょ。だから私も使っていいのよ」

「あそ。好きにしたら」

泉はそうする。と短く返してキャンパスに筆を走らせ始めた。

泉の絵は正直言って上手くない。絵をやっていない人からすれば上手く見えても絵をやっている人間からすればぐちゃぐちゃだ。独創性とかそういうの以前の問題だった。


はっと目を覚ますと担任の先生が帰りのホームルームを始めていた。僕はもう寝すぎて誰にも注意されなくなった。寝てても成績はいいから文句を言うに言えないのかもしれない。

礼をてきとうにすまし、足早に美術準備室へ向かう。キャンパスを立てて椅子に座りイメージするものをそのままキャンパスへ写しこんでいく。この感覚がとても好きで僕は絵を描くのにハマった。気持ちを代弁してくれているような気がして。女子高生がインスタグラムの裏垢かサブ垢かに愚痴を言い散らすのと似た感覚なのかもしれない。言葉に言い表せないものを絵で表現する。筆が走る。スラスラと線を描きポツポツと点が浮かび上がりサッと色が塗られていく。

ガラガラガラ。

手が止まる。最悪だ。この時を邪魔されるのが1番嫌いなんだ。

「またそんな奇妙な絵描いてんの」

「うるさい」

「え、なんで怒ってるの?」

「別に怒ってない」

「怒ってる」

「怒ってない」

「怒ってるよ」

「うるさいな。怒ってないって言ってんだ

ろ」

ガタンと大きな音を立てて立ちあがりイライラをぶつけながら片付ける。

泉がえ、帰っちゃうの?と聞いてくるけど返事はしない。黙って、でも片付ける音はうるさい。ガヤガヤとうるさい美術室を横断して帰る。イライラは止まらない。こんなことでこんなにイライラしている自分にも腹が立ってくる。

それからしばらく僕は部活に顔を出さなかった。

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