第25話 就任祝いパーティーと謂れなき罵倒

 数ヶ月ぶりの里帰りを決めてからは早かった。

 なにせ早く都入りしなくてはならないのだ。かといって不健康体の兄さんをそのまま帰すわけにもいかず、シスの帰った当日から猛攻は始まった。


「お、お前が包丁を握るだと……!? 待ちなさい、菓子作りが上手だったのは覚えているが……腕を疑ってるわけではないが!!」

「これでもしばらく一人暮らしをしていたのだから腕に覚えくらいあります」


 ご飯は作ってもらう側なのでそうケチをつけたことはなかったが、やはり食に関しては日本が一歩上を行く。いわゆる病人食、体に優しいご飯となるとそれなりに気を遣うわけで、他の人の料理を作らねばならない料理長にそこまで頼むのは気が引けた。なにより人のテリトリーに勝手に踏み込むのに遠慮していたわけだが、目的ができてしまった以上は四の五の言ってはいられない。兄さんが心配だ、というそれらしい理由をつけて厨房の一角を占拠すると、兄さんを再び肥えさせるため、夕餉以外の食事を私が用意したのである。


「……美味しい」


 不服そうに言われたのが納得いかないが、結果は兄さんの台詞の通りである。あとはだらだらしているところを散歩に行かせ、エマ先生の薬膳茶を飲ませて日々を過ごしてもらうと、十日くらい経った頃にはなんとか見られる顔色になっていた。回復が早いのは若い証拠なのだろう。


「よし、あとは戻りの六日間で気をつけさせればなんとかいけるわ」

「まさか戻りまで料理を……」

「万が一倒れられて、これ以上厄介事を作られたら困るんです」

「……そんなことしなくても料理人に指示を出せばいいだけだろう、手も荒れるのになぜそんなことをわざわざ……」

「あら、美味しいと食べてもらえる喜びって悪いものじゃないんですよ」


 私のしたことといえば野菜屑をつかってスープを取り、肉の臭みを消しつつ消化が良くなるよう長時間煮込み、油や塩を使いすぎないように味を調整したくらいだが、意外と好評だった。都やコンラート領はましな方だが、地方になると出汁の概念がほぼないからなのだろうか。山奥の村になってくるとスパイスが効いた味気ない豆スープなんていうのはざらで、これが恐ろしいくらいにシンプルな味付けだ。学校時代、口にする経験があったので食べたことがあるのだが、正直、なんだこれとしか形容しようがない味だった。

 料理をすると米が食べたくなるので非常に辛いのだが、ついでに相伴にあずかった伯の胃も回復したそうでエマ先生に喜んでもらえたので良しとしよう。

 突然厨房の一角を占拠された料理長と、おにぎりと味噌汁と醤油を求める私の脳以外は平和だったのではないだろうか。こうなるからあまり料理を作りたくない。

 いま目の前に和定食を出してくれる人がいたのなら喜んで傅くし、なんなら貯めた貯金を放出しても良いくらいだ。 

 米と味噌への愛着と欲求を封印しつつ、着々と出発の準備を調える間に日程も調整した。


「ひとまず私とニコが先に都入り、伯やヘンリック夫人にウェイトリーさんが後発ですね」

「ヘンリック夫人を付けてあげられないのが申し訳ないのだが……」


今回はスウェンに会いに行く目的もあるのでエマ先生やヴェンデルも一緒に来るようだ。ただ、やはり彼女は公式的な場には顔を出せない。寂しくないだろうかと思いもしたのだが、ヴェンデル共々馴染みの店に行く来満々らしかった。


「色々仕入れをしなくちゃならないし、無理せずに行ってらっしゃい。でもあなたは無理をなさってはだめよ。最近は調子も思わしくないのですからね」

「くれぐれも気をつけるよ」

「カレン、スウェンにもこの人のことは伝えてあるけれど、どうか気をつけてあげてね」

「もちろん、出かけている間はお任せください」


 スウェンはコンラート領の正式な跡継ぎかつ兄さんと仲も良いのでお祝いパーティーには出席する。周囲としては私と伯の間に子ができたらその子が……と考えるようだが、もちろんそんな事はあり得ない。従って、私も伯もスウェンが社交場に慣れるようサポートするのだ。

 実際、スウェンが公式にデビューする場として兄さんの当主就任祝いは丁度良いのではないだろうか。


「妹はすっかりスウェンくんを支える気でいますが、社交界のお目見えといえば同じ立場のはずなのですがね……」


 出発前、コンラート家の面々で顔合わせした際に同席した兄さんである。

 椅子にくつろぎながら突っ込まれたものだが、正直、私はスウェンよりは大分気楽である。コンラート領で過ごすうちに、エマ先生と私の仲が悪くないのだと知った兄さんはなかなか複雑そうにしていたが、流石に彼女達の前ではそんな顔は見せない。


「だってとっくに嫁入りしてしまったのだもの。独身の頃ならともかく、そんな注目を浴びる理由はないでしょう。どちらかと言えばエミールの方が、小さなお嬢さんを子供に持つ親御さんからお声がかかるわ」

「言いたいことはわかるけれど、それはそれで複雑な気分だ」


 なお、今回はヘンリック夫人がいないけれど、衣装の仕立ては姉さんにお任せすることになった。本来なら十四、五くらいに華々しく社交場デビューする道を絶たれた妹の衣装を仕立てるのに力を入れている、とのことらしい。

 大変しんどそうであるが、これには拙いながら対策も講じているので、負担は若干ながらも減るはずだ。

 なお、兄さんの就任お祝いの翌日に国王陛下主催の夜会がある。こちらは出席するか個人的に微妙なところだ。

 それというのも、伯が夜会への出席はあまり良い顔をしなかったのだ。誤解がないよう述べておくと、私が夜会に出るのは構わないと言ってくれている。

こちらは里帰りが決まった日の夜にこっそり呼び出され、謝罪されていた。

 

「……本来なら夫である僕も同席しなければならないのだけど……城にはあまり良い思い出がなくてね。どうしても参加できないんだ。私は不調ということで通してほしい」


 伯は隠そうとしていたが、老人の手には元は白かったのであろう布きれが握られていた。まだら模様に染まった赤茶は血液ではないだろうかと推測される。

 理由を問いはしない、無言で頭を垂れて了解の意を示した。


「私に連なる噂が良いものばかりではないとご存知でしょうに、兄さんの就任祝いに同席してくださるだけでも充分です。その後は家族水入らずでゆっくり休んでください」

「…………すまないね」


 そういうわけだから、もしパートナーが必要なら丁度相手のいない兄さんを選ぶ気でいる。ただ前日の就任祝い、キルステンと懇意にしているローデンヴァルトが顔を出さないはずがないので、ライナルトからエルの情報を聞き出せたのならサボってもいいかなあと考えている。

 着飾るのが嫌いなわけではないが、それは就任祝いで欲を満たせる。誤解されがちだけれど、私は基本お家大好き引きこもり万歳の二週間くらい閉じこもりっぱなしも平気なインドア派である。コンラート領に来てからこちら、猟師のお手伝い等で外に出っぱなしだが、それらすべて仕事だと割り切っているだけだ。

 それに兄さんも姉さんも絶対に誰かに声をかけられるだろうから、一人にされるのは目に見えている。さらに……兄さんは失念しているが、私は夜会に関わる大事な話をしていない。


「伯がいてくれるのならまだ誤魔化しようがあるけど、いないのではね……」

「奥様、なにか言いましたぁ?」

「なんにもー」


 そういうわけで兄さんは僅かながらも健康を取り戻し、妹を連れ無事帰還を果たしたわけである。

 都入りの後だが、私はキルステンに泊まるわけではないので前回と同じくコンラート伯邸へ。到着を待ってくれていたスウェンと合流し、小休止を挟んだところでサブロヴァ夫人の屋敷へ足を向けたのである。

 その際だが、怖じ気づくニコを今度は連れて行った。本人、てっきり留守番だと思っていたらしくたいそう慌てふためいたものだ。だが私の計画にはこの子が必要なのだ。

 理由はすぐにわかる。

 屋敷に到着後、熱烈な抱擁で歓迎されると、早速色とりどりの生地と宝飾類が並んだ部屋に放り込まれた。ここから覚悟を決めてデザインがどうだこうだと相談タイムに入るわけなのだが、その前に傍にいたニコの肩を掴んで姉さんを呼ぶのである。


「姉さん姉さん」

「なぁに? あなたからなにか装飾の希望でもあったかしら」

「そうじゃないの、ちょっとね、昼会の分はこの子のも見繕ってくださいな。もちろん、頭からつま先まで全部でお願い」


 えっ、と隣でニコが振り向いたのがわかる。当然、そちらの方には目を合わせない。

 要は一人でも多く道づれにして注目を分散すればいいのである。


「その子……って、使用人よね?」


 姉さんは無論、職人まで疑問顔だ。そこで姉さんを一時的に連れ出してこう語る。


「カレン、あなたなにを考えてるの?」

「あの子ね、私の使用人だけどとてもいい子なのよ」

「あなたが連れているのだもの。気に入っているというのはわかるのだけど……」

「そしてね、伯の息子であるスウェンの幼馴染みで、二人はとっても仲がいいの」


 お、ちょっと興味ありげな反応を示した。やっぱりこの手の話題が好きだと思ったのだ。

 姉さんの趣味と私の苦労を減らしたい一心と……それぞれの思惑は絡むものの、ニコやスウェンにとって悪くない話だと思うのだ。

 本人達、周囲にはそうと気付かれないように振る舞っているが、前回の都訪問以来、どことなく互いを強く気にかけている様子がある。スウェンは家族を差し置いて彼女にだけはまめに手紙を書いているし、その返事のため、ニコも綺麗な文字を書きたいと教わりに来た。二人は恋にまで発展している様子はないし、私からも強く言うつもりはない。

 けれど以前の衣装合わせの際もだが、輝かしい装飾品と衣装を前に少女は羨望を隠せなかったのだ。指先のあかぎれを気にしてエマ先生から軟膏を買っているのも知っている。衣装棚に飾られたレース編みを綺麗だなと呟き、恥ずかしそうに俯く姿は心が揺さぶられた。

 

「着てみる、って聞いても辞退しちゃうし。私の我が儘になってしまうけど、気になる男の子のお披露目だもの。こういう時くらいは一緒に着飾って、思い出を作ってみても罰は当たらないんじゃないかしら」

 

 使用人としての立場を考えればニコの遠慮は当たり前で、だから騙し討ちという形で連れてきた。

 まあ、これはニコという女の子の人徳が成せる技だ。コンラート領に来て以降、偶然拾った小さな指輪を返却しに来た姿を知っているからこその提案である。

 その指輪、兄さん姉さんから贈られた品の中で一番安く、なくなっても絶対気付かないであろう代物だったが、彼女にとっては価値の高い美しい宝石だ。

 散々葛藤した末に、ほんの少しの罪悪感を抱きながら持ってきたのが顔にありありと描かれていたのだ。

 私は、そういう彼女が好ましいと感じたのである。


「それにたまにはね、私も甘酸っぱい気持ちを味わってみたくて」


 お互い恋もせず嫁いだ身だからだろうか。この言葉が効いたらしく、職人を呼び出しに離れていった。ニコとは二人きりになると、彼女の意志を確認した上で了解を取った。言葉では遠慮していたが、やはりドレスの誘惑には抗いがたいらしい。


「……お金はいりません、か? お給金から引かれたりとか……」

「まー……私、そこまで度量の狭い主人じゃないわよ」



 なにせお金なら有り余るほど持っている。


「でも、そうね。もし気が引けるのなら、コンラート領に戻ってからでいいの。おやつの時間、林檎の砂糖煮を多めに融通してくれない? 夫人はほら、普段はけちってたくさん用意してくれないから」

 

 私がヘンリック夫人のジャムを気に入っているのがばれているせいか、ジャムは大事に保管されている。ちょろまかすことができるのはニコだけだ。

 ジャム泥棒の片棒を担がされたわけだが、こちらの申し出が嘘ではないとわかると、少女は目元を真っ赤にしながら頷いた。


「…………そういうことなら、いいですよぉ」


 無事、取引成立である。

 再度述べておくが、私への注意を逸らす目的もあるので決して善意だけではない。

 何故か乗り気になって出てきた姉さんと服飾職人の注目は無事ニコにも逸れ、私も人の衣装に口だしできる楽なポジションを獲と……もとい以前ほど疲れずに済んだので、企みは無事成功したと言えるのではないだろうか。

 化粧品を揃え、ついでに遅れに遅れていた、コンラート領で受ける予定だった学校の試験を完了させて無事卒業証明を獲得。時間はあっという間にすぎて、兄さんの当主就任祝い当日である。

 着替えを済ませ、無事対面を終えた少年少女の反応に笑顔を禁じ得なかった。


「あら、お顔が真っ赤」

「うるさいな!!」


 すっかり見違えたニコを前に狼狽えるスウェンをからかうのは忘れない。エマ先生も笑顔、ヴェンデルは私と似たような顔をしていたのではないだろうか。

 正装に着替えた伯と並びキルステン家に入った際は注目を浴びてしまったが、そこはもう鉄壁の笑顔だ。社畜時代に鍛えた鋼の営業スマイルである。この点なにより助かったのは、伯を敬愛する気持ちが本物だったことだろう。


「カレン君は今日も綺麗だねえ」

「お姉様達の力添えもありますけれど、それでしたら普段の生活が幸せだからでしょう。良い毎日を過ごさせてもらっていますもの」

「やあ、それは嬉しい言葉だね、おだてても何も出ないよ」

 

 私と伯としては孫を可愛がる祖父くらいの感覚の気持ちだが、スウェンが苦虫をかみつぶしたような表情をしていたのは見逃さなかった。どうか諦めてほしい。そしてギスギスを期待していたらしい赤の他人の方々、なぜそんなに面白くなさそうなのか。

 エミール、まさかの弟であるあなたもである。


「カレン君、僕はきみのお父上とお母上に会ってくるけれど、どうするかね」

「でしたらあたりを散策しております。迷うことはありませんからご安心を」

「そこで迷われてしまったら困るなあ」


 父と母と直接対峙するつもりはないので逃げの一手である。玄関を潜った際は父と目が合ったが、顔色も変えずスルーされたのでその気も失せたのだ。

 今日、キルステンの屋敷は一階の部屋と庭をすべて開放している。給仕に見なれた顔もあったが、誰も彼も忙しそうで声をかけにくい。

 スウェンとニコは大丈夫かと探したが……うん、あれは邪魔したら悪い雰囲気だ。近くには兄さんもおり、主役だというのにちらちらとスウェンの様子を気にかけているから大丈夫だろう。よく見たら近くに正装したアヒムもいる。

 姉さんはー……黒々とした頭髪の男性と楽しそうに会話に興じている。


「……それじゃあちょっと隠れてようかしら」


 グラスに注がれた果実酒を一口流し込み、誰にも聞かれぬようこっそりと呟いた。どうも予想に反して視線を浴びている気がするのだ。

 ……あの目立つ金髪はいないのだろうか。

 一回会場を見回したらすぐにわかりそうなのに、まるで見つからないのである。ローデンヴァルトは出席すると聞いていたから、まだ到着していないのだろうか。

 誰かに捕まる前に逃げてしまおうと背の高い壁草に入り込み、人々の目線から隠れるように側面側から裏庭側へ移動する。この一角は休息できるように木製の長椅子が設置されていて、会場からは見えにくい位置になっているのを知っているのだ。

 客人ならまず足を運びにくい道だ。元家人ならではのルート選択である。

 このまま伯が戻るくらいまで人気の少ない場所で待機させてもらおう。レース編みのドレスの裾を掴んで移動していると、女性のすすり泣きが聞こえてきた。

 一度は放置させてもらおうと思ったのだが、それがどうも聞き覚えのある声なのだ。記憶を辿ると、それが昔よく遊んでくれた従姉妹のマリーの声だと気がついた。


「……マリー?」


 とある一角をのぞき込むと、あろうことか芝生に直接座り込みがっくりと肩を落としていた女性と目が合った。


「カレン……」


 頬を伝うのは滂沱の涙だ。栗色の髪を結わえ、薄い橙色のドレスを着こなしていたが……すっかり化粧は落ちてしまい、目は赤く腫れぼったい。記憶に残る彼女は明るく笑う人だったから、どうしたのと駆け寄った時だった。


「この……よくも……ぬけぬけとっ」


 泣きっ面が般若と転じ立ち上がった。その変化に圧倒され、状況もわからず呆気にとられているとマリーは右手を振りかぶり、こちらを殴ろうとしたところで……。


「あ、ごめん」


 つい一歩下がってしまい盛大に空ぶった。右手がスウィングし、勢い余って倒れかけたマリーだが、キッとこちらを睨み付けると反対の手でパチンと頬を叩かれた。

 ……利き手ではなかったらしく、さほど痛くはなかったがこれには驚かされた。

 普段は垂れ目がちの目元をきつくつり上げ、駄々っ子のように拳で肩や胸を何度も叩かれるからだ。


「え、あ、は?」


 なんでか泣きじゃくっているし、力の方向が定まっていないから弱い拳だが、痛いものは痛い。


「え、あの、マ、マリーさん?」

「この、この、この……!!」


 必死の形相で憎しみいっぱいに睨まれる。待って欲しい、私は彼女に何もした覚えはない。なだめてみようと試みるが、声を出せば出すほど激情を募らせているようだった。


「あなた……あなた、この、この……売女!!」

 

 そしてこの台詞である。

 生まれてこの方、ついぞ投げられたことのない暴言。あまりのことに固まっていると、数人の女性がやってきて、震えるマリーの肩を抱くと彼女を連れて行ってしまったのである。


「マリー、どうか気を落とされないで」

「貴女の責任ではないわ」

「あのような方に関わってはなりませんよ」


 なぜか私が睨まれて、である。

 しばらくわけもわからず立ち尽くしていたのだが……正気に返るにはしばらく時間を必要とした。彼女ら、私を誰かとお間違いではなかろうか。

 いや本当に意味がわからない。もしや私の偽物でも発生したか、ドッペルゲンガーの存在を懸念せねばならないのか悩んでいると、別の人達の話し声が聞こえてきた。慌てて身を隠す先を探すと、建物側面にあたる細道が目に飛び込む。あの道とも呼べないような通路、庭師くらいしか利用しない。

 背後を確認しながら角に飛び込み、隠れた後もしばらく様子を観察する。

 話し込んでいるのは男性のようで、声量を抑える気はないらしく、うっすらとだが声も届いていた。その内容は聞くに堪えないといって差し支えないだろう。「成り上がりがうまくやったものだ」「運が良かっただけの若造」「すぐに失敗して没落する」「姉妹共々老人に取り入った好き者」等、間違っても好意的ではない。


「……ええ、なにかしらあの人達」

 

 聞かなきゃ良かったとうんざりしていると、何故か後ろから声をかけられた。


「お互い気苦労が絶えないようですね」


 聞き覚えのある声だった。

 しかもどうやらそれは探していた人物の声に似ているような気がして振り返ると、見覚えのある金髪が目に飛び込む。


「…………えっ」

 

 壁に背を預け、腕を組んだ姿。珍しく髪を一つに束ねて流している。

 首をこちらに傾けて見下ろす男性は間違いなく私の探し人らしかった。

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