第6話 決着

<千早 日照が息絶えるまであと数時間>

 

 「天照大神……」

 地上に足をつけることはなく、ただ光を放つ少女。その存在はあまりにも異常で、しかしこの世界に恩恵をもたらすことは見て取れた。

 だが、そのようなこと泉輝には知る由もない。どんな恩恵があろうと日照を殺す理由にはならない。なんとしてでも日照を助ける。

 「ならぬ」

 神は冷然たる態度で告げた。まるでこちらの考えなど前世からお見通しであると言わんばかりに。そして、読んだうえで何一つずれのない鋭い神の啓示が行われる。

 「人間。なぜ貴様らが生きているのか知っておるのか。この世界は約1000万年前に滅んでいたはずだった。しかし、人間は世界の危機が訪れるごとに一人の少女を犠牲にして生きながらえてきた。まるで狂気の沙汰だ。少女を生贄として、この我に捧げ、生きてきた。そして今度は千早日照を生贄としてささげられた。ただそれだけのことである。」

 世界を守り続けてきた少女は日照に手を向ける。すると生贄である日照はひとりでに神である少女の前に移動し手や足を拘束された形になる。

 「こやつももう少しで死ぬ。あきらめろ人間」

 

 目の前に救いたかった想い人がいる、ずっと救えなかった人がいる。目の前にいながら遠くにいるように感じた。いつ手を伸ばしても届かない気がした。何回も何回も手を伸ばしてきた。しかし、そのすべてが無意味に終わった。あの頃と何も変わらない。友達をすべて失ってから何も変わらない。日照がいてくれたのに何も


     ”変われない”


 泉輝は崩れ落ちる。

 「泉…輝は…」

 ただ光だけが満たされ、人の活気など何もなくなったこの空間で吐く息としか思えないほどの声が響く。

 泉輝はゆっくりと彼女を見る。


     ”変われるよ”


 そう口が動いた最愛の彼女は目を閉じる。目を閉じ行き場をなくした涙は彼女の頬を濡らしていく。

 「くそがああああああああああああ」

 悲痛な叫びを起こすと同時に周りは真っ赤に染まる。ゆらゆら揺れる神をも殺すその光は秋葉 泉輝を中心に一瞬にして世界のすべてを覆いつくす。

 万年、日の光に覆われてきた世界は今、月光のように赤い光に包まれ、塗り替えられる。

 「人の欲望、リビドーが具現化した形。世界を包むほどのリビドー。しかし、本能に理性を失われたままでは

 世界は赤に包まれた。そして、その赤は世界を維持する力を超え、世界を滅ぼす赤へと変わっていく。血のように鮮明な赤に変わっていく。

 秋葉 泉輝は自我を失い理性を保てない。彼が自我を取り戻さなければ世界は滅びる。


   ”想う人のためなら、自らだって殺してみせてよ――”


 聞こえる。彼女の声が。

 「日…照…」

 新たな世界の裁定者が己によって決断を下す。

 

 


 


 

 

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