第17話
数日後、また新たな悩みを抱えた生徒が何人も現れ、俺はそれらをノートにまとめ、雪乃に提出した。
翌日から早速、雪乃は黒板に文字を書いた。
『
俺が得た情報では、岩島は原のことが好きで、原も岩島のことが好きで、互いに鈍感でそのことに気づいていない様子だった。周囲の友達もそのことを気にかけていて、何かきっかけがあれば、と悩んでいた。雪乃にそのことを伝えると、こんなにも大胆に、そしてはっきりと書いてみせた。きっかけと言えばきっかけだが、少しやり過ぎではないかと思った。
しかしそれは杞憂で、二人はお互いを意識し始め、今週末に二人で映画を観に行く約束をしていた。
それを知った雪乃は、放課後にドヤ顔で俺にピースサインを作ってみせた。
さらに翌日には、クラスでは雪乃の次におとなしい女子生徒である、
『樋口さんは少女漫画コンテストで優秀賞を受賞し、先月発売の少女漫画雑誌に特別読み切りとして受賞作が掲載された』
樋口は新しいクラスに馴染めず、いつも教室の隅っこで一人で弁当を食べている孤独な女子生徒だ。受賞したことを皆に話したいけれど、恥ずかしくて自分では言えない。皆に漫画を読んでほしいけれど、自慢しているようで気が引ける。彼女はそんな悩みを抱えていた。
「樋口さん漫画描いてるの? すごーい」
「私も少女漫画好きなんだ。読ませて」
「サインちょうだい!」
樋口は女子たちに囲まれ戸惑っていたが、時折嬉しそうな笑顔を見せていた。
常に持ち歩いていたのか、鞄の中から少女漫画雑誌を取り出し、樋口は照れ臭そうに掲載されているページを開く。樋口の机の周りには、休み時間のたびに人が集まるようになった。
【私も読みたかったなぁ】と雪乃は放課後、顔を綻ばせながら満足そうに呟いていた。
生徒たちの悩みは尽きない。さらに翌日には、同じクラスの女子に片思い中の
『笹林くんは、大学生の兄のバンドのギタリストとして、来週市内の小さなライブハウスで演奏をする』
笹林の兄のバンドのギターを担当していたメンバーが脱退したらしく、彼が新メンバーとして迎えられたようだった。笹林はライブの日、密かに想いを寄せている内田という女子を誘いたいらしく、けれど勇気がなくて言い出せずにいた。そこでキューピット雪乃が立ち上がった。
さすがに『笹林くんは内田さんに片思いをしている』とは書かなかったようだ。
クラスメイトたちの話題は笹林のバンドのことで持ちきりで、「よかったら皆来てよ」と笹林はどさくさに紛れて内田を誘っていた。
内田は誘いを受けたようで、当日は数人の生徒たちとライブに行くと約束をしていた。笹林は嬉しさのあまり心の中で叫んでいたが、残念ながら彼の恋が実ることはないだろう。何故なら内田の想い人は、以前川原田に浮気の疑いをかけられた武藤だからだ。皮肉なことにライブには、武藤も同行することになっていた。内田は武藤が行くから笹林の誘いを受けた、なんてことは言えない。
【でもさ、武藤くんは他に好きな人いるんだから、笹林くんの頑張り次第では内田さんと結ばれるかもしれないよね】
その日の放課後、両手で頬杖をつきながら雪乃は快活に言った。まるで自分が恋をしているかのように、浮かれた顔をしていた。
武藤は他のクラスの女子に恋をしているようだった。この三人の恋の行方は気になるところだが、俺と雪乃にできることはここまでだ。俺たちはきっかけを作り、軽く背中を押した。あとは笹林次第ということになるのだろう。
この日もドヤ顔を決め込んでいる雪乃に苦笑しながら、先に教室を出た。
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