第17話 修行編17 フリー回収・探査

 デブリのフリー回収クエストに向かうついでにアステロイドベルトで鉱石探査だ。

フリー回収では、撃墜権を設定されたデブリを回収してもいいし、権利が切れたあるいは権利が設定されていないデブリを回収することも有りだ。

とりあえず戦闘の多い宙域を調べる。

当然次元跳躍門ゲートから侵入して来た敵の迎撃戦が多いため次元跳躍門ゲート周辺宙域は戦闘多発地帯だ。

だが次元跳躍門ゲート周辺はその立地により戦闘終了後にデブリは直ぐに回収されてしまう。

そこは回収専門の回収屋達が戦闘中から手ぐすね引いて待っているんだそうだ。

僕の専用艦は紙装甲なので、戦闘に巻き込まれるような危険地帯での回収待ちなんて無理だ。

そうなると自然とデブリが回収しにくいアステロイドベルトで回収することになる。

大きな戦闘がありアステロイドベルトまで敵に侵入された戦闘宙域を扱うべきかもしれない。


 艦の電脳がステーションのデータベースにアクセスして、戦闘記録から宙域を絞る。

条件は1ヶ月以内にアステロイドベルトで行われた大きな戦闘、新着順5ヶ所。

しばらく待つと候補宙域が絞られ、眼前の仮想スクリーンに宙域が色分けと共にナンバリングされる。


「よし、ここから一番近い4番に行ってみよう」


 艦の電脳に伝えると、電脳が管制室とやりとりをし発進許可がでる。

僕は専用艦を4番の宙域に向け発進させた。


『目的宙域に到着します』


 艦の電脳が目的宙域到着を知らせて来る。

宙域に接近すると仮想スクリーンに無数の光点が現れた。

その宙域で作業中の回収艦の数々だった。

誰もが考えることは同じようだ。


「そりゃ人は近場で楽で一番デブリがある所に集まるものさ」


 ここへ新参者が割り込む勇気は持てなかったので、他をあたることにする。


 次は仮想スクリーン上の一番遠い宙域を選ぶ。

遠い=人が少ないは自明の理だろう。

電脳が航路変更を管制室に伝え許可が出る。

僕は専用艦を3番の宙域へ向けた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◆



 ここは遠いためか、ご同業の回収屋は若干少ない。

仮想スクリーンには各艦の専有宙域縄張りが表示されていた。

早い者勝ちでギルドの許容する最大宙域を専有しているようだ。

以前に作業した宙域もギルドクエストで専有されていた宙域だった。

1度に操業できるのはその宙域単位になると艦の電脳が教えてくれる。

操業済み宙域にはグレーの色が被っていて便利だ。

僕も余っている宙域に専有指定をかける。


『おい! そこの作業艇! その宙域は俺が予約済みだ他をあたれ!』


 急に通信が入る。いやいや、一応ギルドの規定を調べたけど、宙域の予約なんてなかったぞ。

これが有名な新人イビリってやつか? それともローカルルールでもあるんだろうか。


『こちら作業艇AKIRA。

すみません、新人なものでギルドの規定しか知らなくて、何か別のルールでもあるんですか?』


 絡まれると面倒なので一応下手に出ておく。


『ああ、新人か。俺達は宙域をX軸方向に直進しながら操業しているんだ。

だから進路上の宙域は譲りあう。おまえも向こうの空いている宙域を直進してこい』


(なるほど、現場の判断で効率的に作業しているんだ)


 確かに交差する航路で操業したら危なくてしょうがない。

納得の行く話だ。ここは素直に従っておこう。下手に出ておいてよかった。


『わかりました。ご指導ありがとうございます』


 よくよく見てみるとグレーの四角柱がいくつも宙域を貫いている。

僕は先ほどの専有指定を外して、空いている始点となる位置の区画を指定しなおす。

中心部へと進む区画は既に取られていて中心部をちょっと掠る端っこの方になった。

僕は右腕のドリルを畳んでマニュピレータを前に出し、左腕の盾を艦首下部にジョイントして両腕を自由にした。

この両腕でデブリを掴むんだからね。


「さあフリー回収開始だ」


 僕は始点に着くと艦を止めてレーダーとセンサーで広域探査をかけてみる。

今回のフリー回収では、無価値のデブリでも装甲板屑は回収対象だ。

前回デブリ掃除をしたのは航路内だったからであり、航路の安全のために掃除の報酬がついていた。

今回のような宙域では報酬なしでデブリを消滅させるモノ好きはいないので、不要なデブリは停滞フィールドに捕まえてもそのまま捨てられ放置される。

となると他の方が操業した後のグレーの宙域でも装甲板屑は回収出来るかもしれないな。


 ただ、デブリを艦体で押しのけて他人の操業宙域に動かすと当然怒られる。

そんなデブリは掃除対象だ。

艦には停滞フィールドという便利なバリアーがあって、低速のデブリなら停滞フィールドに捕まってデブリを押しのけるようなことはない。

ここで捕まえた低速デブリを仕分けて格納しておく。この中に装甲板屑が含まれているからね。

だが僕の専用艦に搭載されている停滞フィールドG型はそんなに高性能ではない。

相対速度が停滞フィールドの性能を上回れば、デブリを押しのけてしまう。

よってあまり速度を上げるわけにはいかないのだ。


 艦の電脳に指示して価値のあるデブリと進路上の邪魔になるデブリを色分けさせリアル映像に被せる。

価値のあるデブリは握って回収。弾きそうな不要物はレーザーで原子に分解する。

この時、射線上に他の艦がいないかどうか気を使う。

ついでに宙域に点在する小惑星をセンサーで探査する。

僕の専用艦は対艦レーダーS型を搭載している。

これは対艦レーダーという名前だが、各種センサーを含めた複合探知機器のパッケージだ。

射撃補正装置も含むし、小惑星の非破壊資源探査も可能なセンサーだって持っているのだ。

まあ今はエネルギースロットが足りなくてC型相当にダウングレード中だが……。

そんなセンサーと電脳のおかげで効率よく作業をしつつ直進すると、一区画目が終わってしまった。

次の予約済み区画を専有指定して進んで行く。


「サクっと終わらせて中心近くに進行しよう」



◇ ◇ ◇ ◆ ◇



 とうとう区画を縦断し宙域の端まで来てしまった。

どうやら中心地点で敵艦が轟沈爆散した宙域だったようだ。

中心近くこそデブリが濃くて美味しいが、そこは当然先に来ていた回収屋さんがその中心に向かう区画に陣取っている。

僕はそこを掠る程度の位置しか区画を押さえられない。

中心地点は美味しいが、少し外れると装甲板屑ぐらいしか回収出来ない。

しかもデブリが薄くて数も多くない。おそらく大部分は拡散済みなんだろう。

手間と時間がかかっただけだった。


 僕はゆっくり操業済みのグレー区画の宙域を通って始点まで戻る。

区画が操業済みでデブリを押しのけてもいないので誰からも文句が出ない。

だが停滞フィールドにはゴミ扱いで無視された装甲板屑が大量に捕まっていた。

よしよし、計画通りだ。


 僕は新たな区画の始点を専有指定して進み始めた。

そこは中心に近いが小惑星が航路上に陣取り、邪魔で操業しにくいコースだった。

僕はレーダーとセンサーで区画を探査してみた。

まさかの当たりだ。デブリが多い。

邪魔な小惑星が見た目以上に重力が大きいのだろう。

デブリが小惑星表面に吸い付けられている。

どうやら他の回収屋さんは僕の専用艦ほどセンサーが優秀じゃないらしい。

なので小惑星のある面倒な区画としてここがスルーされたのだろう。

これはラッキーだ。

この直線区画はローカルルールで僕が占有出来る。

僕は嬉々として専用艦を回収作業に従事させた。


 とうとう小惑星が目の前に来た。

小惑星内部も非破壊探査機器で組成を探る。

まさか鉱石の塊だった。


「こ、これは!」


 間違いない。

なるほど、重金属の塊だから小さくても重力が大きかったんだ。

しかも採取登録が未登録の小惑星だ。


『行政府へ! 座標☓☓◯◯△△の小惑星を八重樫晶羅やえがしあきらの名前で採取登録してくれ』


『行政府より。登録料1万Gを口座より引き落としますので確認願います』


 目の前に仮想スクリーンが展開し登録料引き落としの確認が表示される。

直ぐにYESをポチる。


『登録完了です』


 やった。小さいけど埋蔵量で言ったらかなりの大きさの鉱石小惑星を手に入れたぞ。

明日からドリルで掘りまくりだ!

とりあえず、今日は小惑星表面のデブリと先の区画のデブリを回収しとこう。

次の作業はノリノリで捗った。

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