第5.5話 閑話・過去 研究室

 長かった。ずっと苦労の連続だった。

あの御方おんかたの血筋を守るため、現地人のDNAを弄り、健康な肉体を手に入れるまでは簡単だった。

だが、DNAと紐づく精神のDNAが機能不全に陥るとは想定外だった。


 我々は、この惑星に降り立ってより、現地人に成りすまし、長きに渡る研究を行って来た。

現地人のDNAに手を加え御子の素体となるように導いてきた結果、やっと成功を手に入れた。

錬金術士だ魔女だと言われ迫害され倒れて行った仲間たちの仕事が実ったのだ。

私達夫婦はこの東の島国に渡り、隠れ、生き残ったため、なんとか成果を出すことが出来たにすぎない。


 産まれた姫は、今の所順調に成長している。

だがまだだ。

このままでは奴らに対抗することは出来ない。

奴らの手に***がある限り、我々に勝ち目はない。

男子が必要だ。あの御方の力を引き継げる男子が。

肉体的には姫様で完成の域に達した。

だが男子の遺伝子を加えると精神のDNAが崩れる。

あと一歩まで来ているのに最後のピースが嵌らない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◆



 姫様の成功から9年が経った。

やっとここに我らの皇子を、あの御方の御子を誕生させることが出来た。

これからは姫様を娘、花蓮かれんとし、御子様を息子、晶羅あきらとし、私達夫婦の子供達、9歳離れた姉弟双子として表舞台で生きて行く。


 時が来るまで奴らに見つかり正体を悟られてはいけない。

そのため現地人として同化する必要があるのだ。

奴らの手に精神のDNAの秘密を渡してはならない。

あの御方の力、戦艦いくさぶねの****を奪われてはならない。

なんとしてでも晶羅あきら様にちからを……。



◇ ◇ ◇ ◆ ◇



 お二人の御子は順調に成長している。

だが、私達が設置したハブ次元跳躍門ゲートを使い、既に奴らがこの惑星に手を伸ばして来ていた。

迂闊だった。まさかこのシステムが乗っ取られるなんて。

奴らはハブ次元跳躍門ゲートの使用権限を持っていなかったのに。

このハブ次元跳躍門ゲートだけは別次元の平行世界に設置された特別製で見つかるはずが無かったのに。

我らの同胞に裏切り者がいるのかもしれない。


 奴らは花蓮かれん様が産まれる以前からこの惑星に来ていた。

私達は目立ちすぎる。

奴らの工作員に見つかれば、私達がこの惑星の生物ではないと見破られるだろう。


 我らはこの惑星を出て仲間を探す旅に出なければならない。

その旅の目的地は奴らの支配する宇宙であり、死地に向かうものになりかねない。

お二人の御子を連れて行くわけにはいかない。


 私達夫婦は死んだことにして旅立とう。

事故死にすれば姉弟に十分幸せに生きて行くお金を残せるだろう。

この惑星の人間として私達は研究施設ごと事故にあう。

姉弟の両親はこの世から居なくなる。

奴らの法では他星系の知的生命体に危害を加える事は出来ない。

地球人だと思われていれば手を出せないはずだ。

姉弟に余計な知識を与えなければ、あの御方の御子だとは気付かれないだろう。


 無事に仲間と合流し、時が来れば姉弟を迎えに来よう。

力を得て姉弟を別次元そとへ帰還させなければならない。

一つだけ保険をかけておこう。

この成功例の片割れだけは持ち出そう。



◇ ◇ ◇ ◆ ◆



 おかしい。

遮蔽フィールドに包まれた私達夫婦の艦を奴らは見つけられないはずだった。

なぜ迎撃艦隊が待ちぶせている?

誰が遮蔽フィールドの秘密を漏らしたのか?

秘密が漏れているなら我らの目的も露見しているのか?

幸いハブ次元跳躍門ゲートの制御権は有効だった。

私達夫婦の艦は間一髪でハブ次元跳躍門ゲートの境界面に突入すると次元を越えて旅立った。

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