第5話 修行編5 専用艦竣工

「終わったかにゃ?」


 ミーナが講習室に顔を出した。

僕達は帰り支度も終わり部屋を出るところだった。


「みんにゃまだ居て良かったにゃ」


 ミーナは僕らが帰る寸前に間に合ったことで胸を撫で下ろしている。


「みんにゃの専用艦が竣工したにゃ。各自受領手続きをするにゃ。

とりあえず腕輪で専用艦が見れるにゃ」


 ミーナの指示で腕輪を操作し仮想スクリーンを広げると、竣工した専用艦の映像を見ることが出来た。

そこには横から見た宇宙艦の映像と各種諸元が表示されていた。

30m級の艦体に2腕装備。

艦体上面には小さな艦橋と大きなレーダーに通信アンテナ、武装として対宙対デブリ用10cmレーザー単装2基2門が。

同じレーザーが両舷にも単装1基1門づつ。以上だった。


「武装がほぼ無い気がするが……」


 ミーナが仮想スクリーンを覗きこむ。

あれ? 脳内に表示されている仮想スクリーンを横から見れるのか?

僕が不思議そうにしているのを見て、ミーナが説明する。


「大丈夫にゃ。管理者権限というやつで見れるにゃ。

今回はミーニャが説明補足する義務があるからにゃ」


 ミーナが諸元を見て言う。


「珍しいにゃ。艦種が『艦隊旗艦』にゃ」


 僕は恐る恐る聞く。


「……これって専用艦として普通なの?」

「普通じゃにゃいにゃ。レア中のレアにゃ」

「でも、単艦戦闘力低すぎないか?」

「あ……。でも、専用艦はゲーマーのDNAやプレイ履歴により適正を判断して艦種が決まるにゃ。

この艦種が晶羅あきら様に最適だとステーションの中央電脳が判断したということにゃ。

だから、晶羅あきら様は仲間を募って艦隊を組めばいいにゃ!」

「いや、SFOここに知り合いはいないし。

プロ契約したての新人の指揮下につくゲーマーなんていないだろ……。

そもそも戦力として仲間にしたいと思うか?」

「……」


 ミーナは苦笑いしか出来なかった。

そこは慰めてくれても……。無言は辛い。

僕以外の5人はそれなりの戦闘力を持つ駆逐艦だったらしい。

僕の専用艦は30mだし作業艇だろう。

僕のプロゲーマーとしての船出は単艦行動ぼっち確定だった。


 みんなには各自専用艦建造ドックへの案内人がやって来た。

僕だけ残されている。たぶん連れて行かれる場所が違うんだ……。

そんな僕の案内はミーナ自身が買って出てくれた。


「特別にゃんだからにゃ?」


 ありがとうミーナ。その気遣いが嬉しかった。

ミーナの案内で専用艦が竣工したドック区へと向かった。

僕があまりに落ち込んでいたからか、その道すがらミーナが慰めてくれた。

ポケットから何かを出して、ちょこちょこ手を動かしながら。


「凄いにゃ! 艦隊旗艦にゃんて星系持ちの大貴族か有名な提督の艦が成長の果てに手にする称号艦種にゃ」

「つまり、こんな初期状態で得るようなものじゃないんでしょ?」

「大丈夫にゃ。そこで融合にゃ。融合で成長させればいいんだにゃ」

「でも、そんなに簡単に武器を手に入れるお金を稼げないぞ。低武装なんだし」

晶羅あきら様は、初心者講習で優秀な成績を収めたにゃ。望みはあるにゃ!」


 それは神視点の演習だったからなんだよ。

でも、ミーナの気持ちがありがたかった。


「そうだね。ありがとう」


 素直に言葉が出た。



「ここにゃ」


 僕をドック格納庫に案内するとミーナはパイロットスーツの入った袋を押し付けると帰って行った。

姉貴が行方不明になって、両親も親戚もいない僕は孤独ぼっちになってしまった。

職業柄、元々姉貴は家を空けることが多かったから今に始まったことではないんだけど。

いきなり高校を退学になった。友達に相談する暇も挨拶も出来ずに次元の彼方に飛ばされてしまった。

SFOに参加すれば会えると思っていた姉貴にも会えない。

最低限の衣食住は保証されていても、娯楽も無い世界で引き込もるわけにもいかない。

たった1日しか接点のないミーナの気遣いが暖かかった。

僕はミーナの気持ちに報いるためにも前向きでいようと心に決めた。



 ドックで専用艦受領の書類にサインをすると、前室に入り待機所のエアロックまで行く。

デカデカと「要パイロットスーツ着用」と書いてある。

ミーナに渡されたパイロットスーツの袋を開ける。

パイロットスーツにはご丁寧に検査済みのタグが付いていて笑う。

服を脱ぎ下着姿になる。パイロットスーツは着てみるとブカブカで着やすい。

しかし手首のスイッチでシュッと縮み、エ◯ァのパイロットスーツみたいに体型に合わせてくれる。

ヘルメットは無いが、頭の後ろに簡易推進機のランドセルと一体になった丸い膨らみがある。

ここに非常時に頭を覆うヘルメットが入っていると昨日ミーナに聞いたばかりだ。

パイロットスーツの入っていた袋に着ていた服を入れる。

袋に帝国語でアキラと刺繍がしてあった。さっき歩いているうちにやったのか!

ミーナの手製刺繍だ。その気遣いが嬉しい。その袋を持って専用艦に向かう。


 エアロックを開ける。グリーンランプでないと開かないというのはお約束。

中に入りハッチを閉めると、反対側のハッチにグリーンランプが点く。

ハッチを開けてチューブに入ってハッチを閉める。

チューブを歩くとグレーのハッチが見える。グリーンランプ。

ハッチを開けて中に入り閉じる。グリーンランプで中のハッチを開け、やっと艦内に入る。

しつこいくらいの安全確認だが、格納庫の外が真空だと思うと必要な手順だ。

事故で格納庫から空気が抜けていたら困るからね。

所謂いわゆる多重の安全確保と言っていい。

だが今後の描写は省略させてもらう。


 艦内通路を歩き、中央制御室CICに入る。

他にクルーはいない。1人で艦を動かすことになる。

その感覚の訓練のためにSFCでMPSコントロラーを使用させたということだ。

僕はズルしてやってないんだけどね。


 CICにはパイロットシートが備え付けてあるだけで、MPSコントローラーは無い。

シートに座るとMPSコントローラーの上位互換である思考制御だと脳に直接伝わってくる。

このCIC全体がセンサーであり、僕の脳がナノマシンを介して艦の電脳と直結しているんだ。

艦名は「AKIRA」にした。旗艦「AKIRA」だ。


「僚艦の無いぼっちだけどな!」


 気を取り直す。


「さあ、それでは発進するか」


 僕の言葉と共に格納庫内の空気が抜けていく。

空気が抜け終わり、前方のハッチが開いていく。

前に見えるのはステーション下方の宇宙。

僕の専用艦の電脳が管制室とやりとりしているのがわかる。


『オールクリア、AKIRA、発進を許可します』


「発進!」


 僕は専用艦に前進を指示イメージする。

僕の合図と共に専用艦の主エンジンが咆哮する。

専用艦はドック格納庫を離れ、宇宙空間へと飛び出す。

派手な進水式も何もなく、AKIRAがドック格納庫から出港した。

目的地である専用格納庫への進路や航路はミーナが設定済みだ。

目の前には仮想スクリーンが展開し、ステーション、味方艦、小惑星の位置が3Dで色分けして表示され、予定航路が図示される。

まるで僕の身体が艦になったような感覚だった。

管制室への航路申告や発進申請は補助電脳がやってくれている。

良い所だけ丸投げ出来て楽だ。だが艦を操るという意味ではダイレクト感が凄い。


「まあ反応速度が早くなければ戦闘なんて出来ないからな」


 ドック格納庫はステーション下部から外へ向けてハッチが開いている。

僕はコースを変えステーションの下部と平行に宇宙空間を進む。

そのままステーションの下を通り抜けAKIRAを専用格納庫前につける。

格納庫のハッチが開く。AKIRAをバックで格納庫に入れる。

格納庫が狭くて中で回頭が出来ないからだ。

この細心な車庫入れも補助電脳が自動でやってくれる。

僕はその様子をアバター映像として見ている。


「それにしても、なんで僕のアバターは女性型なんだ?」


 そういえば古来より艦を女性として扱う文化があったな。

それと同じようなものなのかも。ネカマじゃなければ別にいいか。

改めて艦の諸元を見る。


『AKIRA』

艦種 艦隊旗艦

艦体 全長30m 作業艇型 2腕 **格納庫 (ロック)

主機 熱核反応炉G型(6) 高速推進機G型

兵装 主砲 なし

   副砲 なし

   対宙砲 10cmレーザー単装4基4門

   ミサイル発射管 なし

防御 特殊鋼装甲板

   停滞フィールド(バリヤー)G型

電子兵装 電脳S型 対艦レーダーS型 広域通信機S型 戦術兵器統合制御システムS型

空きエネルギースロット 0

状態 良好?


 AKIRAは指揮特化型で防御力にも乏しく拡張性も皆無。

これじゃ武器を手に入れても搭載出来ない。

とりあえずは艦体の拡張と反応炉の高性能化が目標かな?

武装は買えるということだけど、いったいいくら稼げばいいんだろうか。

そもそもこの艦でどうやって稼ぐ?


「うん。とりあえずは初心者講習を受けよう」


 とりあえず僕は現実逃避することにした。

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