第3話 修行編3 初心者講習1 シイナ様

 翌日、予定の入っていた初心者講習を受けるために行政塔の講習室にやって来た。

今日は新たに専用艦を手に入れることになる航宙士ゲーマーのためのチュートリアルといったところだ。

講習室には男性3人に女性2人、僕を入れて計6人がいて、思い思いの場所に座っている。

ある者は期待に溢れた表情で、ある者は地球に帰れないショックを抱えて悩んでいるようだ。


「みんなそろったな。これより初心者講習を行う」


 入り口から赤い軍服姿の女性が颯爽と入って来た。


「講習期間は7日の予定だ。私は教官のゲーマー名GNシイナだ。以後よろしく」

「「「よろしく」」」

「「よろしくお願いします」」

「……」


 シイナはミーナと同様のジ◯ンっぽい感じの赤色の軍服を着て髪が腰まである長髪グラマーさんだ。

まるで海兵のシ◯マ様のようだ。いやシイナ様だな。年齢はみそじ……。

そう思考した瞬間、殺し屋のような威圧の視線が胸に刺さる。

僕は脂汗を流して思考を変える。年齢は20代(忖度)ぐらいだ。

シイナ様を見ると普通に笑顔だった。良かった。

心を読まれているようだが気のせいだろう。


「まずは諸君も順番に自己紹介だ。本名は言うなよ。ゲーマー名GNでいい」


 シイナ様が自己紹介を促す。


「GNオオイだ」


 オオイは30代、太った体型に脂ぎった中年男性だ。

我が強い感じでシイナ様の指名もないのに一番に自己紹介を始めた。


「GNフォレスト。静まれ俺の右腕……」


 フォレストは10代、絵に描いたような中二病男子だな。

異世界転移と聞いて発症したのだろう。


「キリ……」


 キリは20代、ヤセ型糸目の陰キャラ男子。

さっきシイナ様に挨拶を返さなかったのがこの人。

孤独癖なのか、人見知りなのかは良くわからない。


「GNタンポポです」


 タンポポは20代、地味子ポジションの瓶底眼鏡女子。

僕は嫌いじゃない。眼鏡を外して磨けば美人という典型キャラだと思う。


「GNアキラです」


 席順の流れで僕の番だったので自己紹介する。

オオイとフォレストが僕の顔を見つめて来る。

ああ、これは女性だと思われたな。

まあ、短い付き合いなので誤解させたままスルーする。


「GNアヤメです」


 アヤメは10代、ポニーテールのスポーツ系女子。

おそらく武道を嗜んでいる。

所作がいちいち決まっている。剣術かな?


「じゃあ、キリから右が男子チームで、タンポポより左が女子チームとする。

この後の講習はチーム毎にやるからな」


 ちょっと待ってシイナ様、僕は女子じゃないんだけどな。


「良かった。女の子ばかりで組めて」


 アヤメさんとタンポポさんが会心の笑顔で喜んでる。

はい。どうせ女顔です。女子チームでいいです。

僕は折れた。男の方に混ざっても、まためんどくさいからな。

まあ、初心者講習中だけの短い付き合いだからスルーしておこう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◆



 シイナ様の初心者講習が始まる。


「SFO参加資格を得た諸君は、専用艦を得ることになる。

これから諸君には専用艦を戦いの中で育ててもらいたい。

模擬戦クエストや実地クエストが用意されているのでギルドで受注してくれたまえ。

諸君はSFO運営本部との契約で専用艦を育てることが義務付けられている。

専用艦を育てれば金が入る。そういう仕組だと思ってくれ」


「模擬戦クエストはヴァーチャル・プレイVPとも呼ばれ、仮想空間内で行われる艦隊によるトーナメント戦だ。

ここで勝てば賞金が出る。負けても試合映像が売れれば配当が出る。

仮想現実での戦闘なので艦に被害も出ないしゲーマーは怪我もしない。

安心して戦えることだろう」


「実地クエストはリアル・プレイRPとも呼ばれる所謂いわゆる実戦だ。

安心しろ。初心者は実戦には出さん。

初心者には鉱石やデブリの採取回収クエストが用意されているから、それを受けて装備を充実させろ。

だが初心者向けとはいえ100%安全ではない。

ここでの被害は現実だ。命に係ることを肝に命じておけ」


「次に説明するのはSFCとの違いだ。

SFCが仮想的な実戦で個の力を育てる場だったのに対し、SFOは模擬戦と実戦により艦隊としての力を育てる面が強い。

艦隊を組むと模擬戦クエストを受注出来る。実地クエストでも相互に助け合える。

個の力を上げるのはもちろんだが、艦隊として相互に協力し合うことで、1+1+1を4にも5にもするのが目的だ。

艦隊は最低3艦で組む。上限は無い」


「戦闘映像は模擬戦実戦に関わらずSFOゲームのプレイ映像としてオンデマンド配信される。

その視聴数により航宙士ゲーマーは放映権収入を得ることが出来、eスポーツをしているという言い訳が成立する。

国によってはブックメーカーが賭けの対象にしているそうだぞ」


「そこ! 本人は賭けられないから注意しろよ!」


 オオイのおっさんの目が光ったのをシイナ様が見逃さず注意する。

八百長対策で出場者は関係者も含めて賭けに参加出来ないのは当たり前だろうに。

このおっさん、トラブルメーカーかもしれないな。


「次に敵の存在を説明する。やつらは次元跳躍門ゲートのシステムに割り込んで転移してくる。

次元跳躍門ゲートは恒星間航行用に帝国が設置したものだ。

敵は帝国に反旗を翻す武装集団だと思えばいい。所謂いわゆる政治テロ集団だな。

奴らは勢力圏を広げるために次元跳躍門ゲートのある恒星系を侵略しようとしている。

その防御の要がステーションである。だが、有能な人材が足りない。

そこで地球人の有志に艦を育ててもらい防衛を手助けしてもらおうというのが、我々ステーションがSFOを運営する所以ゆえんだ」


 帝国というと皇帝の独裁だよな。そんな帝国の方が危険じゃないのか?

僕が疑問を頭に浮かべると、シイナ様はまたそれに答えるように話す。


「帝国に侵略の意図はない。あるなら200年は前に侵略が終わっている。

帝国は最果ての太陽系に経済的な魅力を感じていない。

次元跳躍門ゲートを設置維持することだけが目的といっていい。

所謂中継点ハブとして重要だということ以外には興味がないと断言する」


「異星人が侵略を行う理由はなんだと思う?

資源なら他の無人惑星からいくらでも手に入る。

人手ならバイオ技術やAI技術でクローンでもバイオロイドでもいくらでも製造可能だ。

知的生命体であればあるほど、他の知的生命体に手を出す意味を失っていくのだ」


「我々帝国は、地球人の創造力という特異な才能を評価しているが、それを力ずくで手に入れようとは思っていない。

だからこそ地球の才能のある人々には契約で協力を仰ぎ、報酬も支払っているのだ。

侵略だったら契約満了で帰すわけがないだろう」


 あれ? 僕の疑問に答えてくれたぞ。

やっぱり心を読まれてる?

しかし政治テロ集団は侵略して来るんだよね?

目的は帝国自体だということなのかな?


「まあ、そんな疑問はSFOで稼げれば吹っ飛んでしまうさ。

では、これより模擬戦クエストの演習を始めよう。

男子チームと女子チームに分かれて、後部にある6つのボックスに入ってくれ。

そいつが艦のCICを模した仮想シミュレーターだ」


 僕らは3対3に分かれてシミュレーターに入っていった。



◇ ◇ ◇ ◆ ◇



 仮想シミュレーターの擬似CICに入りコクピットに座る。

すると目の前に仮想スクリーンが開き演習空間がVR表示される。

そこには3体の武装少女が映っている。

武装少女は顔が僕、アヤメ、タンポポになっている。所謂アバターだ。

艦種はシミュレーターなので全員同じ。

ステーション標準艦D型、通称NPCモブ駆逐艦型になるんだそうだ。

艦の諸元は以下。


『NPC艦D型』

艦種 駆逐艦

艦体 全長100m 駆逐艦型 2腕

主機 熱核反応炉G型(6) 標準推進機B型

兵装 主砲 12cmレールガン単装1基1門 通常弾 40残弾40最大

   副砲 10cm粒子ビーム砲単装2基2門

   対宙砲 5cmレーザー単装2基2門

   ミサイル発射管 D型標準3基3門 最大弾数4×3

防御 耐実体弾特殊鋼装甲板

   耐実体弾耐ビーム盾E型 1

   停滞フィールド(バリヤー)G型

電子兵装 対艦レーダーG型 通信機G型

空きエネルギースロット 0


 エネルギースロットは熱核反応炉G型で6あるが、標準推進機B型で1、12cmレールガンで1、10cm粒子ビーム砲×2で1、5cmレーザー×2で0.5、バリヤーG型で1、対艦レーダーG型で0.5、通信機G型で0.5の合計5.5を使用。

端数の0.5は切り上げで空きエネルギースロットは使用6となり残りは0だ。


 アバターの画像は控えめな部分鎧に右腕にレールガン、左腕に盾、両腰に粒子ビーム砲、両腿にミサイルポッド、背中に小さめなスラスター付きランドセルという出で立ちだ。

あ、この世界の宇宙艦には腕がある。腕に武装や盾を持って使うことが出来る。

それが特徴といってもいい宇宙艦だ。

それがアバター表示だとリアルに武装少女の腕なので違和感なく感じられる。

各アバターに視線を向けると頭の上に下三角と名前が表示される。

目の前が自分、左にアヤメさん、右にタンポポさんという配置だ。

ちなみにこの演習空間の何処かに対戦相手の男子チーム3艦も配置されているはず。

敵艦は見えない。まあ敵が目視出来る距離では始まらないということだ。


「演習空間は小惑星帯。勝利条件は敵の殲滅、或は行動不能、降参とする。

タイムアップで戦闘中止。演習後教官が総評を行う。とりあえずは操艦感覚を掴め。

演習時間は30分。それでは模擬戦開始!」


 シイナ様の合図で模擬戦が始まる。

仮想スクリーンの左上には演習時間がカウントダウンされている。

僕達は対艦レーダーを動かして敵艦を探る。


「とりあえず、男子チームを探そう。デブリの影に気をつけて。

それと二人は得意な分野はある? 僕は指揮担当なんだが」


 敵を策敵しつつチームとしての作戦を打ち合わせる。

僕が指揮担当と言ったのは、SFCをプレイしやっていないからだ。

姉貴のアカウントを奪う形でSFOに加入してしまったので、僕はSFCというゲームを実は未経験なのだ。

直接戦闘の方で何々が得意ですなんて言うわけにはいかない。

せめて兵法を齧った経験を利用して指揮担当になるしかないと思ったのだ。


「私はSFCで後衛の狙撃担当でしたわ」とタンポポさん。

「私は前衛の切り込み役だ」とアヤメさん。

「じゃあ、僕の指揮でいいかな?」

「いいわ」

「かまわないぞ」

「ありがとう。じゃあ、陣形は先頭にアヤメさん、次が僕、殿しんがりにタンポポさんの単従陣で行くよ」

「「了解」」

「あ、”さん”は無しでいいわ」

「私も無しでいい」

「わかった、僕もそうしてくれると助かる」


 僕はアバターに意識を集中するとレールガンと盾を持ち替えるようにイメージする。

単従陣のメリットは前方の敵に対して被弾面積を小さく出来ることだ。

先頭艦が盾を左に持っているならば、続く僕は右に持った方が遭遇戦では対処しやすい。

最悪なのは待ち伏せている敵に無防備な横腹を取られることだ。

それが左右どちらになるかは運次第と言ってもいい。

なので僕は盾を右に持つことにしてリスクを分散したんだ。

いざ戦闘になったら全員が敵側に盾を持ち替えればいい。


 僕達はレーダーで索敵しつつ演習空間を行く。

レーダーには小惑星の岩塊しか映っていない。

おそらく男子チームは待ち伏せを選んだのだろう。


 しばらく進むといかにも艦を隠せる大きさの岩塊に接近した。

アヤメが盾で艦体を隠しつつ慎重に岩塊の裏に回る。

僕はアヤメの後を追いつつ周囲の岩塊を警戒する。敵は無し。通過する。


 その時、珍事アクシデントが起こった。


「ヒャッハーーーーーーーーー! 後ろを取ったぜ!」


 全周波数帯に声が響く。フォレストの声だ。

オープンチャンネルで叫んでいるのに気付いていないようだ……。

まあ岩塊の影から飛び出してきた時点でレーダーに捕まっているんだけどね。

それでも至近距離に詰められての突撃は効果がある。

僕はフォレスト(男アバターだと?!)に向かってミサイル3門全弾を発射して牽制を入れる。

すかさず周囲を見回し、進路変更を指示する。


「10時に回頭! おそらくフォレストは囮だ! 伏兵がいそうな10時の方向の岩塊へ進路変更しつつフォレストを迎撃する!」

「「了解!」」


 岩塊へ進路を向けたのは狙撃から被弾面積を小さくするため。

それと同時にフォレストへの攻撃位置を確保する。

うん。我ながら上手く操艦出来ている。脳波制御様々だな。


「アヤメ、進路の警戒を頼む。タンポポと僕はフォレストを落とす!」


 おそらく前方の岩塊にはオオイのおっさんがいる。一番心配なのはキリさん。

上手く連携がとれているなら決定的瞬間にキリさんがこちらの弱点を突いてくるだろう。


 僕はミサイルを次発装填しつつビーム砲でフォレストを撃ちまくる。

フォレストもSFCの強者だ。艦の扱いは上手い。すかさず盾で防御する。

その隙にタンポポがレールガンを撃ち込む。二艦に狙われるというのはそういうことだ。

NPC艦D型は艦体にビーム防御が無い。ビームは停滞フィールドも抜いて来る。

従って盾で迎撃せざるを得ない。盾を動かせば逆側の艦体側面を無防備に晒すことになる。

そこをタンポポが上手く突いた。レールガンが連射され10発近くぶち込まれる。

停滞フィールドが連続射撃で無力化。艦体に弾が届き、装甲を抉っていく。

装甲にダメージが入る度にアバターの鎧が脱衣していく。男は見たくねー。

哀れフォレスト艦は航行不能判定となった。


「なんであいつ叫んじゃったんだ? 叫ばなければ初撃は取れたろうに」


 結局フォレスト艦は僕が牽制で発射したミサイルの迎撃に追われて初撃を逃し、敢え無くデブリとなった。


「12時に動きは?!」

「今、動いた」


 そう言うなり、アヤメが敵艦にビーム砲を雨あられと打ち込んだ。

隙を突いたつもりの敵艦が慌てている。

こちらのフォレストへの迎撃が早すぎて予定が狂ったのだろう。

しかも緊急回頭で接近中だ。

挟み撃ちにしたつもりが各個撃破の危機に陥ったわけだ。


「全艦ミサイル発射! 飽和攻撃でしとめる!」


 アヤメ、僕、タンポポの3艦から3発づつ、全部で9発のミサイルが発射され、別々の軌道をたどり敵艦に誘導されていく。

NPC艦D型の対宙レーザーは2門だ。しかもミサイルの射点との距離が近い。

回避機動をランダムでとり、レーザーの死角を狙ってミサイル9発が突っ込んで行く。

そのミサイル9発全てを迎撃するにはレーザー2門は力不足だった。

ミサイルが命中。敵艦は撃沈判定となる。やっぱりオオイ艦だった。

だが、予想していたキリさんの介入が無い。


「どうしたんだ? これは?」


 結局、タイムオーバーまでキリさんはみつからなかった。

判定勝ちでも勝ちは勝ちだが完勝ではなかった。残念。

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