第1話 修行編1 白い部屋
僕の狼狽ぶりとは打って変わって男は淡々と言葉を続ける。
『では、そちらに参りますので、しばらくお待ちください』
僕は先程の言葉を思い出して反芻する。
宇宙人による誘拐だとすると、こちらに向かって来るのは宇宙人であるはず。
「やばい、グレイか? タコ型か? 実験動物にされてしまうんだろうか?」
妄想が激しくなり半パニックになる。
しばらくすると白い壁に縦に亀裂が走り、横にスライドして出入口が開く。
アニメやSF映画のシュッと開く宇宙船のドアのようだ。
その開口部から現れたのは人型。金髪碧眼の王子様のような容貌のイケメンで、王族や貴族が着るような装飾てんこ盛りの第一種軍装とも見える白い軍服を着ている。
(まるっきり王子様じゃないか! しかも人間? いや王子型宇宙人かも)
アホなことを考えていると王子が口を開いた。
「初めまして。ここの責任者の
白い歯がキラリと光る会心の笑顔だった。
「まんまやないか!」
僕は突っ込まずにはいられなかった。
プリンスは慣れているのか笑ってスルー。
床からせり出した椅子に座ると経緯の説明を始めた。
「我々はネットによりもたらされたDNAとプレイログを審査し才能のある方々にSFOの参加を打診しています。
そこで参加を表明された方を
その際に転移酔いが発生するため、この部屋で休んでいただいたという次第です。
転移酔いは二度目以降は軽くなり慣れていきますので、意識を失うということはもう無いと思います。
ようこそSFOへ。八重樫さんをSFOのプロゲーマーとして歓迎いたします」
つまりプロゲーマーになるということは間違いないようだ。
ただ問題のひっかかる部分を聞いてみる。
「少し質問してもいいかな。宇宙人とアブダクションがわからないんだけど」
プリンスはうんうんと頷き説明する。
「宇宙人とは私共SFOを管理している地球外生命体のことです。
地球とは別の次元に存在する平行世界の人類にあたります。
そして我々は帝国と呼ばれる国家に所属しています」
「
ここの施設を見たり説明を受けることで翻意される方も居られまして、そういった方は記憶を消して家に戻しているのです。
その方にとって消えた数時間は
「お気づきの事と思いますが、この転移は現在の地球では実現不可能な技術です。
プレイに使用する宇宙戦艦も文明の進んだ
我々は宇宙戦艦の性能強化のため、地球人ゲーマーに宇宙戦艦を預け
だから高額なギャラが出るのです。もちろん守秘義務契約は結んでもらいます。違反者は処…ゲホンゲホン記憶消去のうえ資産没収です」
何か危ないことを言いかけたが黙っておこう。
「つまりSFOというゲームは宇宙人の技術によるリアル宇宙戦艦を使った模擬戦闘であって、VRMMOなんかじゃなかったということか。
ゲーマーは宇宙戦艦を育てることでギャラが発生する。つまり、放映権という話は嘘だった?」
僕はプリンスの目を見据えて返答を促す。
「いいえ、放映権販売による収入も副次的に発生します。育成が苦手な人や自己顕示欲が強い人はそちらで収入を得るのです。
育成は結果を公表する手段がありませんが、放映権は地球で有名になるチャンスですから。
そして模擬戦闘は仮想空間でデータにより行われます」
「じゃあ、リアル宇宙戦艦は何に使うんだ?」
「敵艦の迎撃戦です。他にもデブリ採取の仕事があり、成果の回収物を売ることで収入を得ます。これらが最も高額な収入となるでしょう」
そういえばプロゲーマーのくせに姉貴のプレイ映像を見たことが無かったな。
姉貴は育成や戦闘で稼いでいたのか。苦労かけてごめんな姉貴。
「では、ご契約ということでよろしいですね?」
「うん。契約するよ」
「そう言ってくれると思っていました」
プリンスが渾身の笑みを溢れさせる。
イケメンはずるいな。それだけで好感度を上げられる。
この時僕は後に待ち構えるリスクを知らずに契約書にサインをしてしまった。
「それではこの腕輪をはめていただければご契約成立です」
そして腕輪をはめてしまった。
何の疑いも無しに。
「僕は姉貴と連絡が取りたくてプロゲーマーになったんだけど、姉貴と連絡取れますか?」
「えーと、
「え?」
「彼女は他の星系に行っているので会うには
「それなら、姉貴に生活費を家族口座に入れるようにと伝えるだけでも」
「お金が入用なのですか?」
「はい。切羽詰まってます」
プリンスが不思議そうな顔をしている。
何か変なことを言ったかな?
「ここなら最低限の衣食住は保証されていますが?」
「いや、地球での生活がピンチなんですよ」
「あはは、ご冗談を」
「え?」
「いや、もう契約が成立しているし、タダで地球に帰れるわけないじゃないですか」
「はいぃ?」
「だって、ここは太陽系じゃありませんよ?
帰還は
その後再度
その料金を自己負担いただければ帰れないことはありませんが、お薦めしません」
「なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
僕は宇宙人の技術で
唯一の帰還チャンスを棒に振って契約までしてしまった。
「映像配信で地球とは密接な関係を築いていますから契約期間が満了すれば帰れますよ。
あくまでもSFOはeスポーツであるというスタンスですから、プロゲーマーが地球に帰還しなければ拙いですからね。
契約期間満了後は、守秘義務さえ守っていただければ地球に帰れます」
「その契約期間は?」
「3年になってますね」
はい、3年の異
物理的に帰れないし。
「それでは腕輪の機能を説明いたしましょう」
プリンスが自分の腕に嵌められた金属製の腕輪をポンポンと叩く。
「ここはビギニ星系の惑星ビギニ3とビギニ4の間のアステロイドベルト軌道内縁にある要塞艦通称ステーションの内部です。
この内部ではこの腕輪をキーとしてステーション内各機関の転送ポートと自宅間を自由に転移出来ます。
自宅は格納庫兼住居をこちらで用意します。これは
地球とは異なる次元の平行世界の星系ですので、時空間的に直接繋がっていないので定義上は異世界という扱いになります」
おそらくスタート◯ックの転送装置と同じような感じか。
機能が自宅まで限定となるとあまり使い勝手は良くないかもしれない。
他にも会話を拾って守秘義務違反を監視するぐらいはしているだろう。
「他には通信機能に電子マネーのカード機能、情報検索の端末としても使えます。
この腕輪は契約解除後も付けていただきます。
守秘義務を守っていただくためだとご理解ください」
やはりか。
「それは仕方ないね」
「ありがとうございます」
僕が理解を示すとプリンスはこれでもかというイケメン
「ところで
腕輪から空間に表示されたスクリーンに映った資料を見てプリンスが困惑顔で聞いて来た。
ああ、いつものあれだ。
「姉貴と僕は
ただし、僕の方には
ああ、嫌なことを思い出してしまった。
あの壮絶なバッシングは幼い心にも響いたな。
僕は遺伝子実験の化け物なんかじゃないぞ。
姉貴共々の辛い逃亡生活は僕にトラウマを植え付けていた。
僕が人間不信でぼっち気味なのも、女性にやたら甘えたくなるのも、性別不詳を装うのもここに原因があるのかもしれない。
プリンスは怪訝な表情を見せたが、僕の説明を理解したようで、それ以上は何も触れて来なかった。
「申し訳ありませんが、DNAを再提供していただいてもよろしいですか?」
「かまわないよ」
僕がそう言うとプリンスは腕輪の通信機能を使って助手を呼んだ。
壁がシュッと開き女性が採取キットを片手に入ってくる。
「こちらは助手のGNミーナです。彼女に晶羅様のDNAを採取してもらいます」
僕はミーナの猫耳に驚く。ピコピコと動いていて本物だとわかる。
ミーナは外観は人と全く同じ美少女で、肩で揃えたショートの白髮に蒼い目をしている。
胸は大きくも小さくもない普通だが、スタイルは程よく筋肉質でバランスがとれている。
白色の三角の耳が頭の上に立っていて、お尻からは長い同色の尻尾が揺れている。
露出している肌は毛深くなく普通の人類と同じ感じで、耳と尻尾だけ白い毛に覆われている。
服装は軍服よりのデザインで長袖ミニ。オリーブ色で材質はスペースジャケットみたいな光沢のある感じだ。
ガン◯ムのジ◯ン軍制服(女性用)みたいと言えばわかりやすいだろうか。
獣人。いやネコ型宇宙人か!
僕はポカンと口を開けてしまっていた。
「ミーニャにゃ。口を開けるにゃ。ってもう開けてるにゃ」
ミーナの手が素早く動き僕の口腔内に綿棒を突っこむと頬の内側を軽くこする。
「終わりにゃ」
ミーナの早業でDNA採取が終わる。
プリンスがミーナを連れまた退出する。
「これは一大事かもしれない」
去り際のプリンスの独り言が微かに耳に入った。
小一時間待つとプリンスが恐縮した顔で現れた。ミーナも連れている。
「お待たせしました。先ほどのDNAは専用艦建造に利用されます。
最初は小型艦ですが、育てることで無限の可能性を秘めています。
是非とも高性能艦に育ててあげてください。
専用艦は晶羅様のDNAによりカスタマイズされますが、初期は機能が限定された小型艦となります。
専用艦は明日にでも竣工するでしょう。
話は変わって
それまではミーナに住居まで案内をさせますのでステーション内の見学がてら向かうといいでしょう。
明日からは初心者講習を入れてありますので参加してください」
そう言うとプリンスは慌ただしく駆けて行った。
「さて、どうするか……」
とりあえずステーションの見学と住居に案内してもらおう。
衣食住は保証されるらしいけど、贅沢するなら稼がないとならないらしい。
もう僕の
3年間ここで暮らすしかない。
いきなり高校を退学になり知り合いも居ない場所に連れて来られた。
姉貴が仕事で家を空けることが多かったこともあり、僕は常にぼっちだった。
せっかく高校で友達が出来たのに、またぼっちになってしまった。
「なんか悲しくなって来たな」
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