第16話 新しい仲間のドワーフ

 顔洗いから戻ってきたネビルガ師匠はにこにことしていた。



「やぁ、君を即座に鑑定してみたが、才能溢れる最高な弟子のようだ」

「それは、ありがたい言葉です」


「じゃ、わしが先程、お主に体験させた事で学ぶ事が出来る習得可能スキルが全てではない事を教えておきたい、あれは最低限度の強さを求める事が出来るスタートだ。ジェイクよそなたは今スタートポイントに立ったのだ」


 ジェイクはその言葉を無言で耳を傾けていた。

 ネビルガ師匠はさらに続ける。



「スキルコンプリートをしたいなら、沢山の事を経験し、沢山の修羅場を潜る事がカギとなろう、ダンジョンを攻略するのもいいし、フィールドボスを討伐するのもいいじゃろう、お主にはネイリという素晴らしい仲間がいるではないか」


 

 ネビルガ師匠が真っ直ぐに告げる。それはつまり。



「短い間じゃったが、お主がわしから学べる事はない」



 ジェイクは唖然としている。

 出会ってまだ数時間、しかし別空間では数日間の間だった。

 そんな短い時間でしか修行もしてないし、会話もしていない。



「だからといってお別れと言う訳ではなく、わしはしばらくここにおるので、相談したい事があれば来るといいじゃろう、あとはお主が修羅場とどう潜って行く事が大事じゃ、時には別な街に行くのもいいじゃろうしな、お主は自由なのじゃ」



 ネビルガ師匠が少し恰好をつけながら話していると。

 扉がゆっくりと開かれてネイリが入ってきた。

 彼女はトウモロコシを摺り潰したスープを持ってきてくれた。


 

 ネビルガ師匠はちびちびと暖かいトウモロコシのスープを飲んでいた。

 ジェイクも思わず飲む事にすると、その美味に驚きを隠せなかった。

 

「では師匠、再びお会いしたい時に参りますのでよろしくお願いします」

「もちろんじゃ」



 その日はとてつもなく濃い数日であった。

 その場でトウモロコシのスープを飲み終わった。ジェイクとネイリは分かれの挨拶をして豪華でド派手な建物から出る事となった。



 2人はその足でモゼス町のトドロキの宿屋に舞い戻ってきた。

 宿屋の女将さんは相変わらずガタイのいい女性だった。



「あらまぁジェイク君にネイリちゃんじゃない、今日の晩御飯はどうするんだい?」

「お任せしますよ」

「あたいもお任せします」


「なら女将のおすすめ定食にしちゃうわね、じゃあ、部屋で休んでなさい」



 女将はジェイクが疲れ果てている事を見破っていた。

 色々とネビルガ師匠に伝授してもらった後。アイテムボックスにガラクタを適当に押し付けられた。中にはゴーレムのような人形もあったが、なぜか起動しなかった。


 

 ガラクタをジェイクに押し付けると、ネビルガ師匠はにかっと笑って扉を閉めた。

 それがネビルガ師匠の最後の姿にならない事を祈っている。



 部屋で2人は寛いでいる。

 ベッドは2つあるので、一緒に寝る事はしない。



「それにしてもネビルガさんはとてもワイルドな方でしたね」

「それは僕も思った。凄くやる事なす事が突然すぎるよ、師匠と弟子の関係になれたと思ったら、即座に追い出されるって」

「でも君、それだけスキルを習得したんだよ、あたいのスキルの数と全然違うし、知らないスキルもある。あなたはもしかしたら最強になれるかもしれない」


「それはそれで嬉しい事ですがね」


「あたいはそろそろダンジョン攻略に手を出してもいいと思うの」

「2人で何とか出来るレベルなのか?」

「それなら最低でも後1人は仲間が欲しいわね」

「この町にはいなさそうだけど」

「夕方の5時くらいに夕食があるから、それを食べ終わったら辺りを歩きましょ」

「暗くならないか?」


「知らない? 今日は一番、太陽が空を支配する時なのよ」

「それは知らなかった」

「夜の11時まで太陽は昇っているの、明日の朝も朝の3時に太陽が再び上るの、だから今日は太陽が支配する時と呼ばれているのよ、または太陽が支配する日とも呼ばれているわ」


「さすが学長様」

「それは昔の話だから、秘密よ」



 ジェイクとネイリが爆笑している。

 2人はちょうど5時くらいになったので、下に降りた。 

 沢山の冒険者に囲まれながら、わいわいとご飯を食べる。

 外に出ると人々はお祭り騒ぎを始めている。


 

 そんな時だった。

 女性達の悲鳴が聞こえる。


 ジェイクは何かモンスターが攻めて着たのかと思った。

 しかしそこにはドワーフの少年が走っていた。

 右手と左手で触れた物が武装解除され素っ裸になる。

 下着一枚どころの話ではなかった。


 子供が見たら教育に問題が出るレベルで見えていた。

 しかもそこらへんの女性ばかりであった。

 女性が次から次へと生まれたばかりの姿になり、悲鳴を上げている。


 ドワーフ少年は下品な笑い声をあげて、武装解除しまくる。


 鑑定を見た結果あのドワーフは武装解除のスキルのSSランクであった。

 てっきりランクはSまでだと思っていた。しかしその上が存在した。


 

 ジェイクは興味本位でそのドワーフを追いかける。



「あのスケベドワーフを捕まえろおおおお」

「俺の嫁に何してんじゃあああああ」

「娘が鳴いているぞ、お前は、お前はああああああ」



 沢山の男性諸君が自分の女性が素っ裸になる姿を見て怒っている。

 しかし彼等は鼻血を出して流血騒ぎになっていた。



「ぎゃああ、鼻血が止まらないいいいい」

「あいつ、やるなああああ」

「ふざけている場合ではないぞ、女性達の体がかかっているのじゃ」



 とか言いながら次から次へと野次馬が表れて、女性達を吟味していた。

 ジェイクは走りながら頭をぽりぽりと掻いている。



「ネイリ先回りできるか」

「任せて」



 ネイリが曲がりくねった道を曲がると、ジェイクはドワーフ少年に追いつく。

 後ろからは沢山の男性陣が走っている訳だ。


 ここでドワーフを捕まえても男性陣にリンチされては意味がない。


 その為にネイリを派遣した。



 ドワーフ少年が右に曲がると。

 即座にジェイクは曲がる。そこでは転ばされたドワーフ少年がいた。彼を背負って近くにあった倉庫に隠れる事にする。



「あいつはどこだあああ。俺の嫁に何したか分かってるのかあああ」

「だけどあの女性とてつもなくおっぱい大きかったね」

「先っちょのあれなんていうの?」

「わしの孫娘になにしとくれとんじゃああ、まだお嫁に行く前じゃぞおおおお」



 沢山の鬼となった男性諸君。

 きっと中には女性の裸を見たくて走っている変態共もいるだろうが。

 それでもそのドワーフ少年はこちらを見て、にひひと笑っていた。



 取り合えず男性諸君がいなくなったので、倉庫から出る事に。



「つーかお前は何してんだ」


 

 拳骨をドワーフ少年に浴びせると。



「でもお兄さんも女性の裸を見たかったんじゃないの?」

「それは、まぁ」

「そこの獣人の女性も裸に出来るよ」

「それはやめておけ殺されるぞ」



「あら? 今不穏な言葉を聞いたのですわ」


「だろ?」

「うん、武装解除したら殺される」



「ったく、なんでこんな事したのさ」

「俺様はこのモゼス町に捨てられたドワーフなんだよ、父親と母親が死んだってさ、預かっていたところの人々が俺様をここに捨てた。だからスキルポイントを貯めまくってスキルを覚えまくったら、武装解除を覚えたからさ、ものはためしとSS級にしたら来ている服を素っ裸に出来る事が判明したんだ。えーい、すげーだろ」


「すげーな」


 

 ジェイクは唖然として聞いていた。

 彼はジェイクのように時間経過でスキルポイントが上昇する訳でもなく。

 ひたすら努力でスキルを習得していった。

 先程鑑定して見た結果。

 普通の冒険者よりさらに強い事が判明する。

 まだ少年だが、15歳は過ぎているだろうし、きっとジェイクより人生の先輩なのだろう。



「なぁ、お前、僕達の仲間にならないか? これから僕らはダンジョンを攻略するつもりなんだが」

「へぇ、楽しそうだな、仲間にしてよ、後さ俺様も冒険者だからよろしく」


 その後は話を進めて行くと、ミナラクもDランク級の冒険者である事が判明した。


 ネイリは新しい仲間が出来て嬉しそうだし。ジェイクもドワーフ少年ではあるが、努力家の彼と冒険をしてみたいと思っていた。



 まだ出会ったばかりで相手の事を少しも理解していないけど。

 これから少しずつ理解していけばいいのだと思っている。



 3人は同じトドロキの宿屋に泊まる事とした。

 案の定裸騒ぎはドワーフだけという情報でしか広まらず、ミナラクに女性全裸犯人疑惑はかけられなかった。なぜなら彼はドワーフでもちゃんとしているという評判であったのだから。



 だからその分、人生を棒に振るような事をしたのが謎で仕方がなかった。

 そして次の日の朝、3人は朝御飯を食べ終わると、冒険者ギルドに向かった。

 ジェイクにとって初めてのダンジョン攻略というものであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る