第4話 賢者ジャック・オ・ランタン誕生

 カボチャの作物が無数に転がっている。

 ここは知恵の王国の外れにある一軒家であった。

 知恵の王国の城壁の内側にそれはある。その一軒家には1つの明かりがついていた。

 その一軒家の主がいなくなってから数年が経つ。

 そこにカボチャの頭をした1人の子供が屋敷の扉を開ける。



 扉には魔法がかけられている。

 その高難易度の魔法を解く事が出来るのはこの世界で賢者しかいない。



 しかし賢者は数年前に処刑されている。

 勇者が勇気の王国で処刑されたように、賢者は知恵の王国で処刑されていた。



 賢者は元々老齢の男性であり、沢山の人々に慕われていた。

 しかし沢山の村で起きた飢饉を賢者のせいにして罪にした。



 結局は賢者の心臓を奪われて、挙句の果てにはその心臓を使って新しい大陸を召喚したようだと賢者は察知していた。



 賢者はこの体に転生したのは運命だと思っている。


 

 ジャック・オ・ランタンに転生した賢者は恨みを晴らさねばならない。


 

 賢者は死んでいる時に沢山の苦行に立たされた。 

 地獄とはシンプルなものではない、そして天界もシンプルなものではない、なぜ賢者が天界も地獄も行く必要があったのか、それは自分達が正しいと思っていた事が悪だったからだ。



 モンスターを討伐する事が正しいと思っていたら。それは違った。

 モンスターにも生活や家族がいる。賢者たちはそれを殺していった。



 だが救われた命もある。


 

 賢者の他の仲間達も天界と地獄を経験しているはずだ。

 そして納得してしまったはずなのだ。


 賢者達がしなくてはいけない事。

 それは人間達を滅ぼす事だった。


 天界の神は言った。このままでは世界のバランスが崩れると。

 地獄の神は言った。全てが崩壊する予兆だと。


 

 なぜこの世界は人間ばかりいるのか?

 エルフもドワーフもリザードマンもその他の種族が沢山いるのに。

 それでも人間が遥かに増えている。それはネズミのようだ。



 普通に生きてくれればいいのに、人間は他の種族を奴隷にしたりする。

 欲に欲を重ねた永遠なる罪。



 ジャック・オ・ランタンである賢者は知っている。

 さらなる欲の為に、7人の心臓を生贄にして新しい大陸を召喚した事を。

 それで人間は終わらない事も知っている。



 1つの事を満たせば次はもっと満たせ。そうやって永遠なるループが続く。


 賢者は結論づけた。この国を亡ぼす必要があると。


 賢者の一軒家には誰も住んでいない。

 あるのは無数の本ばかり、彼は全てを読破していた。

 魔法の道具のスクロールやマジックポイントの回復ポーションなど。

【スモール】という魔法でそれらを小さくすると布袋にしまう。ジャック・オ・ランタンの腰につるす。



 見た目は子供でカボチャの頭をしている。

 問題があるとすれば2つの瞳には炎のような目がある。

 それが目ではないと知ると、モンスターだとばれるだろう。



 畑に落ちていたカボチャが頭になって転生したものだから、びっくり仰天してしまったものだ。思わず土を食べてしまった、とてつもなく不味かった。



 ある程度我が家とも別れる事にした。

 そして始めるのだ。知恵の王国を滅ぼす事。

 それが均衡を保つという事なのだから。



 賢者の判断は勝手かもしれない。

 しかし相手がやった事も勝手な事なのだ。


 賢者は炎で殴られたら炎で殴り返す老人であった。



 場所は知恵の王国の村はずれの一軒家。

 そこから炎のランタンが1つまた1つと出現する。

 ランタンはふわふわと浮きながら国中を巡りつくす。

 眩しすぎる外の風景に気付いた人々は、何事かと家や宿屋や酒場から出てくる。

 兵士達も駐屯所から出てくる。



 彼等は不思議そうに辺りを見渡す。

 ふわふわと浮いている炎のカンテラ。


 

「ぎゃはははこれはなんだよ」


 

 酔っ払いの男性が騒ぎ立てると。


「あまり近づくな、嫌な感じがする」

「兵士さんの勝手な思い込み、これは誰かのイタズラだよ」



 だがカンテラはどんどんと増えて行く。

 人々はより一層気持ち悪がる。

 1人の兵士が掴もうとした。



 触れた瞬間、それは起きた。

 カンテラが爆発したのだ。

 沢山の炎が辺りを包み込む。


 

 兵士が泣き叫びながら全身を燃やしていく。

 炎で燃やし尽くされた兵士の口から何か魂みたいなものが浮いてくる。


 

 人々は訳が分からず。次から次へと炎の餌食となる。

 全身が真っ黒い炎に包まれていく中。

 子供も大人も老人も容赦なく燃やしていく。

 建物すら燃やし尽くしていく。この炎の怖い所は、煙を出すか出さないかコントロール出来る。

 今回は煙を無しにしているので、煙で気絶する事は出来ない。



 全身が赤い炎で燃やし尽くされていく中、人々は逃げ道を失った。


 5分後には知恵の王国の城以外の地区にて人々が燃え盛った。

 


 ジャック・オ・ランタンは【生霊】というスキルを発動させていた。

 そのスキルは生きている生き物を燃やし尽くすと、魂を吸い取る事が出来るというものだった。


 

 先程の死体の口から出て着た煙が魂と言う訳だ。

 魂を吸収すればするほど魔法が使えるというものだ。

 マジックポイントの他にスピリットポイントというものがある。

 ジャック・オ・ランタンの覚えている魔法は賢者の時に習得したもので数千を超える。

 さらに新しく1回見てしまえばコピー出来るという恐ろしい力でもあるのが【世界魔法】というスキルだ。



 ジャック・オ・ランタンは炎の中をうきうきと歩いている。

 彼には炎は遊びの道具でしかない。



 その光景を見ていた1人の女王は恐怖の顔を顔にはりつけていた。



「魔法騎士団を招集しなさい、黒騎士と白騎士もよ」

「御意」



 女中が片足で頷くと、忍びのように消失した。

 女王はベランダからその光景を見ている。

 最初は何か火事でも起きたのかと思ったようだ。

 しかしそこにジャック・オ・ランタンが表れた。

 普通のモンスターならあれほどのランタン炎を発動する事は不可能。



 女王は即座に決断した。あのジャック・オ・ランタンは普通のモンスターではないという事を。

 あの憎たらしいカボチャ頭の少年目と歯ぎしりをしていた。


   

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