第254話「やさぐレオニー③」
色々あって歩く黒歴史こと、女帝L.L(エルツー)が誕生してしまったのだが、その後どうなったかと言えば……。
普通に考えれば『シャケが大好きで、あとは殺しの腕が立つだけのメンヘラ女』が、いきなりボスになったところで大したことは出来ないと思うだろう。
だが、そうはならなかった。
ご存知の通り、彼女はランスの裏社会のほぼ全てを手中に収めてしまった。
だが何故、自らの欲望に従ってその地位に着いただけのダメ女が組織を大躍進させてしまったのか?
その原因は動機。
レオニーは『シャケをゲットする』という最強の動機を得てしまったから。
彼女はその究極の目的を達成する為、自身の強力な戦闘力だけでなく、組織の運営に関しても自らが持つ能力を惜しみなく発揮して裏社会の支配に本気で取り組んでしまったのだ。
そして、その結果大変なことになってしまった訳だ。
普通なら出来てもせいぜい組織をそれなりに大きくして金や権力を手に入れ、贅沢な生活をしながらシャケ似の男でも囲って満足する程度だろう。
だが、しかし。
この残念な雌ライオンは国内の悪党達の大半を傘下に収め、本当に裏社会の頂点に君臨し、あまつさえ政府への影響力までも手に入れてしまった。
そこはやはり、良くも悪くも彼女は根が真面目で、やるからには全力で!と、その絶大なカリスマ性や(元?お休み中?)暗部のコネや情報網、ひいては人材までも遠慮なく使い倒し、同時に旧ブラックタイガー一家を大幅に改革して殆ど別の組織へと変えてしまったことが大きい。
因みにどんな具合かと言うと、まずは名前をブラックタイガー一家から『金獅子組』へと変えた。
本当はレオニー的には第六感が受信した候補群(ネオジ◯ンとか、サラマ◯ダー戦闘団とか、ナザリ◯ク地下大墳墓とか、黒の騎◯団とか、フレ◯ムヘイズとか、S◯S団とか、金シャケ組とか)にしたかったらしいが、部下達の懇願で金獅子組に落ち着いたらしい。
次に悪の組織としての掟を定め、破った者は厳罰に処すことした。
例えば、理由もなくカタギに手を出したりケチなシノギをするな、という感じで、やるなら肥太った金持ちの貴族や商人、政府の役人のような連中にしろ、などである。
あとは薬も相手を見て売れとか、あとは抗争以外での誘拐や人身売買は禁止などなど……。
まあ、簡単にいうと任侠道を大事にする昔気質な極道になった訳である。
では何故、カタギのレオノール達がぼったくられたのか?と言うと……。
それはあの二人の雰囲気や見た目が明らかにカタギではない上、カジノで荒稼ぎしたことがバレていたから狙われてしまったのだ。
兎に角、これによって組織に、ひいてはランス裏社会に規律が生まれたのだ。
つまり、『女帝エルツー』という存在はある意味、裏社会だけでなくランスと言う国そのものの治安の安定に寄与していたりするのだ。
……と、そんな感じでムラーン・ジュールを拠点に国内の裏社会を掌握したレオニーは、いよいよ本当にシャケ捕獲計画を始動しようとしたところで、酒場へ呼び出されることになる。
それは全力で仕事に取り組むレオニーが、自身の部屋で束の間の休息を取ろうとシャケ似の少年達に癒しと紅茶を求めた時のこと。
皆様、こんにちは。
そしてお久しぶりです。
レオニー=レオンハート改め、エルツーです。
今私はオフィスで国内外の各支部からのアガリや他組織の動き、買収した有力者からの情報などの書類のチェックをしているところです。
全く、折角悪の組織のトップになったのに毎日デスクワークばかり。
これでは王都にいた頃とあまり変わりません。
いや、あの方が近くにいないという点は致命的に違いますが……ぶっちゃけ寂しいです、切ないです……死にそう……はぁ。
さて、アンニュイな気分に浸りながら作業をしていたら、ちょうど一区切りつきましたし、休憩がてらお茶にするとしましょうか。
はぁ、オフィスの休憩スペースで殿下と一緒に飲んだコーヒーが懐かしいです……うぅ。
おっと失礼。
兎に角、休憩すると決めた私は側に控える三人の世話係の少年達に癒しと紅茶を求めて声を掛けました。
「疲れたわ。マク、お茶を淹れて?あとスィー、ミリアーン、私を労って?」
すると、まずはスィーが優しい笑顔で言いました。
「エル、お疲れ様。頑張ったね!少し休もうか?」
「ふぉおおお!」
いい!今のセリフを通して少しだけあの方を感じられた気がします!
「ハァハァ、もっと!」
因みにこの選りすぐりの金髪碧眼の美少年達は『あの方』に雰囲気がよく似ています。
そう、実は私、寂しさを紛らわせる為に殿下そっくりの少年達を集めて世話係にしたのです。
更に私のことをエルと名前で呼ばせたり、タメ口で殿下っぽいセリフを言わせたりしています。
本当はレオニーと呼ばせたいところなのですが、残念ながら名前は秘密なのと私を呼び捨てにしていい男は殿下オンリーなのですよね……。
あと、今は書類仕事が多く肩が凝っていて自分でほぐしていたりするのですが、そんな私を見ても彼らは決して「肩を揉みましょうか?」とは聞いてきません。
何故ならお触りは禁止で、万が一触ったら死刑だと伝えてあるからです。
私に触っていい男は以下略。
……などと考えていると、今度はミリアーンがキラリと歯を光らせながら、とてもいい笑顔で声を掛けてくれた……のですが……。
「疲れたエルもセクシーだよ?」
「………………うーん、ないですね。あの方はセクシーなんて言わないわ」
私が思わず渋い顔でそう零すと、その瞬間ミリアーンは震え上がりました。
「ひぇ!も、申し訳ありません!エルツー様!」
そんなに怖がらなくても……殿下似の貴方達に手荒なことはしないのに。
と、ここでマクがお茶を運んできました。
「ミリアーン、何もしないから安心なさい……さて、お茶もはいりましたし、三人共下がっていいですよ」
何だか気持ちが萎えたので、三人を下げることにしました。
「「「わかったよ、エル」」」
すると、少年達は爽やかな作り笑顔でそう言ってから部屋を出て行きました。
「はぁ、紛い物ではダメね……早く本物の殿下を手に入れないと……寂しくてどうかなりそう……それに最近、デスクワークばかりで体を動かせていないし……辛い……ここはやはり、殿下強奪計画を実行するしか……」
と、ストレスフルな私が独り言を呟いているところへ突然手下が駆け込んで来ました。
「ハァハァ、エルツー様!大変です!」
「何事だ!騒々しい!」
慌てる手下に私は鋭く言いました。
全く、折角殿下を想いながらセンチメンタルな気分に浸っていたのに……うるさい奴め。
「実は今日、カジノで荒稼ぎした奴をぼったくり酒場でカモろうとしたんですが……そいつらが酷く暴れてるんです!」
お、これは……?
「それで?どんな連中なんだ?」
私は期待しながら先を促しました。
「メイドの格好をしたエロい牛と、海賊コスをした姐さん並みにエロい身体した女の二人組です!連中、強過ぎて俺たちじゃあ手がつけられんのです!」
おお、それはいい。
ちょうど暴れたかったところだ。
だが……メイドの格好をしたエロい牛?
心当たりがあるような……?いや、気の所為だ、そうに違いない。
「ほう?お前達ではダメなのか……仕方ない、私が出よう。あと、いちいちエロエロうるさいぞ」
「おお!エロツー様!ありがとうごぜーやす!」
「……行こうか」
と、そんな感じで意気揚々?と現場に向かった私だったのだが。
目的の酒場に入った瞬間……。
「ほう、私の手を煩わせるとは一体どれ程の者か楽しみだな……フッ、見せて貰おうか、私の縄張りを荒らした連中の実力とやらを!………………ふぇ!?ええ!?で、でん……か!?」
と、いる筈のないお方が目に映り、私はパニックに陥ってしまったのでした。
そう、そこにはさっきまで会いたくて会いたくて、気が狂いそうなぐらいに想っていた相手であるマクシミリアン殿下その人がいらっしゃったのです。
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