第236話「豊胸戦記18」

 その時、私は舗装された石畳の上を滑らかに走る馬車の窓からのんびりと夕日を眺めていました。


 そして、その夕日の直ぐ下には歴史あるバイエルライン王都の美しい街並みが見えてきました。


 折角なので、この趣きある光景をじっくりと眺めることにします。


 まあ、実は持ってきた仕事も大体終わり、他にやる事もなかったりするのですがね。


 それから暫くその光景を眺めていた私は、ふと思いました。


 このサンセットはまるで、この国の終わりを表しているようだな、と。


 ……なんて、大した感性も無い癖にカッコつけてみたり。


 ああ、恥ずかし…………ん?あ!これはこれは皆様、お久しぶりです。


 私はここ二ヶ月、全く出番の無かった脇役Mです。


 覚えていらっしゃるでしょうか?


 元々影が薄かったのに、最近作者の投稿ペースが極端に落ちた所為で更にそれが酷くなってしまいました……。


 本当に私の存在が読者の皆様に忘れられてしまったらどうするのでしょうね、全く……。


 おっと、いきなり愚痴っぽくなり申し訳ありません。


 えーと……私、マクなんとかは現在、先日のご馳走攻めという窮地を脱し、バイエルラインの王都を目指して一路北へと向かい、漸くその近くまで来たところです。


 あ、そうそう、王都と言えば一つ凄いことがあるのです。


 なんと、驚くべき事にバイエルラインの王都は既に陥落した後なのです。


 しかも、それをやったのが私の幼馴染にして元婚約者の公爵令嬢セシルだったりするのです。


 いやー、凄いの一言です。


 流石は槍一本で王国の領土の半分を切り取って来たと言われる初代スービーズ公爵にして王妃、武神セシルの末裔。


 勿論、実際の戦闘指揮は部下が行っているのでしょうが、それでも最後までガッチリと軍を纏め、遂には敵を討ち果たしたのですから、彼女のカリスマ性は相当なものなのでしょう。


 あ!そうだ、この戦争の諸々の処理が終わったら、いつかセシルを正式に陸軍の要職に就けるのはどうでしょうか?


 見目麗しく絶大なカリスマ性があり、しかもバイエルラインを倒したと言う実績まである彼女が軍の幹部になれば士気は上がり、入隊志願者も増える事だろうし。


 うん、我ながらいいアイデアだ。


 国に帰ったら父上達に相談してみよう。


 ……などと考えていたら、いつの間にか王都まであと少しの所まで来ていました。


 あ、そう言えば話は変わるのですが、私がこのバイエルラインでの道中で感じたのが我が軍の占領下に置かれた地域は何処も非常に活気があったということです。


 例えば……そうそう、昨日寄ったライツィヒの街。


 あの街は非常に活気があり、住人達は笑顔で溢れていました。


 何でもセシルが自ら出向いてスカウトして来たと言う有能な男爵が軍政官として街を治めていることが大きいらしいのですが……。


 一体どんな素晴らしい人物なのでしょうか?


 是非とも一度会ってみたいものです。


 あ、ライツィヒと言えばもう一つ。


 私が街に着いた際、お忍びで少し街中を歩いたのですが、その時に珍しい……いや、不思議なものを見たのです。


 それは……フライパンを振り回す可愛らしいちびっ子メイドと、その彼女にどつきまわされる金髪ポニーテールの美少女メイドの二人組。


 どう見ても年上の美少女メイドが、先輩?ちびっ子メイドにお説教されていました。


 うーん、メイドの世界って厳しいのですね……。


 閑話休題。

 

 そんなことを考えているうちに私の馬車はいつの間にか王都の市街地へと入っていました。


 因みに、ここの美しい街並みは全く傷付いていません。


 何故なら、報告によるとバイエルラインの守備隊の殆どが、いかつくむさいバイエルライン王を見限り、美少女司令官セシルにあっさり降伏した為なのだとか。


 確かにそれは良い事ではあるのですが……。


 全く、あっさり主人を見捨てて美少女につくとは……まあ、気持ちは分かるけども。


 と、ここで馬車が街の中心にある広場を通り掛かりました。


 そこで私が見たのは広場に集まる大勢の群衆でした。


 人集り?よく分からないが、何やら盛り上がってるな。


 老若男女、地面に転がった数十のボロキレのようなものを血走った目をしながら蹴ったり、棒で叩いたり、石をぶつけたりしている。


 うーん、何かの祭りかな?終戦記念とか?


 ……わからん。まあ、いいか。


 何となく関わらない方がいい気がするし……。


 その後、馬車はいよいよバイエルラインの象徴、ノイシュバーン城付近まで来ました。


 するとここにも大勢の人間が集まっていました。


 城の前には我がランス軍に加え、バイエルライン諸侯の軍が集結しています。


 えーと、報告によると確かあれはセシルの優しさと美しさに感動して仲間になった連中だな。


 それにしてもこんなところに集まってどうしたのだろうか?……ん?あの城のバルコニーにいるのは……もしかしてセシルか!?


 ここからでは遠過ぎて表情まではよく分からないし、馬車の中まで声も聞こえないが、取り敢えず何かを一生懸命に訴えているようだ。


 おお、夕日を背に立つ美少女騎士とは……うむいいな。


 きっと、皆んなの心を優しさで包むような深イイ話をしているに違いない。


 と、その時。


「「「うおおおおお!」」」


 なんだ!?


 突然居並ぶ兵達から歓声が上がりました。


 どうやら彼女の演説に感動しているようで兵達は皆、目を血走らせながら手に持つ武器を頭上に掲げて叫んでいます。


 す、凄いなセシルは……。


 ここまで他人の心を掴めるとは……流石だ。


 やはり、彼女こそ暫定的なこの国の管理者に相応しい。


 セシルには苦労を掛けるが、女王か軍政官をお願いしてみよう。


 それから間も無く私の馬車は、激しい攻防戦でその多くを破壊された痛々しい姿のノイシュバーン城へと入ったのでした。


 そこからはスービーズ家の者に出迎えられた後、セシルがいる会議室へと向かいました。


 何でも彼女は現在、この国の戦後処理に介入しようとする周辺国の外交官達と話し合いをしているらしいのです。


 正直、心配です。


 何故なら、五万にまで膨れ上がった我が軍をここまで必死に引っ張って来たセシルの心は限界に近い筈だからです。


 その状態で百戦錬磨の外交官達と交渉など、いくら優秀な彼女でも流石に辛い筈……。


 一刻も早く私と部下達で交渉を引き継がないと繊細な彼女の心は壊れてしまうだろう!


 急ごう。


 だが、焦りは禁物。


 何と言っても、私には前科がありますから……。


 この間ランスの王都で私が各国の大使と交渉をした際、つい感情的になって怒鳴りつけてしまったし……。


 あれは不味かったよなぁ。


 まさに、ついカッとなってやってしまった、今は反省している、というやつですね……全然笑えませんが……。


 なので、今回こそは絶対に事を穏便に納めて見せるぞ!


 と、私が内心でそう決意をしたところで、ちょうどセシル達がいると言う会議室に着きました。


 さあ、行こうか。


 あと穏便に、穏便に……。


 自身にそう言い聞かせながらゆっくりとドアを開けた瞬間、私の目に飛び込んできたのは……。


「ぐす……うう……うわーん!」


 鎧姿のセシルが両膝をつき、両手で顔を覆いながら肩を震わせている姿でした。


 加えて近くにはひっくり返ったテーブルと五人の男達。


 こ、これは……。


 膝をついて許しを乞うように泣くセシル。


 女性の力では絶対にひっくり返せないような重量のテーブル。


 見下すように立つ男達。


 これはつまり……男達がテーブルを乱暴にひっくり返し、暴力で恫喝して彼女の心を傷つけたのか!?


 状況を理解した私はその瞬間に全身の血液が沸騰するのを感じ、同時にブチリと血管が切れる音が聞こえたような気がしました。


 この野郎、よくも私の大切なセシルを傷付けてくれたな!


 覚悟しろ!……だが、その前に。


「セシル!」


 私は大切な幼馴染の名前を叫んだ後、彼女に駆け寄り抱きしめました。


「ふぇ!?」


 すると彼女は不思議な声をあげました。


 それから、


「遅くなってすまない、もう大丈夫だからね?」


 と、私が優しく声を掛けると、


「リ、リアン様!?何で!?ええ!?ちょ、あの、その、くぁwせdrftgyふじこlp!?」


 セシルは更に不思議な声をあげました。 


 あと、少し不謹慎なのですが、セシルを抱きしめた腕から伝わってくる感触で思いました。


 ああ、女の子の身体ってこんなに……硬くて重いんだな。


 ……あれ?普通ここはガラスのように繊細で羽のように軽い、とかなのでは?


 ……ま、まあ、いいか。


 そんなことより今は……。


 私は男達を睨みつけながら言いました。


「お前達、表へ出ろ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る