第126話「精算①」
フィリップとの話を良い結果で終えることが出来た私は、その足で久しぶりに自分の私室を訪れていた。
勿論、数日後にこのトゥリアーノン宮殿を去るので感傷に浸りに来た、という訳ではない。
理由は簡単。
ある物を受け取りに来たのだ。
数分後。
「殿下、こちらにサインをお願い出来ますか?」
生真面目そうな財務担当の官吏が、私に受け取りのサインを求めてきた。
私は落ち着かない心を無理矢理押さえ付け、表面上は平静を装いつつ、サラサラと羽ペンを走らせる。
「ああ……よし、これでいいかな?」
書き終わると、書類が挟まったバインダーを官吏に返した。
「はい、結構でございます。では、私はこれで失礼致します」
サインを確認した彼は、慇懃に一礼すると早々に退散した。
そして、一人部屋に残された私は改めて目の前に積まれたそれを見て、
「これ、本当に現実だよな?」
と、誰に向かって言うでもなく、そう呟いた。
で、その目の前にある物だが、それはなんと…… 山の如く積まれた『大量の金貨』だ!
と、言っても実際に山な訳ではなく、布袋に入った状態で小分けにされたものが積まれているのだが。
で、何故今、大金を受け取ったのかと言うと、実は先程、この間売り払った諸々のガラクタ(大量のワイロ等)の精算が終わったと連絡を受けたのだ。
そして、今まさにそれを受けとったところなのだが……。
いやー、それが予想外に高額で、私はその額を告げられた瞬間にフリーズしてしまった。
その額なんと、約百二十六億ランス!
正直、高額過ぎて実感が湧かないのだが、宝くじに当たった人はこんな気分なのだろうか?
私としては高値が付いても、せいぜい数十億ぐらいだと思っていたのだが……うむ、わからん。
一体何がそんなに高く売れたのだろうか?
まあ、いっか。
良い結果なのだし、細かいことを気にする必要はなかろう。
それに何故か、私の第六感が深く考えてはいけないと叫んでいる気がするし。
兎に角、私はこれで金持ちだ!
一生安泰なのだ!
ヒャッハー!自由だー!
……と、思わず叫びたくなってしまうところだが、ここは我慢だ。
こういう時こそ、慎重に石橋を叩いて渡らねば。
最後まで、つまりこの金と共に宮殿を出るその瞬間まで、油断は禁物。
何と言っても大抵の悪党は、こういう場面で油断してやられるからな。
だが、私はテンプレ悪役とは違い、ここで浮かれてしくじったりはしない!
と、そんなことを考えているとノックと共に、
「殿下、失礼致します」
「失礼致しますぅー」
声がしてメイドルックのレオニーとリゼットが部屋に入ってきた。
「二人共、ご苦労様」
私は微笑を浮かべつつ、現れた二人に労いの言葉をかけた。
実はあることを見越して、二人にはあらかじめここに来るように伝えておいたのだ。
「いえ……それで本日は如何されましたか?」
相変わらず生真面目なレオニーが、早速用件を尋ねてきた。
「うん、見ての通り諸々の精算が終わってね。それで君達を呼んだのだよ」
私は大量の金貨の袋を背にして、そう答えた。
「はい、左様でございますか」
「ああ、それでいよいよ私は自由の身となり、数日後にはここを離れる訳なのだが……」
と、私がそこまで言いかけた時、レオニーは何故か肩を落とし、凄く悲しそうな顔になった。
ああ、きっと私がいなくなって暗部の後ろ盾が無くなることが不安なのだろうが……まあ、そう心配するなレオニー。
君達には本当に感謝しているし、悪いようにしないさ。
「その前に、私の元で今日まで働いてくれた君達に礼をしようと思ってね」
「そんな!とんでもございません!私達暗部は、与えられた仕事をこなしたまでに過ぎません!」
相変わらず真面目なレオニーは、反射的にそう答えた。
「まあまあ、そう言わずに」
私は苦笑してから、先程選り分けておいた幾つかの金貨の袋を指差して、
「二十億ある。これは私のほんの気持ちだ。遠慮なく受け取ってくれ」
と、ニヤリと嫌らしく笑いながらそう言った。
ぐへへ、レオニー、お主も悪よのぅ。
なんちゃって。
「で、殿下!?これは……」
「ふぇ!?凄いですぅ」
すると、美人スパイ二人は大金を目の前にして露骨に慌てだした。
ちょっと面白いな、リゼットは兎も角レオニーまで……。
で、このワイロ……コホン、この金だが……これは言わば保険だ。
どういうことか説明すると、気前よく分け前を渡して暗部を懐柔してしまおう!ということだ。
というか、そうしないと色々と危険なのだ。
なんと言っても大金の前では人の命など安いものだからな。
だから、あらかじめ纏まった金を渡しておくことで、今すぐ金と命を奪われる等の事態は防げるだろう……多分。
勿論、目の前の二人のことは信用しているが、他の暗部のことは分からないし、用心に越したことはない。
そして、実はもう一つ理由がある。
それは後々、もしかしたら暗部が私に有益な情報をもたらしてくれるかもしれない、ということだ。
例えば命の危機が迫っているとか、儲け話とか、そんな感じのことを将来教えてくれたら嬉しいなぁ、とか、そんな感じで。
とまあ、兎に角この金はそんな意味合いがあるのだ。
そして、金銭的に不如意な思いをしている彼女達暗部に対して、ワイロの効果は抜群だろう。
「殿下……」
だが、そこでレオニー達が俯いてしまった。
あれ?二十億では足りなかったかな?
少な過ぎて凹んだ?
仕方ない、あと十億ほど積むか。
と、私が思ったところで、
「ありがとうございます!」
「ありがとうございますぅ!」
二人がいきなりガバッと頭を下げた。
ああ、びっくりした……。
よく見れば感極まったのか、目には若干涙が浮かんでいるように見える。
そんなに金に飢えていたのか?可哀想に……。
でもまあ、取り敢えず喜んでくれたみたいだし、良かった良かった。
だが、これで終わりではないのだ。
暗部へのプレゼントはもう一つ。
「あと、君達暗部への褒賞はもう一つあってね」
私は勿体ぶって言った。
「「え!?」」
二人は私の言葉に驚いている。
「近いうちに、暗部が国の正式な機関となることが決まったよ」
「「ええ!?私達が正規の公務員に?」」
私がそのことを伝えると、彼女達は目を見開いた。
「そうだ、これで君達の待遇は大幅に改善される筈だ」
私はドヤ顔でそう言った。
実際、私が頑張って父上達に頼んだ訳だし、ちょっとぐらいカッコつけてもいいよな?
「殿下……」
「殿下ぁ……」
すると二人はよほど嬉しかったのか、再び涙目になってしまった。
「これは今日まで私に仕えてくれたこと、そして不遇な目に遭いながらも陰で国の為に尽くしてくれたことへの感謝の気持ちだ」
私はそんな彼女達に優しく微笑みながら、感謝の気持ちを伝えた。
「格別のご配慮、ありがとうございます……」
「殿下ぁ……ありがとうございますぅ」
うん、二人とも嬉しそうで何よりだな。
まあ、これで暗部に裏切られることや、あとでお礼参りに来られることはなかろう。
それに彼女達が笑顔になってくれたことは、素直に嬉しい。
……さて。
では本題である、今後の打ち合わせを……。
と思ったその時、私はあることを思い出した。
あ、そうだ!
危ない危ない、大事なことを一つ忘れていた。
アレをしないと。
では、まずレオニーに……。
「レオニー、そこに跪いて」
「ぐすっ……は?……はい」
何の脈絡もなく、いきなりそんなことを言われたレオニーは戸惑いながらも指示に従い、その場に跪いた。
「よし、いいだろう」
それを確認した私は、跪いた彼女の背後へと回り込み、心の中で呟く。
くくく……レオニー、私も男なのだ。
そして、私は口元がニヤケそうになるのを我慢しつつ、ゆっくりと両手を彼女のエロい……訂正、魅力的な身体へと伸ばしたのだった。
皆様こんにちは、作者のにゃんパンダです。
本日はご報告がありまして……。
実は何と……この作品のPVが100万の大台に乗りました!
全ては半年前の連載開始以来、応援し続けてくれた皆様のお陰でございます。
皆様には感謝しかありません。本当にありがとうございましたm(_ _)m
あと、本作についてですが、漸く第一部も終盤に入りました。一応予定では二月中に第一部を完結させるつもりですので、是非最後までお付き合い下さいませ(^^)
因みにその後の大まかな予定は、新章準備の為に少しお休みを頂き、バッドエンド集(仮)を挟んだ後に本編を再開したいと思っておりますので、宜しくお願い致します!
長文をお読み頂き、ありがとうございました。
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