第103話「少女の皮を被った化け物17」

「これにて一件落着です!」


 マリーは満足そうに頷き、キメ顔でそう言った。


 一方、視界の端の方では引きずられていたフィリップが暴れ、


「嫌だあああああ!放せ!放せ無礼者!貴様ら、私を誰だと……ヴォエ!」

 

 衛兵に腹パンをお見舞いされていた。


 そんな光景を横目にアネ•リゼは、


「やっと終わったわね!お疲れ様ー」


「お疲れ様でしたぁ、マリー様ぁ」


 一生懸命喋り続けてお疲れのマリーを、優しく労った。


「ありがとう、二人共」


 彼女はその言葉に、少し疲れた笑みを浮かべながらお礼を言った。


「いやー、それにしても結構時間がかかったわねー、もう夕方よ?」


 そしてアネットが、やれやれという感じで肩をすくめた。

 

「アネットの言う通りですよ、私も作者もまさかこのパートが17話も掛かるなんて思っていませんでしたから……」

 

 と、マリーが呟き、


「ちゃんとプロットを作らないのと、思い付きで色んなアイデアとかネタをぶっ込む癖が治らない所為よね……」


 アネットは呆れながらそう言った。


 そのあと、彼女は唐突に、


「そんなことはどうでもいいんだけど、何か忘れてない?」


「え?何かありましたっけ?」


 だが、マリーは本当にサッパリ分からない、という顔だ。


「うーん、何かあったような気がするんだけどな……ま、いっか。それよりマリー、アタシしつもーん!」


 そこで思い出すことを諦めたアネットは、他に気になっていたことを質問した。


「質問ですか?どうぞ、アネット」


「アタシ何となく気になっていたんだけど、マリーはそもそも何でアイツとルビオンが繋がってると思ったの?」


「ああ、そんなことですか。答えは至ってシンプルです。あの男が『身の丈に合わないもの』を持っていたからですよ」


 と、マリーは苦笑しながら答えた。


「え?身の丈に合わないってどゆこと??」


「えーと、例えるなら、貧しい暮らしをしてる者が、本来絶対に買えないような高級品を持って歩いてるような感じ、ですかね」


「ああ!そういうことか」


 そこでアネットが納得した。


「はい、で、あの男の場合は……」


 と、そこでマリーは建物の中に消えゆくフィリップを見ながら呟いた。


「皇太子でもないのに派閥を養えていたことです。明らかにおかしかったのですよ。第一王子派と違い、アレの派閥は儲かる利権や表立った不正もない割に、とても羽振りが良かったので」


「ああ、それで分かったのね」


「はい。それで次は、そのお金はどこから出ているのか?と考える訳です。で、その答えがルビオンからの援助だったのですよ」


「へえー、流石マリー頭良い」


 アネットは話を聞いて素直に感心した。


「他には、あの男では思い付かないようなことや、出来ないことが出来ていたこと、ですね」


「ああ!それって今回の作戦で白昼堂々会議室に情報を盗みにきたり、あまりにもスムーズに配下の貴族達に手回ししたり、ってことよね?」


 マリーは彼女の言葉に満足そうに頷き、話を続ける。


「そうです。あとは七年前のあの事件などですね。あの男は多少頭は良くても小心者なのです。一人でリアンお義兄様を殺そうなんて、そんな大それたことを決心できる筈がありません」


「そうよね、アイツ小さい男だもんねー」


 と、アネットが冗談めかして言った。


「そうなのですよ、それなのに全く、あの男は……ルビオンの甘言などに乗らず、素直にこの国の為に尽くせば、それなりに幸せな人生が歩めたものを……」


 そこで、マリーの雰囲気が僅かに変わり、


「マリー?」


「そして、死ぬことなどなかったのに……憐れな男です」


 と、彼女は少しだけ悲しそうに呟いた。


 そこで何となく空気が重くなってしまったことを感じとったアネットは、


「ねえ、マリー。今の話もそうだけど、ランスってなんかルビオンにやられっぱなしじゃない?連中に仕返しとかしないの?なんかムカつくー」


 多少強引でも話題を変えることにした。


 そんなアネットの気遣いを理解したマリーは即座に表情を変え、明るく、


「くく、よくぞ聞いてくれました!そこで活躍したのがなんと!私の愛するリアンお義兄様なのです!」


 そしてテンション高く叫んだ。


「え!?王子様!?」


「そうですよ!最近まで私達が有効な仕返しが出来ない中、お義兄様はなんと……」


 と、マリーが興奮しながら言いかけたところで、


「マリー様、只今戻りました」


 二人の後ろから声がした。


「「!?」」


 慌てて彼女達が振り向くと、そこには完全に存在を忘れられていたレオニーが、無表情で立っていた。


「「あ!……(レオニーを忘れてた……)」」




 マリー達がフィリップを裁き終わったのと同じ頃。


 セシルは花屋でフィリップ用の花の発注を済ませ、今は両腕いっぱいの薔薇の花を抱えながら、馬で王宮に向かっているところだった。




「フィリップ様に私の……いえ、私達の『気持ち』が通じると良いのですが……」


 その時私は、花屋での注文を済ませ、王宮を目指して街中を進んでいました。


 そして何故、私がそんなセリフを呟いたのかというと……。


 実は先程、私はリアン様にフィリップ様用のお花のチョイスを任せて頂いたのです。


 だから私は、みんなの気持ちを込めて一生懸命に選びました。


 きっとフィリップ様はお花に込められたメッセージを理解してくれることでしょう。


 ふふ、私、頑張りました!


 そして、リアン様は内容に満足して、きっと私を褒めてくれる筈です。


 ああ、楽しみです。


 頭なでなでとか、してもらえたらいいな。


 と、そんなことを考えていた私はそこで、


「おっと、今はフィリップ様用の花などという些末なことより、大切なものがあるのでした」


 さっきリアン様から頂いた、大切な薔薇の花束を大事に抱えながら呟きました。


「えへへ、リアン様から頂いたプレゼント……嬉しいなぁ」


 実はこれ、リアン様が私の為に、そう私の為だけに!買って下さった薔薇の花なのです!


 しかも、真紅のバラを。


 しかも、腕いっぱいの量を。


 ですよ!?


 因みに赤薔薇の花言葉は『情熱と愛』。


 つまり、リアン様は私に腕いっぱいの愛と情熱を贈って下さったのです!


 ああ、もう本当に幸せいっぱいです!


 こんな立場でなければ、今すぐその胸に飛び込みたかったです。


 そして……きゃー!私ったら、まだ早いです!


 と、今度はバカな妄想をしていたら、いつの間にか目的地である王宮が迫っていました。


 そこで私は、


「あ、そういえば……」


 と、腕いっぱいの薔薇を見てふと思いました。


 この頂いたお花をどうしようか、と。


 本当は一日中ずっと抱きしめていたいのですが、そうもいきませんし……。


 では、考えてみましょうか。


 まずはこの後、屋敷に帰ったらあるだけ全部花瓶を集めてきて、お花を私の部屋中に飾りましょう。


 他には……あ!そうです!お風呂に浮かべるのはどうでしょうか!


 うん、いいですね!


 リアン様の『愛と情熱』入りのお風呂……ぐふふ、じゅるり。


 控えめに言って、最高です。


 残りは……そうだ!押し花にしましょう!


 それでそれで、沢山作って保存用と、観賞用と、使う用と、使う用のスペアと、使う用のスペアのスペアと……。


 ああ!夢が広がりんぐです!


 あとはどうしましょう……バラの花、バラの花……バラ、バラ……?


 あ、そうだ!忘れていました!


 フィリップ様をバラバラにしないと!


 ……いえ、やっぱり今日はやめておきましょう。


 折角リアン様から頂いた薔薇の芳しい香りが、フィリップ様の穢らわしい血の匂いで台無しになってしまいますからね!


 全く、私ったらドジっ子ですね。


 危ないところでした。


 殺るのは日を改めて、また今度にすると致しましょう。


 と、そこでいよいよ王宮が近づいてきました。


「さあ、早く戻って愛しいリアン様と合流です!」

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