第96話「少女の皮を被った化け物 幕間④」

「それではリアン様、私はうしろを向いていますね!えへへ♪」


 赤い鎧が可愛らしく?そういってうしろを向いた。


「え?なんで?」


 花を買うだけなのに。


「それは勿論、リアン様がどんなお花を選んでくださるのか、ギリギリまで期待しながらドキドキしていたいからですよ!」


 と、彼女は力説した、が……。


 うん、訳がわからないよ!


「そ、そうか……」


 全くコイツ、鎧の癖に乙女チックなことをいいやがって……。


 まあ、いい。


 取り敢えず、スルーだ。


 マリーの分もあるし、というかそっちが本命だし、さっさと選んでしまおうか。


 そこで私は、店内から溢れ出しそうなぐらいに所狭しと並べられた花の方へ向き直った。


「うむ……」


 さて、さて、さて……。


 困ったな。


 何度もいうが、今まで花なんて適当に贈ってきたから、全くわからない。


 こんなことなら花の種類や花言葉を、少しは勉強しておくべきだったか……。


 まあ、赤騎士は花の種類なんて何でもいいらしいから、適当にフィーリングで選んでしまおう。


 そして、私は何気なく赤騎士のうしろ姿を眺めながら考え始めた。


 コイツに、この赤い奴に似合いそうな花……何かヒントは……あ!


 と、そこで私は閃いた。


 コイツの赤い鎧を見て。


 赤騎士は赤が(多分)好きなのだし、赤い花にしよう!


 私はそんな考えに至り、改めて店内を見回したところで、


「おや、これは……」


 ある花に目を止めた。


 それは、まるで鮮血の如く鮮やかな真紅の薔薇。


「赤い薔薇か……」


 うん、いいな!


 コイツの大好きな血の色だし、鎧も赤だし、文句なかろう!


 それに面倒いし、もうこれに決めよう。


「店員さん、この薔薇をお願いします」


「はい、畏まりました!数は如何されますか?」


 私が声を掛けると、店員さんが明るく答えてくれた。


「あ、本数か……どうしよう」


 これ、本数になんか意味とかあるのかな……。


 うーん、わからん。


 だが、取り敢えず本数が少ないと赤騎士がいじけそうな気がするし……ええい、面倒だ!


「あるだけ全部下さい」


「はい、畏まりま……ええ!?本当に宜しいのですか!?」


 私の言葉に店員さんは、初めて笑顔意外の表情を浮かべ、再確認してきた。


「はい、お願いします」


「わ、わかりました!それにしても、やはり、あちらの騎士様とお客様は『そういうご関係』だったのですね!羨ましいしいです!このこの〜」


 と、そこでお姉さんは何故かニマニマし始め、そして肘で私を突いてきた。


「は?関係?」


 何故、花を頼んだだけで人間関係の話に?


 まるで意味がわからん。


「またまた、惚けちゃって!恥ずかしがらなくてもいいんですよ?フフ。では、すぐに準備しますね!」


 と、よくわからないことを言ったあと、店員さんは手際良く花束を作ってくれた。


 私はそれを持って赤騎士の元へ行き、声を掛けた。


「待たせたな赤騎士、買ってきたぞ」


「はい、では早速……」


 そう言って赤騎士がゆっくりと振り返った瞬間、彼女は私と両手いっぱいの真紅の薔薇を見て、


「え?ええええええええ!?」


 めっちゃ驚いた。


 まあ、そうだよな。


 私が適当に全部くれ!とか言った所為で、花束が両手で抱えるサイズになってしまったし……。


「リアン様!これ、本当に私の為に!?」


 赤騎士は確認しながらズズズっと私に迫ってきた。


 顔が、いや兜が近い!


「ああ、他に誰がいるんだ」


「本当に本当ですか!?」


 しつこい奴め。


「本当に本当だ」


 そして私は、巨大な薔薇の花束を渡してやった。


 すると赤騎士は、更に大袈裟に騒ぎ出した。


「ああ!私、生きてて良かったです!まさか、リアン様からこんなに素敵な赤い薔薇(花言葉=愛、情熱)を頂けるなんて!それもこんなに沢山!」


「?」


「こんなにストレートに熱い想いをぶつけられたら私……幸せ過ぎておかしくなってしまいそうです!」


 と、両手で抱えたビッグサイズの花束を愛おしそうに眺めながら、赤騎士は嬉しそうに叫んだ。


「?」


 いや、お前は元から十分おかしいぞ?


 まあ、機嫌も良くなったし、いいか。


 あと赤騎士は自分の世界へトリップしてしまったのか、まだ何か叫び続けている。


 うん、面倒いし、ほっといて次に行こう。




 因みに、アッパー系のドラッグでもキメていそうなテンションで、セシルが叫んでいる内容はこんな感じ。


「きゃー、幸せ過ぎて逝っちゃいそうです!もう、リアン様センスあり過ぎですよ!特に白百合ではなく、薔薇を選んで下さるところとか!正直、白百合は貰い過ぎてうんざりしていたんですよ!私に届く花は、あのあだ名の所為で、いつも白百合ばかりでしたし…… 。全く、どいつもこいつも馬鹿の一つ覚えみたいに百合百合百合……。私にそっちの趣味はないのです!それに……白百合は7年前に、マリーと一緒に石像に押し潰されそうになった時の花なので、あんまり好きじゃないんですよね……。リアン様がお怪我をされ、記憶をなくてしまったのは、あの花を見ようとした私達の所為ですから……」


 と、セシルは最後に少し、切なそうに呟いたのだった。




 さて、無駄にハイテンションな鎧は置いておくとして、本命のマリーの花を選ぼうか。 


 そして、私は再び店内を見渡しながら考え始めた。


 うーん、マリーにはどの花がいいかな。


 またしても全然わからん。


 赤騎士みたいに好きな色とかわからないし……。


 仕方ない、マリーの分もフィーリングで決めてしまうか。


 そう考えて、私が店内を散策し始めたその時、


「ん?この花は……」


 私はある花の前で足を止めた。


「ああ、この花ですか?こちらはマリーゴールドといいます」


 と、そこでいつの間にか横にいた店員のお姉さんが教えてくれた。


「え?マリー……ゴールド?」


「はい、マリーゴールドです」


 ほう、マリーと同じ名前か。


 これはいい!


 うん、これにしよう!


 きっとマリーも喜んでくれるだろう!……多分。


「お姉さん、これもあるだけ下さい」


「ええ!?あ、ありがとうございます!……で、因みこちらはどなたへの贈り物で?」


 立て続けの大口の注文に、お姉さんは嬉しそうに返事をした後、そう聞いてきた。


「可愛い義妹へのプレゼントですよ、マリーという十三歳の女の子です」


「え!?あ、あの、本当にマリーゴールド(花言葉=変わらぬ愛、悲しみ)で宜しいのですか?」


 だが、私がそう答えたら何故か再確認されてしまった。


 え?この花って何かあるのか?……まあ、いいか。


「え、はい、お願いします」


「わ、分かりました……では、準備を……」


 と、お姉さんが微妙な顔で返事をしたところで、私はまた閃いた。


 あ、そうだ!


 折角だから、王宮を去る前にみんなに感謝の気持ちを花で伝えるのはどうだろうか!?


 よし、アネットとレオニーとセシル、そしてフィリップの為に花を選ぼう!


 無駄にテンションが上がった私は、更に調子に乗って花を選び出した。


 完全にフィーリングで。


「あ、すみません店員さん、追加をお願いしたいのですが……」


「あ、はい!大丈夫ですよ」


「では、まずアネットだな……お、この花は何となく良さげだな」


 私が目に付いた赤いを前にそう呟くと、


「ええっと、この赤い花はアネモネ(花言葉=君を愛す)です」


 お姉さんがすかさず教えてくれた。


 お、いいな!


 名前がちょっとアネットに似ているし。


「では、これをお願いします」


「畏まりました。因みにこの花はどんな方に?」


「えーと、知人?の女性に」


 取り敢えずそう答えたが、アネットって私にとって何なのだろうか?


 友人?取引相手?元カノ?


 まあ、いいか。


「え、ええっと……本当にアネモネで大丈夫ですか?」


 うーむ、何故花を選ぶたびにお姉さんは微妙な顔になるのだろうか?


「ええ、大丈夫です」


「わ、わかりました……」


 さ、次はレオニーの分だな。


 そして、またまたフィーリングで花を選び、お姉さんに聞いてみる。


「ええっと、この花は?」


「はい、この花はマーガレット(花言葉=真実の愛)です」


 うん、普通に綺麗な花だしこれにしよう。


「では、これを」


「はい。あ、これはどんな方に?」


 で、毎回恒例の質問が来た。


 だから何故、いちいち贈る相手のことを聞かれるのだろうか?


「職場の部下です。若くて優秀な女性管理職の」


「へ、へぇー。『若い女性』の管理職の方なんですね……」


 と、お姉さんは何故か顔を引き攣らせていた。


 どうかしたのかな?


 さて、あとはセシルだが……やはり、彼女には白百合を……いや、やめておこう。


 今更プレゼントなど不要だろうし、何故かセシルは白百合をあまり喜ばない気がするんだよな。


 そこで背後から声がして、


「あのーリアン様、そろそろ出発しないと……みんなを待たせていますし」


 と、私を呼びに来たらしい赤騎士が申し訳なさそうに告げた。


 あ、コイツ、トリップ状態から帰ってきたのか……ではなくて。


「え?あ、そうか。だが、まだフィリップの分が……」


 私がそういうと、


「え?フィリップ様にも花を贈られるのですか?」


 何故かそれに赤騎士が反応した。


「ああ、アレと会うのも最後だしな」


 それを聞いた赤騎士は少し考え、そして言った。


「……むむ、確かにフィリップ様は最期ですが……あ、そうです!いいことを思いつきました。リアン様、代わりに私が花を選んでおきますので、先に行って下さいませ」


「え?でも……」


「いいですから!ほら!」


 自分で選びたいところだが、何故か赤騎士が急かしてくるし……まあ、いいか。


 コイツも一応は女性、私よりはまともなチョイスが出来るだろうし、任せようか。


「わかったわかった。では頼むぞ、赤騎士」


「はい!お任せを!」


 私の言葉に赤騎士はお任せあれ!っと薄い胸を張って答えた。


「あ、あと店員のお姉さん、色々ありがとう。頼んだ花は後でトゥリアーノン宮殿に纏めて届けて欲しい。お代は弾むから。では、失礼」


 そして、私は店員のお姉さんにお礼を言って、その場をあとにしたのだった。


「あ、ありがとうございました!って、ええ!?トゥリアーノン宮殿!?それに、義妹のマリー……ということは……え?えええええ!?」




 そして、リアンが去った直後。


 セシルは約束通り、フィリップの為に心を込めて花を選んだ。


「では店員さん、黒百合(呪い、復讐)と、黄色いカーネーション(軽蔑)と、オレンジ色の百合(憎悪)と、アザミ(報復)と、鳳仙花(拒絶)と、ロベリア(悪意)と……あとスノードロップ(あなたの死を望みます)をあるだけ下さいな」


「!?」




※今回使用した花言葉は、作者がネットで仕入れた適当なものなので、そのあたりのことはご了承下さいませm(_ _)m

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