第86話「少女の皮を被った化け物 幕間①」
これはマリー達が『セール品』と対峙しているのと同じ頃、ペリン領から王都へ帰還中のリアン達の話である。
目的を全て達成したリアン達は、スービーズ騎士団五千の護衛の下、悪徳貴族達や接収した財産など、多くの戦利品を持って一路王都への帰路についた。
そして、出発して少したった頃……。
その時、赤騎士ことセシルは怒っていた。
彼女は移動する隊列の中、自分の前方で馬に乗りながら、帰還後の予定を横の近衛大佐と相談中のリアンを睨んでいた。
「ああ……後ろから眺めるリアン様の姿も素敵ですね……ではありません!もう!リアン様はどうして私に意地悪ばかりするのですか!それに、あんまり構ってくれないですし!」
と、セシルは先程の『違うけど、違わない』と答えるしかない意地悪?な質問をしてきたリアンへの不満を口に出した。
しかも、優しくフォローをしてくれるどころか、忙しくて自分に構ってもくれないので余計にむくれているのだが……、
「リアンのバーカ!バカバカバカ!私もう、リアン様のことなんて…………好き!大好き!」
結局、セシルは今日も平常運転である。
「ああもう、私ってダメな女ですね……でも愛しているのですから、仕方ないですよね!えへへ」
そして、決まりきった結論に至り、いつも通りにクネクネしだした。
因みに、それを近くで見ていた兵士達は、このキモい赤い鎧から距離を取ったのだった。
だが、全くそんなことは気にせず彼女は続けた。
「あ、そういえばリアン様といえば、頑張って働いたご褒美を頂けるのでしたね!別にリアン様の為なら幾らでも無償で働きますのに……でも、貰えるものは貰っておきましょう!しかも、『何でもいい』のですよね!これってつまり、リアン様を好きに出来るということですよね!?ということは、あんなことや、こんなことも……じゅるり、きゃあ!私ったら、はしたないです!」
再び一人でキャーキャーいいながらキモい動きを始めたセシルに、更に周囲の兵士が距離を取る中、そこにスービーズ騎士団副団長のアベルがやってきた。
「お嬢、失礼します。報告がある……の、です、が……」
しかし彼は、そこで意味不明にクネクネしている主の姿に戸惑い、言葉に詰まってしまった。
「ぐふふ、遂に私は本懐を遂げられ……って、何ですかアベル?今いいところだったのに!」
主の予想外の反応に、彼は更に困惑したが、賢明にも彼はなんとか要件を伝えるという使命を思い出した。
流石は副団長である。
「は?はあ……、え、ええっと、そう!報告があるんですよ!」
が、それに対してセシルの反応は薄い。
「今、忙しいのですが……まあ、いいでしょう。手短に」
「はい、前方に展開している部隊からの報告で、第二王子派の貴族達の軍、約二千が出現しました」
その言葉で、漸くアベルは内容を伝えることができた。
「そう、で?」
「はい、我が騎士団の旗を見て、早々に逃げ出しました。恐らく、それぞれの領地に戻ったものかと思われますが、如何されますか?」
が、それを聞いたセシルは、
「うーん、では滅ぼしましょうか、行き掛けの駄賃です。アベル、四千人を預けるので、貴方ちょっとその連中を滅ぼし来て下さい。仔細は任せますから」
まるで街に出るならついでに何か買ってきて、ぐらいの気軽さで指示を出した。
「はっ!……え?ええ!?」
可哀想なアベルは、さっきから困惑しっぱなしである。
「私、今忙しいので適当にちゃちゃっと殺っちゃって下さいな」
「え、いや、お嬢!?」
「あと、リアン様には言わないように。余計な時間を使わせたくありませんので」
「はい……」
「それと一応、待ち伏せ等の罠には気をつけて下さいね。あ、終わったらそのまま帰っていいですよ?褒賞はお父様に多めに出すように言っておきますから、安心して下さいね。では行きなさい」
セシルそれだけ言うと前を向き、ご褒美の内容を考える為、再び物思いに耽り始めたのだった。
「……」
アベルは最早言葉もなく、何とも言えない顔でそのまま去っていった。
そして、暫く思索に耽った後、セシルはふと、あることを思い出した。
「そういえば今頃、王都ではマリー達がフィリップ様を懲らしめている頃ですね。残念ながら私は同席出来ませんが、きっとその分、しっかりとお仕置きしてくれますよね!」
そう、王都で同時進行しているであろう、マリーによる『お仕置き』について。
ノエルが持参したマリーからの手紙に、フィリップのことは任せろ、と書いてあったのだ。
「それにしてもフィリップ様もお可哀想に……私なら一刀両断で終わりですが、陰険で陰湿で凶悪な悪魔のようなあの娘なら、きっと生まれてきたことを後悔させながら、じっくりと色々な意味でいたぶるのでしょうね……。まあ、自業自得ではありますが」
セシルは至極真っ当な評価だが、本人が聞いたら憤慨しそうなことを言った。
だが最後に、
「あ、そういえば、私はリアン様の敵をちゃんと『全滅』させた訳ですし、マリーも喜んでくれますかね、フフ」
全く的外れな発言をしたのだった。
更に同じ頃、トゥリアーノン宮殿、フィリップの私室付近の廊下にて。
そこでは、フィリップに死刑を言い渡されたリゼットが両脇を抱えられ、衛兵にズルズルと引きずられていた。
「ひぃ〜、死にたくないですぅ〜」
リゼットはそう言いながらバタバタ暴れていたが、
「おい、静かにしろ!逃げられやしないんだ、諦めろ!」
「え?……も、もがぁー!」
衛兵の一人に猿ぐつわをかまさて、喋れなくされてしまった。
「全く、てこずらせやがって!」
と、そこでもう一人の衛兵が、
「なあ、こいつこのまま死刑だよな?」
と、嫌らしく下卑た笑みを浮かべて言った。
「ああ、そうだな」
「だったら、その前に俺たちで楽しんでもいいんじゃないか?」
それを聞いたもう一人も、同じようにニヤリと笑い、同意した。
「ああ、そうだな!こいつ、結構いい身体してるし、そうしようぜ!」
「もがぁ!?」
そして、リゼットは近くの物置へと運ばれて行ったのだった。
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