第79話「断捨離作戦⑨」

「では、作戦会議を始めます。レオニー、状況の報告を」


 私はそう告げて横に立つレオニーに報告を促し、彼女はそれを受けて、しかつめらしい顔で説明を始めました。


「はい、セシル様。では経緯から説明致します。まず、ルグラン侯爵はフィリップ殿下より、マクシミリアン殿下の遠征隊が向かっているとの情報を受け、これを迎え撃つべく挙兵しました。さらに、周辺の同派閥の貴族達がこれに呼応し合流、またフィリップ殿下の密命を受けた第二王子派閥の貴族達が密かに人員、物資の支援を行なっているようです」


 おやおや、流石はフィリップ様、手回しの良いことで。


「なるほど、だから事前の準備も無しに兵と物資を集められたのですね」


 レオニーのお陰でちょっとした私の疑問が解決しました。


 そして、レオニーは淡々と報告を続けます。


「はい、その通りです。そして、現在ルグラン侯爵領には約三千の兵が集結中で、彼らの計画では未明に野営地を出発し、夜明けと共に遠征隊を襲撃するつもりです。なお、この他にもルグラン侯爵領へ後詰めとして約二千が遅れて集結する予定のようです」


 なるほど、リミットは夜明けまで、ということですか。


 これは速やかにルグラン領へ移動し、暗いうちにさっさと連中を血の海に沈めないと……おや?


 おっと、まさかのここで問題が発生です。


 実はさっきからそんな気がしていたのですが、馬鹿な男共が明らかに話に集中していないのです。


 理由は簡単、目の前で説明をしているレオニーです。


 さらに言えば、男共の視線は彼女の美しいボディライン、特に胸の辺りに集中しています。


 この馬鹿者共が!


「貴方達、真面目に聞きなさい!全員出撃前に戦死したいんですか?ブチ殺しますよ?」


「「「ひっ!も、申し訳ありませんでした!」」」


 私の言葉を聞いた馬鹿共は慌てて居住まいを正しました。


 全く、コイツら……。


「ていうか今まではそんなこと一度もなかったじゃないですか、貴方達、一体どうしたのですか?」


 と、私はそこで純粋な疑問を口にしたのですが、それに対してアベルがとんでもなく屈辱的なことを言いました。


「いや、だって、アレは細やかお嬢のとは物が違いま……ぶへっ!」


「死ね!」


 私は咄嗟に馬鹿なことを言った副団長に渾身のラリアットを叩き込み、叫びました。


 そして、アベルは十メートル程飛んでいき、壁に激突して動かなくなったのです。


 あら残念、副団長が不慮の事故で不在になってしまいました。


 自業自得ですが。


 全く失礼な!私のだって……た、確かに大きさはあれですが、形は悪くない筈です!……ですが、ぐっ!……確かにあれはヤバいです。


 私はレオニーのそれを見ながら胸囲の格差を実感させられていました。


 因みに今日のレオニーはいつものメイド服とは違う任務用の忍び装束的な服を着ているのですが、これがまたボディラインが強調されるので何というか……凄くエロいんですよ。


 それにあの大きさ、形、艶……凄く揉み応えがありそうですし……く、悔しくなんてないんですからね!


 まあ、当のレオニーはそういう視線に慣れているのか涼しい顔ですが。


 さて、なんかに心にダメージを負ってしまいましたが、話を先に進めましょうか。


「それで?」


 私の言葉にレオニーが再び淡々と、


「はい、申し訳ありませんが、この脂肪の塊に触ることを私が許すのは世界で一人だけと決めているので……」


 ふざけたことを言い出しました。


「違います!おっぱいの話題はもういいのです!さ、次です!次!」


 この女、ワザとやってませんかね!?


 ブチ殺しますよ!?


「……畏まりました。話を戻しますと、さらにマクシミリアン殿下襲撃を確実なものとする為、ペリン領と王都の間にも、フィリップ様の手配によって第二王子派の貴族率いる数千が移動準備中とのです。これはルグラン軍と共にマクシミリアン様を挟み撃ちにする目的と、万が一、殿下を取り逃した場合の保険という目的があるようです。」


「なるほど、フィリップ殿下も本気ということですか……いいでしょう、ならば戦争です。その首、私が貰い受けます!」


 これはもう、遠慮は入りませんね。


 王族だろうが、リアン様の弟だろうが、必ずや生まれてきたことを後悔させてやります!


 と、私が意気込んでいると、レオニーが、


「ただ……フィリップ様ご本人は王都から出ず、全て配下に任せるようです」


 そう付け加えました。


 全く、相変わらず自分は安全なところから指示だけ出すのですね、フィリップ様は。


 そんなことだからリアン様に勝てないのですよ。


 全てにおいて。


「情けない男ですね。自分の将来が決まる大一番なのですから、私なら必ず出向きますけどね」


 私は侮蔑の表情を浮かべながら言いました。


「それで如何されますか、お嬢」


 おや?そこでいつの間にか蘇生したらしいアベルが問うてきました。


「はい、それでは作戦を伝えます。まず先発隊三千は私と共にルグラン軍の野営地を強襲します。次に後発隊二千はアベル、貴方が指揮を執り、ペリン領に向かいなさい」


「了解です、お嬢」


 さっきとは打って変わって真面目な表情のアベル。


「貴方は兵が集まり次第、ペリン領の北側に展開し、そこで守りを固めなさい。仔細は任せます。王都方面から来る敵を蹴散らしなさい」


「はっ!」


 アベルはカチッと敬礼しました。


 では、次。


「レオニー!」


「はい」


「貴方を含む暗部は、私達の行軍の先導、敵野営地の見張りの排除、そして可能ならば潜入してルグラン侯以下首謀者の身柄と証拠の確保をお願いします」


「畏まりました」


 私がそう命じるとレオニーは恭しく応じました。


「あ、レオニー。可能な範囲で構いませんので、首謀者は生きたままでお願いします。私達からリアン様への手土産にしますから」


「はい、畏まりましたセシル様。一応確認しておきたいのですが、捕まえた連中は、生きてさえいればいいのですね?」


 ここでレオニーはニヤリと笑いながら敢えて私に確認をしてきました。


 お、レオニーがやる気を出してますね、いいことです。


 いやー、それにしても彼女みたいなクール系美人のこういう笑みって怖いですよねー。


 そんなことを考えながら、私も同じように口元を歪ませながら彼女に答えました。


「ええ、勿論です。取り敢えず意識があって息をしていればそれでいいですよ」


「ありがとうございます、セシル様。では後程」


 私の言葉を聞いたレオニーは、一礼してからシュバっと消えました。


 いつも思うのですが、これどうやっているのでしょうか?


 私、気になります!

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