第80話「断捨離作戦⑩」
「では、改めて指示を出しますから、先発隊の幹部は私の元へ、後発隊はアベルの元へ集合しなさい!」
「「「はっ!」」」
そう言うと、厳ついベテラン騎士達が私の元へ集まって来ました。
「いいですか、この作戦は私の愛するリアン様の命運が掛かっています!失敗は許されません!心してかかりなさい!」
「「「はい!」」」
「では、具体的な内容に入ります。今から私達は暗部の先導でルグラン軍野営地まで速やかに移動。その後これを強襲、撃滅します。見張りは可能な限り暗部が排除してくれる予定ですが、私達は極力気づかれないように行動する必要があります。なお、夜間ですので敵味方識別の為、合言葉と白い腕章を必ず準備させなさい」
「「「はい!」」」
「合言葉は……あ!そうです!『シャケ』『クマ』です。いいですね?」
よくわかりませんが、なんとなくこれが良いと思いました。
「「「は?はい……」」」
「宜しい。そして、会敵後の命令は一つです。動くものは全て敵です。躊躇なく斬りなさい。以上です!」
「お嬢様、質問があります」
そこで一人の若い騎士が挙手をしました。
「はい、許します」
「ありがとうございます、敵の軍人以外の扱いは如何されますか?例えば、商人、商売女、奴隷、その他の非戦闘員等は……」
ああ、なるほど、それらを斬っても後々対外的に政治的な問題にならないか、という確認ですか。
いい質問です、彼はかなかな見所がありますね。
「斬りなさい。夜間に見分けなど付きませんし、それを気にして味方に損害が出たら困ります。そもそも戦場にいる方が悪いのですし、彼らも覚悟がある筈です」
私は彼を見て躊躇なくそう答えました。
まあ、もし問題になったらお父様かマリーに丸投げしてしまえばいいですし。
「はい、畏まりました」
そして、彼は素直に了解しました。
流石は我が騎士団員です。
彼を含めて、今のを聞いて民間人に被害を出すのはダメだ!などという愚か者はいません。
まあ、そんな愚か者がいれば今ここで消えて貰いますが、ね。
「他にありませんか?…… では速やかに出撃準備、それが完了次第出ます!」
「「「はい!」」」
さあ、行きましょうか。
「では、解散!」
「「「はっ!」」」
私の言葉に団員達はピシリと敬礼し、慌しく散っていきました。
それから数刻後、スービーズ城を出発した私達は暗闇の中を暗部員達の先導で素早く移動し、数時間後にはルグラン軍の野営地を見下ろす丘の上まで進出していました。
レオニー達の頑張りによって、私達の動きはまだバレていないようです。
暗闇の中、眼下の敵野営地には無数の篝火や天幕、繋がれた馬や焚き火を囲む兵士達が見えます。
さらに、景気づけの為かお酒も許されているようで、あちこちから陽気な声が聞こえたり、商売女と一時の快楽に耽っているような卑猥な声があちこちから聞こえています。
これから命のやり取りをしに行く予定なのですから、気持ちはわかりますが、我がスービーズ家が味方になると決まった訳でもないのに、この状態はマズいと思いますけど……。
あ、そう言えばレオニーがスービーズ騎士団はルグラン軍に味方するという偽情報を流してくれていたのでしたっけ。
まあ、兎に角、敵が完全に油断しているこの状況は私達にとってありがたい話なので、大歓迎ですが。
正直、近づいたところで敵が気付き、それを私達が強襲することになると思っていました。
お陰で完璧な奇襲になりそうです。
と、ここで部下から戦闘隊形に移行したと報告がありました。
では、いよいよですね、と思ったところでまた背後から声がしました。
「セシル様」
スーっと闇の中からレオニーが現れました。
「レオニー、様子はどう?」
「はい、予定通り、ルグラン侯爵へセシル様からの使者に偽装した暗部員を送り込み、セシル様への工作は成功したと偽情報を流しました。ですので、連中は完全に油断しております。使者のアルマン男爵はセシル様に歓待を受け、後程スービーズ騎士団の援軍と共に来ると伝えてあります」
「ご苦労様。では、間もなく攻撃を開始するので、部下達を退避させなさい」
「はい、畏まりました。ではこれより私達は独自に行動させて頂きますので、これで失礼致します」
そして、レオニーは再び闇の中へと消えて行きました。
さて、ではパーティーの時間です。
私は隊列を整えた団員達の方へ向き直ると檄を飛ばしました。
「注目!聞きなさい!これより皇太子マクシミリアン殿下に仇なす賊を討ち果たします!連中に情けは無用です!今宵、このルグランの地を、奴らの血で染めてやりなさい!」
「「「おう!」」」
「いいですか?動くものは何であろうと全て斬りなさい!逃げる者は敵兵です!逃げない者はよく訓練された敵兵です!容赦はいりません。リアン様に害をなす叛徒共を必ず地獄へ送ってやりなさい!抜剣!」
ここで闘争心の塊となった私はそう叫んだ後、お母様愛用の真紅のランス(長槍)を頭上に掲げました。
「「「おう!」」」
それに兵達も剣や槍を掲げて応えました。
私はそれを確認し、
「全軍、私に続きなさい!突撃!」
号令を発しました。
そして、私を先頭に騎兵一千が、楔形の陣形で突撃を開始し、一気に敵野営地を蹂躙。
続いて槍兵二千が横隊を組んで前進し敵野営地を直撃、騎兵の攻撃で混乱した敵を掃討していきました。
完全に不意を突かれたルグラン軍は大混乱に陥り、そこかしこで悲鳴や怒号が飛び交い、篝火は倒され、天幕は燃え上がりました。
驚いたのはルグラン軍の対応が予想外に酷く、私達にただ蹂躙されるばかりか、混乱して同士討ちすら始める始末だったことです。
敵兵の大半は呆然と立ち尽くすか逃げ惑い、ごく一部が冷静に武器を持って立ち向かってきました。
しかし、そんな相手に我が騎士団が負ける筈はなく、敵兵の多くはそのまま騎馬に踏み潰されるか跳ね飛ばされ、稀に立ち向かってくる勇敢な者は私のランスに串刺しにされたのです。
運良くそれらをやり過ごした者も、例外なく槍兵隊にトドメを刺されました。
正直、あまりの呆気なさに拍子抜けでした。
そして、そのまま私達はレオニーが突き止めた敵司令部目掛けて一直線に突き進んで行ったのです。
同時刻、ルグラン軍司令部用天幕付近。
そこでは周囲に無数の屍が転がっているという異様な光景が広がっていた。
そして、その中心には血塗れのダガーを両手に携えた漆黒の影が一つ。
悠然と佇むその影は、周囲に敵がいないことを確認すると、静かに司令部に向かって歩き出したのだった。
「覚悟しろ、リアン様に歯向かう逆賊ども」
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