第64話「赤騎士爆誕②」

 翌日、私はお父様と一緒にシャルル陛下にお会いすることになりました。


 そして、朝一で王宮を訪れた私達は玉座の間ではなく、陛下の私室に通されたのです。


 そこで普段の厳めしい表情とはかけ離れた穏やか表情のシャルル陛下に私達は迎えられました。


 あ、あと護衛の人選の件の為なのか、部屋には近衛師団長もいました。


「おはようセシル、よく来たな」


「おはようございます、シャルル陛下」


 あの騒動以来久しぶりにお会いした陛下に私は恭しく挨拶を返しました。


 それに対して陛下は、


「ああ、セシル。今日は公式の謁見ではないから、堅苦しいのはやめよう」


 穏やかにそう言われました。


「畏まりました、シャルルおじ様」


 因みに、昔からプライベートな場では陛下のことをこのようにお呼びしていました。


「ああ、それでいい。でもお前はダメだエクトル。で、セシル。今日の用向きは?」


 陛下は親友であるお父様に向かってニヤリと笑いながらそう付け足し、私に先を促しました、が。


「……この野郎。こほん……、それは私から説明いたします」


 と、お父様が会話に割込みました。


「全く、せっかく可愛いセシルと話をしていたというのに無粋な。で、要件は?」


 急に話に入ってきたお父様に対して陛下は不貞腐れたような顔をして、再び先を促しました。


「くっ……コホン、要件は昨日お話を頂いたマクシミリアン殿下の護衛の人選の件でございます」


 問いに対して今度はお父様がわざとらしく慇懃に応じました。


「ああ、その件か。それで?」


「はい、実は……我が娘、セシルを推挙したいと思い……」


 と、そこでお父様が嫌そうにそれを言い掛けた、その時でした。


「ならん!」


 言い終わる前に陛下に速攻で却下されました。


「エクトル、お前正気か!?嫁入り前の一人娘に何かあったどうするのだ!」


 そして陛下は若干、素を出しながら激怒しました。


 しかし、お父様は、


「おお!ありがとうございます陛下!そうですよね!?」


 陛下に反対意見をもらい、何故か嬉しそうにしています。


 くっ、お父様の裏切り者。


 まあ、いいです、後で覚悟することですね。


 と、今はお父様のお仕置きではなく、陛下にご裁可を頂かないと。


「シャルルおじ様、なぜ私ではダメなのですか?」


 一応、健気な感じで聞いてみます。


「理由?そんなもの決まっているじゃないか。セシル、君が心配なのだよ。私にとって君は実の娘も同然、もしものことがあったらと思うと心配で心配で……」


 むぅ、可愛がって頂くのは結構なことですが、過保護過ぎやしませんかね……。


「シャルルおじ様、それはつまり、私の強さが足りないから万が一の時に私もリアン様も危険だ、という意味でございますか?」


「んん?ま、まあそんなところだな」


 怪訝そうな顔をしながら陛下はそうお答えになりました。


 なんだ、でしたら問題は解決したも同然です!


「でしたらおじ様!今ここで私の強さを証明致します!そうしたら私がこの国で一番護衛に適任だとお認めくださいますよね!?」


「え?いや……でも、どうやって?」


「セ、セシル。陛下も反対された訳だし諦め……」


 それに対しておっさん二人がなんか言ってますが、知りません。


「うるさい」


「「ひっ!」」


 さあ、続きです。


「コホン、ではおじ様、今から私がそこにいる、一応このランスで一番強いということになっている近衛師団長を鎧ごと真っ二つにしてご覧に入れます。それをもって強さの証明としたいのですが、如何でしょうか?」


「「「!?」」」


「この国で最強の人間こそが殿下の護衛にふさわしいと思いますので。さあ、始めましょうか?闇のバトルを!」


 と、私はテンションが上がって若干、訳の分からないこと言いながら陛下の横に突っ立ていた近衛師団長に視線を向けたのですが……。


「へ、陛下!吾輩、ちょっと用事を思い出しましたので、これで失礼を!」


 獲物が逃げ出してしまいました。


「「……」」


「あら、困りました」


 陛下とお父様は唖然と逃げ出した男を見送りました。


「エクトル」


「はい、陛下」


「あいつ、クビ」


「畏まりました」


 そしてクビになりました。


 可哀そうに、私に斬られる前に解雇されてしまうなんて。


「困りました。これでは私の強さを証明できません。……ああ、そうだ!おじ様、私と直々に剣で勝負を致しましょう!それならもれなく私の強さを……」


「大丈夫だセシル!君の強さはよくわかっているから!認めよう!君が最強だ!」


「……むぅ、なんだか不完全燃焼ですが、まあいいでしょう。では、私をリアン様の護衛に!」


「まあ、待て!セシル。その前に教えて欲しい。そこまでしてアレの護衛になりたい理由はなんなのだ?」


 困惑と脅えが混じった表情のおじ様は私に問いました。


「そんなこと決まっているではありませんか。リアン様の未来の妻として、未来の夫の傍にいたいのです!」


 と、自信をもって私は言ったのですが、


「ああ……セシル、以前に私とエクトル、そしてマクシミリアンの話を聞いて知っていると思うが、アレと君の婚約破棄はもう決まったんだ。辛い現実だとは思うが、受け入れて欲しい」


「そうだセシル。きちんと現実と向き合うんだ。それに、その先には君の本当の想い人である第二王子フィリップ殿下との婚約だってあるんだよ?」


 なっ!?一体なんですか!この反応は!


 全く失礼な中年オヤジ共です、可哀そうな人を見る目で私を見て!


 ぶち殺しますよ!?


「あの……おじ様、それにお父様。何か勘違いをされていませんか?」


「「……え?」」

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