第65話「赤騎士爆誕③」
「何か勘違いをされていませんか?」
「「え?」」
どうやらお二人共、随分と誤解をされているようです。
「まず、私は婚約破棄を受け入れます。それはもう決まったことですから」
誠に遺憾ではありますが、これはゴネても仕方ありませんし、実は次の手も考えていますから、大人しく受け入れます。
「そして、フィリップ様との婚約ですが、私は全く望んでいません」
ええ、全く。
と言うか、絶対嫌です。
「「え?そうなの?」」
やはり勘違いしたおっさん二人が目を丸くして驚いていますね。
「まあ、これは仕方のないことなのかもしれません。私の所為でリアン様はそう思い込んでいましたから」
「ああ、そうだ。殿下がそう仰ったから我々はそのように考えていたのだけど違うのかい?」
お父様が先を促します。
「はい、違います。実は私がリアン様に少しでもヤキモチを妬いて欲しくてフィリップ様に視線向けていただけなのです。ですから私、本当はフィリップ様のことなんて嫌いです」
「「!?」」
二人とも更に驚いていますね。
「フィリップ様は一見、容姿端麗で聡明、そして貴族から庶民にまで優しく、差別をしない公明正大な方、ということになっています。でも、私からすれば確かにイケメンですがリアン様には一枚劣りますし、聡明で優しいと言うのも上っ面だけで影では気に食わない貴族や使用人に陰湿なイジメをしていますし、庶民の扱いに至っては虫けら同然です」
「「え?マジ?」」
おじ様はもう少し子供の実態を把握するべきではありませんかね。
「大マジです。そして、幼い頃から幾ら努力しても敵わないリアン様に相当な劣等感を抱え、いつもリアン様の足を引っ張ろうと一生懸命でした。更に、リアン様が事故であんな風になってしまった時など、小躍りして喜んでいました。そんなちっぽけな器の人間なんて、私好みではありませんから」
申し訳ありませんが私、そんな男としか釣り合わないような安い女ではありませんので。
「……そうか。フィリップの事は分かった。だが、一つ聞かせて欲しい。何故、未だにマクシミリアンに拘るのだ?もうアレは変わってしまい、かつて程の聡明さ無く、フィリップを慕っていると勘違いしていたとしても、君にあんな酷いことを言ってまで自由を望んだ男だぞ?」
陛下が真剣な眼差しで問うてきました。
ここは、愛に理由はいらないのです!と答えたいところですが、ちゃんと細かく説明しなければ陛下は納得されないでしょう。
「構いません。私はそれでもあの方をお慕いしています。確かにリアン様はあの事故以来変わってしまいました。でも、私には分かるのです。本質的な部分は変わっていないと。あれから邪険に扱われたり、酷い事も言われましたが、最後にはこそっと謝ってくれましたし、他人に対して我儘は言っていましたが、陰湿なイジメや侮辱するようなことは言っていなかった筈です。ずっと見ていた私にはわかるのです。あの方は、根は優しいままなのだと。だから、今でも、そしてこれからも私はリアン様が大好きなのです」
私は胸を張ってそう答えました。
「そうか、よく分かった。アレのことを大事に思ってくれてありがとう、セシル」
私の言葉を聞いて陛下は嬉しそうにお礼を言われました。
「勿体なきお言葉です、おじ様」
と、何となく暖かく良い感じのシチュエーションになりました……が、話を戻すことにしましょうか。
「さて、誤解も解けたようなのでここからは私の計画を提案、いいえ、宣言させて頂きます」
さあ、勝負はここからです!
「え?計画を提案ではなく宣言?」
「セシル、一体何を?」
二人とも良い感じの雰囲気からいきなり宣言を始めた私に驚いています。
「まず、先程も申し上げた通り婚約破棄を受け入れます」
「……本当にいいのか?」
「はい。そして……」
寧ろ、必要なことですから。
「「そして?」」
「もう一回婚約します!」
「「……え?……ええ!?」」
ふふ、そう、これこそが私の計画なのです!
「婚約破棄の発表後、もう一度婚約します!」
大事なことなので二回言いました。
名付けて、『婚約破棄になるならもう一回婚約しゃちゃえばいいじゃない!』作戦。
そう、簡単なことなのです。
婚約が解消されたら、ほとぼりが覚めるまで少し期間を置き、それからもう一回婚約をすればいいだけの話なのです。
「「!?」」
と、そこで先に我に返った陛下が問うてきました。
「だ、だがセシル、その時にはアレは廃嫡され平民なのだぞ?」
「だから、何か?」
「え?」
「別に何も困ることなど無いのでは?いえ、寧ろ都合が良いのでは?」
「?」
陛下は訳が分からないようです。
「だって、平民になったリアン様が私と結婚するという事は、あの方が婿養子となってスービーズ公爵位を継ぐということですから」
「なるほど……確かに悪くないな」
「確かにありだ。盲点だった」
お、二人とも食いついてきました。
「そうすれば廃嫡後もリアン様は国の為に働くことになりますから、陛下やお父様の思惑通りなのでは?」
と、ここで私は意味ありげにニヤリとしてみたり。
「な、何のことだろうか?」
「そ、そうだよセシル」
どうやら予想が当たったようで二人とも狼狽しています。
「しらばっくれても無駄です。小賢しい陛下とお父様のことですから、リアン様をただ廃嫡して自由にする気など、さらさら無いのでしょう?」
「「小賢しいって……」」
「大方、リアン様の優秀さを目の当たりにしたお二人は何とか引き留めたくなったのでしょう?国王にすることは諦めましたが、一度廃嫡してほとぼりが冷めた後、適当な爵位を与えてもう一度働かせるおつもりなのではないですか?」
「「な、何故それを!?」」
私はズバリ答えました。
「やはりそうでしたか。それぐらい少し考えれば分かりますよ?だって私、これでも宰相の娘ですから」
ええ、私それなりに頭もいいのですよ。
……何か文句でも?
「ま、まさかセシルに見破られるとは!」
「何ということだ、意外過ぎる!」
あれ?何か微妙な反応ですね、これはもしや……。
「あ、もしかしてお二人共、今まで私のことを剣とリアン様の事しか頭にない脳筋娘だとお思いだったのでは?」
「「……」」
おっさん達は口笛に失敗しながら目を泳がせています。
これはギルティですね。
「ぶち殺しますよ?」
「「ひぃ!?」」
「と、お仕置きは後にするとして話を進めましょうか。お願い、と言うか確認があります。私の計画はお二人の思惑通り、いえそれ以上の成果をもたらすのですから、当然私の計画に協力して頂けますわよね?」
利害は一致しているのですから、二つ返事で乗ってくる筈なのですが……、
「むう、困ったな」
「確かにそうなのだけど……」
あら、様子がおかしいですね。
「何か問題でも?」
「え、いや、その……」
「セシル、実は先日、同様の提案があってね……」
「はあ!?だから何だと言うのです!リアン様が私と結婚して、二大公爵家の一つである我がスービーズ公爵家を継ぐこと以上の提案などある訳が……」
そうです!我が国の貴族筆頭である二大公爵家の我が家の婿養子になる以上の提案など……ん?二大公爵家?……二大?……っ!?まさか!
「お父様!同様の提案というはまさか!?」
物凄く嫌な予感がします。
「あ、ああ。実は先日、マリー様から殿下を同じ二大公爵家の一つであるブルゴーニュ公爵家の婿養子に、というご提案があったんだよ」
「なっ!?先を越された!?あの小悪魔め!」
やはりあの娘でしたか!許すまじ、です!
「健気にもマリー様はこの国の為に、一度王女としての地位を捨て、公爵令嬢に戻ったあと改めて殿下と結婚をしても良いと言って下さったのだよ」
しかも上手く同情を買ってるし!
「何が健気ですか!何が結婚しても良いですか!あの小悪魔にとってリアン様と結婚出来るなら王女の地位なんて何の未練も無く捨てますよ!それを恩着せがましく……許せません!」
何という事でしょう!これはあの小悪魔と一度話をしなければいけませんね。
と、それは後にして大事なことを先に決めてしましょう。
「業腹ですが、取り敢えずその件は後で話し合うとして、先に殿下の護衛の件を決めましょう。おじ様、私を推薦して下さいますよね?」
「確かにセシルの気持ちはよくわかったが、しかし、やはり危ないし……」
この期に及んでおじ様はまだ渋っています。
もう、じれったいですね!
「やって下さい」
「うむ……」
「やって」
「でも……」
「やれ」
「はい……」
ここで場面は女子会?に戻る。
「と、言う感じで私は護衛に決まったのですよ」
セシルは嬉しそうに事の経緯を話したのだが……。
「「「……」」」
他は全員絶句していた。
(陛下に何てことを!?)
(セシル様って、ただの脳筋じゃなかったのね)
だが、空気が読めないセシルは更に話を続けた。
「あと、この鎧は帰ってマルセルに相談したら嬉しそうに用意してくれました。これ、お母様のものなんですよ?」
「「「……」」」
「おや皆さん、どうかされました?」
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