第62話「女子会?①」

 セシルが金貨(物理)を使い無理やり捕虜の口を割らせた翌日。


 ここはトゥリアーノン宮殿の庭。


 青々とした芝が一面に広がるこの場所で、贅沢にもわざわざテーブルセットを運び込み、お茶会をしている令嬢達がいた。


「……という段取りで行きますから、皆さんお願いしますね?」


 お茶会の主催者であるマリーが、参加した令嬢達に何かの指示を出していた。


「畏まりました、マリー様」


「了解です!」


 マリーの確認の言葉に、エリーズは恭しく、リアーヌは元気よく返事をした。


「「「畏まりました、マリー様!」」」


 そして、その他大勢のセシル親衛隊の令嬢達も口をそろえて返答した。


「皆さん、ご協力ありがとうございます。これもセシル姉様の為なのです」


 それに対してマリーが礼を言うが、ここで口を挟んだ不届き者がいた。


「ちょっとー、何なのよ?人をいきなりこんなところへ連れてきて。今日は数少ない休みだってのに……」


 と、不満げなアネットが文句をいいだしたが、


「黙れ、このビッチ」


「舐めてんのかテメェ!?」


 その瞬間に、エリーズとリアーヌに暴言を吐かれ、さらに他の親衛隊メンバーの射殺さんばかりの視線を向けられて、黙らされた。


「うっ……な、何よ!やんの!?」


 これには図太いアネットも流石にたじろぎ、居心地が悪そうにしている。


 と、そこでマリーが割って入った。


「まあまあ、皆さん。今日だけは共通の目的で協力する為に集まっているのですから、落ち着いて」


「はい、マリー様」


「わかりました」


 その言葉でエリーズ、リアーヌ、その他の令嬢達は大人しくなった。


「ありがとう、皆さん。ことが済んだらこの女は好きにしていいですから、少しだけ我慢してくださいね?」


 と、マリーは笑顔で付け加えた。


「ふぅ、助かった…って、ちょっと!?それ困るんだけど!?」


 取り敢えず助かったと安堵したアネットが即座にツッコんだ。


「もう、うるさい女ですね。身から出た錆なのですから、自分で何とかしなさいな」


「ぐぅ……」


 言葉に困ったアネットに構わず、マリーは話を続ける。


「さて、説明は済みましたね。あとは……リゼット」


「はいぃ、ここにおりますぅ」


「部隊の展開は?」


「そ、それがトラブルで予定より少し遅れが……」


「なんですって?全く、使えない脳筋共ね。仕方がありません。私が何とか時間を稼ぐから急がせなさい」


「はいぃ!」


 そういうと、リゼットは苛立ったマリーに怯えながら駆けていった。


「ああ、困りました。後は、少しでも姉様が遅れてくれることを……」


 と、マリーが言いかけた時、皮肉にもちょうど空気を読めない赤い鎧が現れた。


「ご機嫌よう、マリー、皆さん」


 そして、優雅にカーテシーをしながら挨拶した。


「「「……」」」


 だが、フルフェイスの赤い鎧が完ぺきなカーテシーを決めるという、実にシュールな光景にマリー、アネット、それに親衛隊の面々は言葉が出ない。


「あら?皆さん、どうかしましたか?」


「「「……」」」


 だが、そんな微妙な空気を珍しくセシルが察した。


「?……ああ!ごめんなさい、この格好で皆さんに会うのは初めてでしたね!」


 セシルはそういうと、兜を脱ぎ、アネットと親衛隊の面々を驚かせた。


「「「!?」」」


 鎧姿に髪をシニヨンにしたセシルは、まるでどこかのセ〇バーのような感じである。


 まあ、赤色だが。


「驚かせちゃいましたね、実はリアン様のところからそのまま来たので……」


 それに対してアネットは、あきれ、


「あんたって人は……」


 親衛隊は、


「セ、セシル様、だったのですね……」


「姉御、かっこいいぜ!」


「セシル様!素敵です!」


「ああ、鎧になりたいですわ!」


「捕まえてくっ殺プレイを……」


 と言う感じの反応だった。


「こほん、これはこれはセシル姉様、ご機嫌よう。急なお茶会にお出で頂きありがとうござます」


 そこでマリーがまるで何もなかったかのように、平然と挨拶を返した。


「いいえ、いいのよ。ちょうどリアン様から今日の午前中はレオニー達と別の用事があるから休むように言われたの。それに、皆さんの顔も見たかったし」


「そうですか、それは運が良かったですわ……では姉様、こちらへ」


 素知らぬ顔でセシル(セ〇バーVer)を席へと誘うマリー。


 だが、実はレオニーからリアンの予定を聞いて全部知った上で今日の茶会を計画したのだが。


 と、そんな微妙な感じで始まったお茶会だったが、始まってみれば意外にもなごやかに進み、いい雰囲気だった。


 特に、サロン襲撃事件以来、セシルが金髪ドリルから赤い鎧と化してしまい、しばらく会っていなかった親衛隊の面々が喜んでいた。


 そんな中で皆が気になっていたことをエリーズが代表して口にした。


「ところでセシル様、なぜそのような格好で殿下のお傍にいらっしゃるのですか?」


 問われたセシル(セ〇バーVer)は、


「え?ああ、皆さんは知らないのでしたね。せっかくですからお話しましょうか」


 快く答えた。


 だが、そこでアネットが空気を読まずに、


「えー、私は別にそんなのどうでも……ひっ!」


(((黙れ、ビッチ)))


 言い掛けたところで、親衛隊の殺気で黙らされた。


 そして、セシルは穏やか話し出す。


「あれは、皆さんとサロンを襲撃した翌日のことでした」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る