第61話「尋問⑤」
セシルが勘違いで捕虜を半殺しにしてから約一時間後、マリーの部屋にて。
「マリー様、捕虜の口を割らせることに成功致しました」
マリーの机の前に立ったレオニーが淡々と報告を始めた。
「あら?予想外に早く終わったわね。それでレオニー、尋問の結果は?」
意外な報告にマリーは若干の驚きを見せつつ、先を促した。
「はい、マリー様。結論から申しますと、黒幕はフィリップ殿下でした」
「……まあ、そうよね。予想通り過ぎて拍子抜けね」
「はい、全くでございます」
レオニーが同意する。
「詳細は?」
「はい、フィリップ様が婚約破棄騒動を裏で扇動して成功させたのにも関わらず、マクシミリアン殿下の廃嫡が中々発表されないことと、セシル様とマリー様が婚約破棄騒動後も変わらずマクシミリアン様を慕っていることが許せなかったようです」
「それで?」
「どうやら騒動の後、傷ついたセシル様と、殿下の醜態を見て幻滅したマリー様に近づいて誘惑し、お二人を我が物にしようと企んでいたようです。ですが、ものの見事に思惑が外れた為、遂に我慢できず強硬手段に出たようでございます」
それらを聞いたマリーは無表情で一言。
「浅はかな男ね」
「同感でございます。で、如何されますか?」
そして、レオニーは今後の指示を請う。
「殺りなさい」
「マリー様」
本気でないことはわかっているが、一応レオニーはマリーを諫めた。
「……なんてね、わかっているわよ。あの男を殺してしまったら、リアンお義兄様の計画が根本から崩れて迷惑が掛かってしまうもの」
そういうとマリーは肩を竦めて見せた。
「では、如何されますか?」
「勿論、ただでは済まさないわ」
その台詞と共にマリーの目が力を帯びた。
「具体的には?」
「近いうちに私が直接話をするわ。ちょうど、七年前の事件の証人も見つかったことだし」
「はい、畏まりました」
「ただ……」
ここで初めてマリーが困ったような顔をした。
「ただ?」
「セシル姉様にどう説明したものかと思って……」
「ああ、確かに……」
珍しくレオニーも一緒に困った顔になった。
「どちらの件も姉様に知られたら、間違いなくその瞬間にあの男を殺しに行くでしょうから……」
「はい、確実にそうなりますね……」
「でも、隠したままという訳にはいかないから……まあ、とりあえずそのことは置いておきましょう。私が折を見て何とかするから」
そしてマリーは溜息をつきながら話を纏めた。
「畏まりました、マリー様」
それに対してレオニーは了解の意を示し、退室しようかと考えた時だった。
「さて、話は終わりなのだけど……」
「何か?」
何か聞きたそうなマリーにレオニーが先を促した。
「セシル姉様がどうやって捕虜を尋問したのか凄く気になるのだけど?よく殺さなかったと思って」
そして、マリーは純粋な疑問を口にした。
「ああ、それでしたら直接現場にいたリゼットに説明させましょう。リゼット!マリー様にご説明なさい!」
(そういえば私も詳細を聞いていなかったわね、少し気になるわ)
「はいぃ!えーと……」
それを受けて疲れた表情のリゼットはおずおずと語りだした。
レオニーの命令で、必死に赤騎士を追いかけてきたリゼットが何とか追いついたと同時に、赤騎士は尋問室の重い扉を押し開けた。
中にはやさぐれた感じの男が三人、粗末な椅子に座らされていた。
男たちは入ってきた赤い鎧を見て一瞬驚いたが、すぐに我に返り軽口を叩き始めた。
「なんだぁ?レオニーが来るのかと思ったら妙な奴がきたな。素人じゃねえのか?」
「ああ、暗部も人手不足か?」
「そうだろう、薄給で命を懸ける職場なんてやってられねえからなぁ!」
暗部きっての精鋭であるレオニーではなく得体の知れない鎧が来たことで、男たちは相手を舐めていた。
「「「アッハッハッハ!」」」
「……」
だが、それに対して赤騎士は特に反応せず無言だった。
と、そこで男の一人が彼女がもっている布袋に気づいた。
「おい!それは金か?いきなり買収する気か?」
「そうだろうな、よっぽど時間がないのか、情報が欲しいんだろうよ」
「そうか、だがな、だったらもっと金を積んでもらわねぇとな!へへ」
そして、男たちは自分たちが有利と見て強気になった。
「……」
だが、赤騎士はそれらのセリフの一切を無視して今だに無言であった。
それを見て調子に乗った男の一人がさらに言う。
「見たところ一千万ぐらいだろ?しゃべらせたかったら最低でも一人ずつその倍を……」
と、言いかけたところで赤騎士が遂に動いた。
「用意し……ぶへっ!」
無造作に金貨の入った袋を横に振り抜き、男は悲鳴と共に椅子ごと横に吹っ飛んだ。
「な、何しやがっ……ぐわぁ!」
驚いて横の男が口を開いた瞬間、同じ目に遭った。
「ひぃ!買収するんじゃ……あべしっ!」
三人目も、以下略。
「……」
だが、赤騎士は答えない。
そして、同じようにもう数発ずつ金貨による一撃をお見舞いしたところで、男が一人しゃべった。
「ど、どういうつもりだ!?情報が欲しいんじゃないのか?俺たちが死んでもいいのか?ああん?……ぶわぁっ!」
だが、いやらしく笑う男に赤騎士は無言で更に一撃を見舞い、そして初めてしゃべった。
「誰がしゃべっていいと言ったの?」
「「「!?」」」
意外すぎるセリフに思わず男たちがフリーズした。
「私はお前たちを抹殺しにきたのよ?」
ゾッとするほど冷たい声で彼女は言い放ち、そして、
「それにしても、マクシミリアン様は粋なことをなさるわ。お金で魂を売った貴方達を、そのお金で殺せ、なんて。リアン様はジョークのセンスも一流だと思わない?」
「「「……」」」
あまりの内容に男たちは言葉を失った。
そして、赤騎士は無慈悲に続ける。
「安心なさい。すぐには、そして楽には殺さないから。リアン様に刃を向けたことをゆっくりと後悔しながら死になさい」
そう言い終わると赤騎士は再び男たちにゆっくりと近づいていった。
「「「ひいいいいいいいいいい!」」」
十分後。
「お、お願いですからしゃべらせてくだ……がはっ!」
「全部話ま……ヴァァ!」
「雇い主は……ひでぶっ!」
「……黙れ」
二十分後。
「黒幕はフィリ……かはっ!」
「婚約破棄騒動も裏で……ぐうっ!」
「すべてはコンプレックスと女達を手に入れる為……あうっ!」
「だから、黙って死ね」
ついに気絶してしまった男たちに、赤騎士は一片の慈悲もなし。
そして、一言。
「リアン様に地獄で詫びろ。とどめだ!」
そういうと彼女は大きく袋を振りかぶった……が、
「殺しちゃだめですぅ!」
本当に捕虜を殺されては困るリゼットが赤騎士に抱き着くような格好で止めにかかった。
「放しなさい!このホルスタインが!」
いいところを邪魔されて苛立つ赤騎士。
「ひ、ひどいぃ!じゃなかったですぅ、セシル様ぁ!殺しちゃだめですよぉ!」
「なぜ止めるの!?この連中を抹殺せよとリアン様がおっしゃったのをホルスも聞いたでしょう!?」
「ホルスって……。じゃないですぅ!セシル様、それは誤解なのですよぉ。殿下は金貨を使って情報を早く聞き出してこい、という意味で、これでやってくれ、とおっしゃったのですよぉ!」
罵倒されながらも必死で赤騎士に命令の解釈が間違っていることを説明するホルス。
と、ここでようやく赤騎士が止まり、
「……え?そうなの?」
赤い鎧がきょとん、としている。
「はいぃ、そうなのですぅ!ですから早くその袋を下ろしてくださいませぇ」
ここが勝負どころとばかりに捲し立てるリゼットだったが……。
「仕方ないですね……あっ!」
と、そこで金貨の袋を振り上げていたセシルの手から袋が抜けてしまった。
「ふうぅ、これで何とかぁ……へぶぅ!」
そして、そのまま危機を乗り越えたと油断したリゼットの頭に直撃したのだった。
「と、まあぁ、こんな感じでしたぁ……」
死んだ目をしたボロボロのリゼットが語り終わった。
「「……」」
これには流石の二人も言葉が無いのであった。
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皆様こんにちは、作者のにゃんパンダです。
今回はお詫びとお知らせです。
まずはお詫びを。
急に投稿の日数が開いてしまい申し訳ありませんでした。
実は最近、本編を書くのに若干疲れてきまして、モチベーションが下がってしまい少しお休みさせて頂きました。
更新を楽しみにして頂いている皆様、ごめんない。
そしてお知らせですが、この度、新作「ランス王国物語 ヒロイン達が勝手に国を統一します!?」の投稿を始めましたのでお知らせさせて頂きます。
新作といっても、「そうだ、王子辞めよう!」の三百年ぐらい前の話なので、その外伝的な話になりますが……。
内容は、本編のリアン達のご先祖様がランス王国を建国するまでのお話です。
初代国王マクシミリアン一世、スービーズ公爵家始祖セシル、ブルゴーニュ公爵家始祖マリー=テレーズ達が織りなすイカれた建国記です。
実はこれ以前から考えていた話で、今回思い立って書いてみました。
なぜ今かというと、身勝手な理由で大変恐縮なのですが、モチベが下がってきたので箸休めに違う話を書いてみようと思いました……。
因みに今後は、本編の更新を週二回程度、ランス王国物語を不定期、という感じでやっていきたいと考えておりますので本編・外伝共によろしくお願い致します。
本日もお読み頂きありがとうございました。
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