第53話「用心棒④」
美味いサンドウィッチと引き換えにメンタルをガリガリと削られながら、何とか昼食を済ませた私は午後の業務に戻った。
あ、そう言えば赤騎士について仕事は完璧で問題ないと言った気がするが……あれは嘘だった。
確かに結果としては完璧なんだが、実はやり方に問題があることが判明したのだ。
例えば私に非協力的な貴族がいたとすると、赤騎士はそれらに対して一切の容赦をしない。
一体どんなコネクションがあるのか、政治的な力を使って強引に解決したり、それでも言うことを聞かないと直接相手方に乗り込んだりしているらしい(レオニー談)。
何故わかったかというと、あれだけ私から離れるのを嫌がるあの赤騎士が、レオニーに後を任せてたまに席を外すのに気付いたからだ。
さっき、それを私が疑問に思ってレオニーに聞いてみたら、そういうことらしい。
レオニー曰く、間違いなく全て私の為に彼女は動いているので心配はないとのことだったが。
ただ、赤騎士の所業のお陰で巷では、皇太子に逆らうと真紅の鎧がやって来る、と言う何だか都市伝説めいた噂が広がっているらしい。
いや、私は関係無いのだが……直接は。
あと、困った点は、何故だか若い女性職員が私の所へ来る度に威圧するぐらいだろうか。
閑話休題。
その後、私は三時のおやつを、危うく部下たちの前で、あーんされそうになるのを何とか回避しつつ業務を続け、少し遅くなったが残業を終えて部屋に帰った。
だが、これで漸く仕事と甲冑から解放されるかと思いきや、そうはいかない。
赤騎士は当然の様に夕食にもついて来てメイドとシェフを酷い目に遭わせたし、入浴時には、
「お背中をお流し致しましょう!」
とか言ってついて来ようとしたが、流石に赤い鎧にそれをされるのは嫌過ぎるので丁重にお断りした。
赤騎士は何故か、非常に残念がっていたが。
そして、就寝。
これでやっと鎧から離れられると思いきや、寝室の前で彼女から衝撃の一言、
「宜しければ添い寝しましょうか?」
「……」
一体、どこの世界に赤い甲冑と添い寝したがる男がいるんだよ……。
私にそんな特殊な性癖があるとでも思っているのだろうか?
……ああ!もう嫌!誰か、誰か助けて!
「ぐへへ、殿下、そう言わずに……ハッ!」
しつこく食い下がろうとする赤騎士が、急に何かに反応したように動いた。
「どうかしたのか?」
「殿下、寝室から不穏なものを感じました。お調べ致しますので少々お待ち頂けますか?」
「何!?本当か?頼む赤騎士」
何それ怖い!
「はい!」
返事をすると赤騎士は部屋へと入っていった。
やはり、真面目な場面では頼りになるな、などと考えていると、中から女性同士が口論するような声が聞こえた。
そして数分もしないうちにガチャリとドアが開き、赤騎士がシーツにくるまれた何かを肩に担いで出てきた。
「お待たせ致しました、殿下。寝床に腹黒い小悪魔が忍び込んでおりましたので、捕縛致しました。これで殿下の貞操……コホン、室内の安全は確認致しましたので安心してお休みください」
腹黒い小悪魔?この世界にはファンタジー要素はないはずだが……?
「離しなさい!このひんにゅ……むぐぅ、むぐぅ!!!」
相変わらず赤騎士の肩の上では白い塊が何か呻いているが……まあいいか。
「ああ、ありがとう」
「ただ、これの処理がありますので、残念ながら添い寝することが出来なくなりました。申し訳ありません」
「いや……」
え?まだ諦めてなかったのか!?
「シーツはすぐに係の者を手配しておきますので少々お待ちくださいませ。ではこれで失礼致します。お休みなさいませ」
「ああ、お休み」
色々よくわからないことだらけだったが……はあ、兎に角疲れた。
……と、まあ、こんな感じで一日を通して赤騎士は色々と、かなりヤバい。
過保護過ぎるし、意味不明だし、これでは何といか……護衛と言うより、まるで……まるで何だろうか?
後日、レオニーに聞いてみたら、わざとらしい笑顔でこう答えてくれた。
「まるで、新妻ですね!」と。
は?意味が分からないのだが……。
と、次の瞬間、何処からか現れた赤騎士にガシッ!っと後ろから肩を掴まれてレオニーは引きずられていった。
「もう!妻だなんて恥ずかしいじゃないですか!まだ、早いですよ〜」
「なっ!?い、痛いです!セシ……むぐ!」
全く、下らない冗談など言うからだレオニー。
それにしても、赤騎士のお陰で仕事はとても順調だし、この際、護衛などと言わずに正式に秘書にした方がいいのでないだろうか?
まあ、その代償に私生活は壊滅するかもしれないが……。
そもそも私に護衛が必要な場面などある訳ないのだ。
放蕩三昧の無能な王子など殺すメリットは無いしな!
よし、そうしよう!
さて、今日は今からシモン伯との打ち合わせがあるから、出掛けるとするか。
数時間後。
「悪逆王子マクシミリアン!覚悟!」
「え?」
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