第7話 カナタ、ロッカーに閉じ込められる
父アラタが王都に登城を命じられ屋敷を離れた。
アラタの治めるファーランド伯爵領から王都までは、馬車で5日ほどかかる距離だ。
今日はアラタが屋敷を出立して4日目、父アラタとの距離が開いたことで、カナタは呪いの影響が薄れてすこぶる調子が良かった。
あまりに調子が良いため、カナタは普段は行わない【ロッカー】スキルの実験をすることにした。
「今日は調子が良いので、
誰か1人だけ付いて来て欲しい」
カナタは、以前ジェフリーに危害を加えられた時から、行動する時は必ず
父アラタもそうするように
カナタの専属
年長者からミモザ、クミン、リリー、カトレアという名前だ。
今日、カナタに付きそうのはリリー。
水色の髪をツインテールにし、くりっとした碧眼が愛らしい大人しめの性格の美少女だ。
カナタ専属
それをジェフリーが羨ましがっているという話は余談か。
まあ、そこでも恨みを買っているということなのだが……。
カナタは庭の隅にやってくると【ロッカー】のスキルを使用してみる。
【ロッカー】のスキルは常時発動のスキルで、中に物が入っている限り毎日MP1を消費する。
カナタのMPは呪いの影響下でも特別に多く、10,000MPもあった。
なので毎日MP1を消費していても苦にならなかった。
余談だが、この世界の人々は【お財布】というスキルをほぼ全員持っている。
このスキルは奴隷となると奴隷は財産を持てないという決まりのため失うことになるのだが、近年は【お財布】のキャッシュレス決済が一般的となり、奴隷であっても所持していないと都合が悪くなり、主人により【お財布】を再取得させることが多かった。
【お財布】は
このスキルは神様が与えたものなので、【時空魔法】のスキルが無くても使用可能になっている。
消費MPもなく、人々は【お財布】から硬貨を出したり、そのまま魔法的にキャッシュレス決済をしたりと日常的に使っているのだ。
なので、この世界にはスリという職業が存在しえない。
スル財布が本人にしか見えないし中身を出せないからだ。
硬貨そのものか物を奪うひったくりは居るのだが……。
そんな【お財布】に【ロッカー】は近いスキルだった。
少し容量が多いだけで、今後ほぼ役に立つことはないだろう。
(さて、昨日入れておいた紅茶はどうなっているかな?)
カナタは【ロッカー】から昨日入れておいた熱々の紅茶を取り出してみる。
【ロッカー】のスキルはカナタの目の前に1平方mの出入り口を出現させる。
それは空間に上開きの箱を開いたようなものだった。
上からは入れた中身が見えているが、横からは何も見えていない。
カナタは、そこに手を入れると、昨日入れた紅茶を取り出す。
「ああ、やっぱり冷め切っている」
カナタは落胆した。
やはり【ロッカー】は【ロッカー】、呪いの余波が弱まっても性能に差は無かった。
カナタは呪いが弱まれば時間停止機能が備わるかと期待していた自分が恥ずかしくなった。
「容量にも変化なし」
魔力を過剰に投入しても変化なし。
やはり【ロッカー】は【ロッカー】でしかなかった。
そんな実験を繰り返している最中、カナタ達に怒鳴り声が降りかかる。
「おい
カナタ達が実験をしている庭の片隅にジェフリーがやって来て、
リリーはカナタ専属
しかも、ジェフリーの母であるジュリアは身分としてはリリーと同格の
呼びつけられる謂れはない。
「俺を無視するのか!」
動かないリリーにジェフリーは憤慨し、リリーに詰め寄ると胸倉を掴んだ。
「
カナタが止めに入るが、これこそジェフリーの思うつぼだった。
ジェフリーは以前カナタへ危害を加えたことを父アラタに報告され、今度カナタに暴力を振るったら家を追い出すとまで父アラタに怒られていた。
だからこその
「黙れ! こいつが俺の命令を聞かないから悪いんだ!」
リリーを庇い、ジェフリーとリリーの間に入ろうとするカナタに、ジェフリーの口元がニヤリと歪む。
「そこを退け! カナタ!」
これ幸いとジェフリーはカナタを突き飛ばす。
その先にはカナタの【ロッカー】が口を開いていた。
(あ、生き物が入れられるか、まだ実験していなかったな……)
カナタはそう思いながら【ロッカー】の中に落ちて行った。
7歳児並みに小柄なカナタは1立方mの【ロッカー】の中にすっぽり入ってしまった。
と同時に蓋が閉まり、カナタは【ロッカー】に閉じ込められてしまった。
「カナタ坊ちゃん!」
リリーの叫びが屋敷に響く。
「
ジェフリーは捨て台詞を吐いて去って行った。
その顔にはカナタを始末できたことの満足の笑みが浮かんでいた。
(これは事故だ。俺のせいじゃない)
ジェフリーは、通用するわけがない言い訳を考えていた。
この日、カナタとジェフリー、2人の運命が大きく変わることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。