第6話 カナタ、11歳になる

 カナタが勇者の身体を手に入れてから約1年が経ち、カナタは11歳の誕生日を迎えた。

【身体強化】スキルを手に入れたことでリハビリが進み、失っていた筋力も戻り、【身体強化】スキルを使えば一般人並みに動けるようになった。

身長も伸びて、外観的には7歳ぐらいに見えるようになった。


 カナタの誕生日に父アラタは、1つのスキルオーブを購入して来た。

これはカナタに【時空魔法】Lv.1のスキルがあることを知った父アラタが、カナタの将来のためと無理をして購入したものだ。

このオーブは【時空魔法】のサブスキルである【時空間庫アイテムボックス】のURスキルが確定している(はずの)スキルオーブだった。

父アラタはやっと歩けるようになったカナタの将来のためと、借金をしてまで手に入れたのだ。

父アラタは思った。カナタは今後伯爵家に残れずに世に出なければならなくなる可能性がある。

しかし、原状のカナタのスキルでは生きていく術がない。

この世界、貴族家は長子世襲が大前提で、次男であれば長男のサポート要員として家に残れるぐらいだった。

それでも爵位は無く、長男の家臣という位置付けである。

父アラタのファーランド伯爵家は次男が庶子なので、三男であるカナタがその位置にいるのだが、碌なスキルも持たないカナタではまともに務めることは難しかった。


 そこで父アラタはカナタに【時空間庫アイテムボックス】のURスキルを手に入れてもらおうと思い立ったのだ。

カナタが持つ【時空魔法】のスキルはSRと比較的所持者は多い。

このスキルは時空系のサブスキルや魔法が使えるという基本スキルだからだ。

それ自体では何かが出来るということではいが、サブスキルや魔法のスペルを手に入れることで生きて来る。

レベルアップやスキルオーブを使ったり、魔法を覚えるなど、何かのきっかけで時空系のスキルや魔法を手に入れればそれだけ使い勝手が良くなるスキルだった。

その【時空魔法】のサブスキルである【時空間庫アイテムボックス】という希少なURスキルを持っていれば、カナタの地位は揺るぎないものとなる。

例え伯爵家に残らないとしても、【時空間庫アイテムボックス】を持っていれば、一生食いっぱぐれることは無い。

そんな親心からのスキルオーブだったのだが……。


「カナタよ。これを開けろ」


 父アラタがカナタにスキルオーブを渡す。

カナタはその金色に輝くオーブの色から一瞬で高価なものだと察した。


「父様、これは開けられません」


 カナタは思った。


(父様の呪いの余波が強い今の状態で開けたら、またハズレを引いてしまう……)


「どんな結果でもかまわん。目の前で開けてくれ」


 だが、父アラタは目の前で結果を見たい様子。

カナタが薄々気付いている父アラタとの距離による呪いの効き具合の差を、アラタはその場にいないので知らないのだ。

カナタ自身も不確定な事実で父アラタを傷つけたくないと思い、それを黙っていた。


(そうだ。【携帯ガチャ機】を使うとレアリティに補正がかかるんだった!)


 カナタは【携帯ガチャ機】のスキルでスキルオーブを開く。

【携帯ガチャ機】は、父アラタには見えていない。


ガチャガチャ ガコン


 スキルオーブを開く時には聞こえない音がする。

父アラタは訝しむも、そこには虹色のエフェクトが!


「大当たりか!」


 興奮する父アラタ。だが、その虹色の光が急速に色あせる。

【バッドラックの呪い】が発動したのだ。


「確変エフェクト……」


 大当たりからハズレへ。それは悪い方の確変だった。

空中に表示されたのは【ロッカー】Lv.1のノーマルスキル獲得の表示だった。

いつもならば呪いのせいで何も得ることがない大ハズレなのだが、今回はNスキルを得ることが出来た。

これでも【携帯ガチャ機】の能力が発動した結果だった。


Nスキル 【ロッカー】Lv.1

     n×n×n立方mの異空間に物をしまうことが出来る。

     時間停止なし。ただのロッカー。

     nは【ロッカー】スキルのレベル数値。

 

 1立方mのロッカー……。これなら馬車でも買ってあげた方が何倍もマシだった。

あるいは、父アラタが遠くに行って居ない時、つまり呪いが弱まった状態で【携帯ガチャ機】を使えば良かった。


「それ見ろ。また金の無駄使いだ!」


 父アラタとカナタの様子を扉の影から次兄ジェフリーが盗み見していた。

その眼にはカナタに対する怒りの感情が隠すことなく現れていた。

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