第102話 エルフと風の精霊2

クロリス達が綺麗に左右に分かれた木々の道を進むと、茨に拘束されて血塗れで逆さ吊りにされたエルフと風の精霊が見えて来た。


「あれは、何だ!」


「ああ、ソウタに矢を放ったエルフとその矢を運んだ風の子を拘束しておいた」


サイコの問いにクロリスが答える。


「なに!」

「ソウタ様を傷付けようとした輩!」

それを聞いてサイコが大剣を振り被り、ジュネが呪文を唱える。


「ダメよ。私の獲物なんだから。私に任せて!」

クロリスの声に反応し、サイコの両手に蔦が絡まる。


(む、強引に蔦を引き千切ってエルフを殺す事も出来るが、矢を防ぎ敵を拘束したのはクロリスだ。彼女に任せるか。しかし、クロリスはいつもボーっとしているだけの女かと思ったが、中々やるな)


「分かったクロリスに任せた」

サイコは両手を強引に離すと、蔦を引き千切り大剣をダラリと下に降ろしクロリスを見つめた。


ジュネの頭上に魔法陣が浮かび上がっていた。


「ジュネにはソウタを見て貰おうかな」

クロリスは抱っこしていたソウタをジュネに渡す。


「えっ、え! ソウタ様」

ジュネはソウタを受け止めると魔法陣は霧散した。


「ふう、いくら何でもお姫様抱っこは恥ずかしよ。このまま、エルフの村に行ったらどうしようかと思ったよ」

ジュネが抱きしめるソウタは、まだ腰が抜けて立ち上がれない。


「ソウタの回復を待つと遅くなるでしょ」


「とは言ってもだなぁ」

クロリスとソウタが会話していると、ブリュンヌ、ナナミ、モモカも追いついてきた。


「ナナミ! いいところに来た。特上の回復薬を出してくれ。美味しいヤツね」


「ソウタは我儘だよ。味なんて二の次だよ」

ナナミはマジックバッグから特上の美味しい回復薬を出してソウタに渡した。


ナナミしか作れない特製の回復薬だ。


「有難う」

ゴクゴクと回復薬を一気に飲み干し、空になったビンは自分のマジックバッグに収納するソウタ。


「いや、味がイマイチの回復薬は一気飲みがキツイからね。おっと、有難う。これで俺も歩けるよ」

ソウタはジュネの肩を借りて立ち上がれると、確かな足取りでクロリスの前に歩く。


「コイツが俺を狙撃したヤツか。クロリス、この後どうする?」


「勿論、このままでは済まさないわ。責任者に責任を取ってもらいましょう」


「と言うと、エルフの村に乗り込むんだな」


「そうそう、ソウタを殺そうとしたんだもの。ただじゃ置かないわ」


「そうですね。責任を取らせましょう」

「賛成!」

「聖者様を襲った罰は与えないとダメです」

ジュネとモモカ、ブリュンヌはエルフの村に乗り込む気満々だ。


「え〜、ホントにいくの? ソウタが無事だったんだから事を荒立てなくても………」


ナナミはちょっと嫌そうだが、みんなの目を見て段々声が小さくなり、最後は微かに聞こえるか聞こえないか分からないぐらい呟くような声になっていた。


「なにを言ってる。敵は倒さないとな」

ナナミの呟きを耳聡く聞いていたサイコは、自分のより大きい大剣を軽々と担いで道の先を見つめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る