第92話 悪霊アサグ

獣人国の村の宿屋で一休みのソウタ一行。


ブリュンヌがお風呂に入ったきり出て来ない。


においがぁ、においが落ちないよおおおお。くさいよおおお。え〜ん」




「ブリュンヌのために宿に泊まる事にしたけど、追手は大丈夫かしら」


「う〜ん、でも臭いは落とさないと。ドクラとマグラは確実にこの臭いを追って来るだろう。まあ、モモカとブルが警戒しているから、何かあれば教えてくれるだろうけど」

ナナミに応えるソウタ。モモカとブルは周辺を見廻り偵察に行っていた。


足元ではお風呂で身体を洗ってさっぱりしたリャンゾウが丸くなっていて、クロリスは我関せずでソファーでだらけている。


「そうだけど、早くこの国を出たいわ。もう最低よ、この国は」


「だよねぇ。国王と王妃を救ったのに、連行して奴隷にするなんて、信じられない。こんな国無くなっちゃえば良いのに………」


(ん? 獣人国ってゲームにはなかったから、きっと何かの理由で無くなったんだよなぁ。ペストが原因………って訳じゃないだろう)


「どしたの? 考え事」


「ちょっとね………」


(確かにペストは地球の歴史でも最も致死率の高い伝染病ではあるし、一番流行った時でヨーロッパの3分の1が死んだらしいけど、国が無くなる程じゃないんだよなぁ)


コーヒーに口をつけるソウタ。


(ペスト以外にも国が無くなるぐらいの何かがあったと考えた方が良いだろう。だとすればナナミの言う通り早めに獣人国は出た方が良いかな?)


「ナナミの言う通りだ。ブリュンヌが風呂から出たら、やっぱり宿泊はキャンセルして出来るだけ早くこの国から出ようか」


「うん、それがいいと思うわ。何だか不安なのよ。あのドグラとマグラがまた襲ってきそうで怖いわ」


「リャンゾウ、モモカとブルに戻って来るように伝えて来てくれない」


(えー、面倒だキュ。お風呂に入ったばかりだキュ。)


(それはみんな同じだよ。そんな事言わないでさぁ。リャンゾウがこの中で一番速いでしょ)


(仕方ないキュ)






とある獣人国の村。


「ゲハハハハ、みんな死んでしまえ」


その村に悪霊アサグがいた。


アサグは疫病を撒き散らす悪霊だ。ゴーレムを引き連れて村々を襲う。


悪霊アサグには頭がない。巨大で丸い岩石の身体に複数の目、三本の手と三本の足。


「ゴホッ、ゴホッ、………き、貴様ぁ!」

カバの獣人が斧を振り上げアサグに駆け寄るが、周りのゴーレムに阻まれる。


ドカッ!


「うううう、お、俺の、俺の村から出ていけえええええ!」


「ゲハハハハ、ペストにかかっているのに、立ち上がれるとはな。だが、ここで終わりだ。みんな疫病で死んでしまえばいいのだ」


「くっ、殺せ!」


「ゲハハハハ、殺れ!」


ガシュッ!


「ぐへっ────」


ゴーレムに潰されるカバの獣人。


「ゲハハハハ、ここも皆殺し♪ 次も皆殺し♪ いつも皆殺しぃ♪」


最低最悪の歩く災厄。獣人国にペストを撒き散らした張本人である悪霊アサグの勢力はゆっくりと王都に向かっていた。


そして悪霊アサグが進む方向にはソウタ達がいるのだ。





そして………。


「ギャハハハハハ、速く歩けよマグラ」

「待てよ! ドグラ。まだ、ちいと痺れてるんだ。クソッ、あいつら見てろよ! 両足を食い千切ってやるぜ」


ソウタ達の後ろからドグラ・マグラが追って来るのであった。



その後ろから獣人国の国王が追っている。

「影! こっちで間違いないだろうな」


「はい。ドグラ・マグラはこの先を進んでいます。臭いで分かります」


「そっかぁ、あいつら、臭いもんな」




更にその後ろから獣人国近衛隊が追って来る。

「早くしろ! なんとしても陛下に追いつくのだ」


「しかし、陛下は病み上がりなのに速すぎます」


「体調が良いらしぞ」


「え? この前までペストで寝たきりだったんだよね」


「それだけ、聖者様が凄いと言うことだな」

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