第8話 獣

ソウタについてきた獣は、そのままソウタの家に住み着いた。ソウタの部屋にいる事が当然の様にしている。


獣と言っているのは、その種類がソウタには一目で分からなかったからだが、犬でもない、猫でもない、地球の生物で言うと、イタチに近い種族だ。


黒味かかった灰色の体毛で、体長は60cmぐらい、鋭い牙と爪だが愛らしい丸い目。驚愕なのは2本の前足に対して後ろ足が4本あった事だ。尻尾は二股に分かれて20cmぐらいであった。


何を隠そう『雷獣』と言われる聖獣の一種なのだが、この時のソウタはまだ知らない。


(獣では無くモンスターなんだろうなぁ)と漠然と思うソウタだったが、妙に懐かれてるので、危険は感じていなかった。


ソウタは転生前にハムスターを飼っていた。背面は黄褐色、腹面は褐色がかった白のゴールデンハムスターと言う種類だ。


背面の黄褐色の体毛の模様が、麻雀牌の索子ソウズの2(所謂いわゆる二索リャンゾウ)に似ていた事からリャンゾウと言う名前をつけていた。


因みに索子ソウズとは竹のマークで、二索リャンゾウは竹のマークが二つ縦に並んだ模様である。


コミュ症で引き篭もりだったソウタは、リャンゾウを『心の友』として、良く話し掛けて大事に飼っていた。


何でこんな説明をしているかと言うと、雷獣の背中の体毛が二索リャンゾウに似た模様になっていたからである。


その模様を見たソウタが、雷獣にリャンゾウと言う名前をつけたのは言うまでも無い。


当のリャンゾウもその名前が、あたかも昔からそうだった様に、違和感なく受け入れていた。


リャンゾウは勇者ユウキの剣を避けきれず、額を浅く斬られた。今ではその傷の血は止まり問題は無いのだが、傷痕は残っている。奇しくもソウタも、ユウキに木刀で額を割られた時の傷痕が残っている。


同じ箇所に同じく人から受けた傷痕を持つリャンゾウを、ソウタが『心の友』と思う事は必然であろう。


リャンゾウはゴブリンやコボルトを一撃で倒す実力があった。そして野生で育ったからか、耳と鼻の能力が高く、森へ一緒に入った際、モンスターを探知しソウタに教えてくれるので、危険は極端に少なくなり、今まで怖くて行くことが出来なかった森の奥に行って、薬草を採取出来る様になった。


更にソウタが探す薬草の匂いも覚えて、薬草の生えている場所にも案内してくれる。


こうしてソウタは、リャンゾウのお陰で、楽に大量の薬草を採取出来る様になり、何れ村を出て行く時の資金を稼ぐ事が出来た。


その資金で母の病気を治す為の回復薬を購入したり、回復士を呼んだりもした。


村の近隣から入手出来る中ランクの回復薬を飲ませて、回復士に見て貰ったが、病状は改善せず、次第に弱っていく母を必死に看病する日が続いた。

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