つぼみが開く前に

K・t

二人の会話

 ――卒業式と言えば?

 隣を歩く友達が 思いついたように聞いてくる


 少し遅めの時刻 普段とは違う空気

 中身がほとんど入っていない鞄

 友達が揺らす三つ編み


 問いかけられて頭に浮かんだのは 二つの丸いシルエット

 ……やっぱり紅白饅頭まんじゅう

 紅いのと白いの どっちを食べようかな


 そんな私も 頭は今や綺麗なおかっぱ

 実はちょっと切ない


 ちょうど学校近くの大通りへ 差し掛かる


 友達は言う

 卒業式は桜! なんて嘘だよ だまされてる


 嘘って、何だろう?


 すいっと流れた指先を追う あるのは

 葉が落ち 花開く素振そぶりのない桜並木

 淋しいことこの上ない光景


 あぁ確かに 

 桜の花が満開の卒業式なんて 夢のまた夢だね

 卒業式=桜は 刷り込まれたイメージに過ぎないのかも


 私は空を見上げる

 寒い空気の中を 青が突き抜けている

 その真っ新な青さに すでに泣きそうだ


 友達が不敵に笑って宣言した

 今日はばっちり泣かせるよ!


 上り坂の向こうには

 もう二度とくぐらないかもしれない校門


 その先には

 もう二度と入らないかも知れない教室


 そして

 もう二度と会えないかもしれない同級生達


 私は泣かないと言ったけれど

 でも、泣いちゃうんだろうなぁ


 隣を歩く友達の答辞を想像しながら ぽつりと呟いた

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