そして今日、生まれる

春嵐

第1話 真名

生きようと思って、生きてきたわけではなかった。


しななかっただけ。


事故やら身体の不調やらで、常に入院と退院を繰り返す人生。学校なんて通ったこともない。だから、友達もいない。仲良くなった病室のおじいちゃんやおばあちゃんは、私を置いて天に召されていく。


たまたま自分の持っている血液がよく分からないけど価値があるらしく、いくら入退院してもおかねは必要なかった。採血される血液の量だけでも研究の対象になるんだとか。いつものお医者さんが言ってた。


いくら入院しても回復して退院できるのは、その血のせいかもしれない。


また入院してる。最初は、なんか高そうな個室に入れられる。病院で一番高い部屋。で、研究だか採血だかが終わると一般病棟。


一般病棟に移る日が待ち遠しかった。人がいる。もしかしたら、おじいちゃんやおばあちゃんがいて、友達になれるかもしれない。


ときどき来る医学生や若い医者。

日本の医療の今後を担うらしい。私の血で人が助かったり経済が回るなら、いくらでも取っていけばいいと思う。

それでも、この若い人たちは、私を人だとは思っていない。研究対象だと思っている。


そしてそれが、妙に心地よかった。学校へ通っていないという負い目があるのかもしれない。自分が同情されることに、強い恐怖感がある。人扱いされるより、機械扱いされたほうがいい。


おじいちゃんやおばあちゃんは、最初から私を人として見ない。壊れやすい人形だと思っている。そして、それは当たっている。入退院繰り返してるし。


「真名ちゃん、検査の時間です」


「いつものお医者さん」


ちゃん付けはしんどいなあ。


「私もう二十才なんですけど」


「ああ、ごめんなさい。真名さん。小さい頃から見てるとね、つい」


私の血の研究で、何本も論文をヒットさせたお医者さん。どう書くか分からないけど、いつもの、という名字。


この医者は、さすがに小さい頃から私を見ているだけあって、ちゃんと私をモノ扱いしてくれる。


「あれ、後ろの人は」


誰だろう。看護師でも見たことがない顔。新入りか。


「ご紹介します。ぼくの息子です」


「どうも」


こちらをちらっと見て、すぐに視線を逸らす。


そのしぐさで、分かった。


同類だ。

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