第11話 『毒舌な彼女はお料理上手①』

 

「みんな〜!ご飯できたわよ〜!」


 白奈による家の案内が終わり、軽く料理や掃除に関する当番制の説明を受けると、部屋に戻りスーツケースから必要最低限の物を取り出し即座に勉強を開始した旺太郎。部屋で勉強していると、突然下の階から呼ぶ声が聞こえる。


(……冬木か)


 旺太郎は声の主の名前を記憶から呼び出し、赤髪の毒舌な彼女、冬木紫乃だという事を何とか思い出す。


 参考書を閉じ、旺太郎は机から立ち上がる。引っ越したばかりで、物が少なくどこか寂しい部屋を見渡す。ベッド、机、それに椅子しか無い。


(本棚くらい必要だよな……)


 参考書やノート、教科書を置く事を考えると、少なくとも本棚は絶対に必要。どうしようか、と旺太郎が考えていると突然、ドアをコンコン、と叩く音が聞こえる。


「変態さん、変態さん。ご飯ですよー、行きますよー」


「おう」


 紫乃の声を聞いた白奈が旺太郎を呼びに来てくれたのだ。短く返事をし、旺太郎はドアを開けて部屋の外に出る。


「秋月、ありがとな」


「ふっ。このくらい当然、です」


「すげー誇るじゃん」


 当然と豪語するその言葉とは裏腹に、白奈の態度はドヤ顔でグッドサインをするというもの。どう見ても誇っているようにしか見えない。


「白奈〜?早く……げ」


「げってなんだ、おい」


 部屋の前でそんな会話をしていると、吹き抜けを利用して下の階から紫乃が白奈と会話する旺太郎を発見。自分の顔を見て嫌そうな表情をする紫乃に、旺太郎も応戦。


「あ、あんたの分はないから」


「!!」


 晩ご飯はない、そう言って歩いて行ってしまう紫乃に、流石に驚きを隠せない旺太郎。


(そ、そりゃそうか。あいつは俺に敵意を抱いてる。そんな奴のメシを作ってくれるわけねーよな)


 よく考えてみれば、それは当然のこと。寧ろご飯が出てくると期待していた自分が馬鹿だった、と旺太郎は自分を戒める。


「……し、知ってたけどね、ふーん」


 頭の中では理解しつつも、旺太郎は晩ご飯がないという事実にショックが隠せない。


「大丈夫なんですよ。紫乃はとっても優しいんです。きっと用意してあるに違いないんです」


「ほ、本当か!」


「大丈夫、です」


 大丈夫と言い張る白奈の言葉で安心し、旺太郎はほっと胸を撫で下ろす。二人で階段を降りて食卓に向かうと、既に黒音と美栗の二人が着席、談笑していた。そして、そのテーブルの上には―――


「おい、秋月」


「ドンマイ、です」


 旺太郎の見たことの無いような、豪華で美味しそうな食事が、四人分置いてあるだけだった。

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