第61話 危険であるぞぉぉぉ
「そこには睡眠ガスの罠がある、気を付けられよっ!」
「むっ、落とし穴であるぞ! これは迷宮にてもっとも危険な罠ゆえ、避けられよっ!!」
「毒矢だ。上手くすれば矢を回収できるのだぞ!」
聞いてもないのに名乗った少年の名は、サスケといった。
というか雇ってもないのについて来ている。
こいつ、後で金を請求してくるつもりか……?
だとしたらその強引さだけは評価してやる。
金は払わないけどな。
「どうだ、拙者は役に立つであろう!?」
「そう思われたいんだったら少しは黙れしっ! お前のせいで魔物が寄ってたかってくるんだしっ!」
ダンジョン内で大声を出せば、そりゃ魔物が寄って来る。
今のところ浅い層だからか、やってくるのがゴブリンばかりなので全てルッルに対応させていた。
ルッルは一匹ずつを突きで対応していく。
一度、払いで戦おうとして勝手にピンチに陥っていた。
「ふむ。ルッル殿は突きは中々であるが、その他が全然なっとらんな」
「まあ運動音痴だからな」
「難儀であるな。して、師匠どのは戦われないのか?」
「ルッルで十分だろ」
実際は時々<エア・スライム>で手助けしてるんだけどな。
それにしてもこいつ、<荷物運び>としてそこそこの腕前だと言うだけあって、罠の発見は早い。
だが、こんなに魔物を呼び寄せる奴が<荷物運び>としてやっていけるか?
ただのバカだと思っていたが、少し警戒した方がいいかもしれないな。
「ではもう少し奥に行かれてはどうか」
「お前は帰れしっ!」
「しかし拙者が描いた地図がなければ帰れまい?」
サスケは自分だけがマッピングをしていると思っているようだが、そんなわけはない。
初めてあったばかりのやつに、生命線になるマッピングを任せきりにするなんて、自殺行為だ。
僕らがマッピングを行っていないのは、そもそも必要ないからだ。
その理由は、虫精霊である。
虫曰く、精霊と言うのは魔素を食べて生きているらしい。
その為、魔素を感知する能力はこの世界で一番なのだと、得意げに語っていた。
そしてダンジョン壁というのは、その全てが凝縮された魔素で覆われているそうだ。
だから、どれだけ強力な魔法を放っても壊れる事がない。
何気に大発見だと思うが、まあ結果が変わらないからどうでもいいな。
虫は魔素が感知でき、壁が魔素で出来ている。
これが意味することはつまり、ダンジョン内部に入った瞬間から完璧な地図が虫には分かるという事だ。
無駄に樹液ばかり吸っていた虫が、はじめて冒険の役にたったな。
「置き去りにすると脅して、金でもせびるつもりか?」
「そんな卑怯なことはせぬわ! 拙者これでも武士の端くれゆえ!」
こいつの狙いが分からないな。
しばらくダンジョンを進んでいく。
目指している方向があるわけではない。
分かれ道があれば<エア・コントロール>で少し先を探り、人がいなさそうな方向に進んでいるだけだ。
冒険者が<大迷宮>に潜る理由は、まだ踏破されていない深部への挑戦か、もしくは宝箱探しだ。
その副産物として魔石の納入があるが、供給過多な獣人の国では相当安く買いたたかれるみたいだからな。
狙うはやはり宝箱。
こい、伝説の聖剣……!
僕が古代神殿で受け取りそびれた、英雄の装備に思いをはせていると、奥から冒険者らしき2人が駆けてきた。
どちらも猫獣人のようだ。
片方が独特のなまりで、こちらに警告を投げてきた。
「逃げるにゃ! <モンスターハウス>にゃ!」
「ほう。種類は?」
「スケルトン・ナイトにゃ! とにかく数が多いにゃ、もうすぐ溢れてくるにゃ!」
ほうほう。
スケルトンは大して強くないが、スケルトン・ナイトは強い。
ただスケルトンが剣と盾を持っているだけと思って突っ込むと、あっという間に返り討ちだ。
魔物の由来なんて知らないが、ちゃんとそれなりの武を収めた動きをするらしいからな。
それを抜きにしても数が多いだけで、相当に厄介だが。
で、気になるのはこの猫二人組だ。
見たところほとんど荷物を持っていないようだが、ダンジョンに武器だけ持ってお散歩か?
もちろんそんなわけはない。
「<荷物持ち>がいたな?」
「……」
押し黙る猫。
やっぱりな。<モンスター・ハウス>に置いてきたか。
同じ<荷物持ち>として思うところがあるのか、サスケが声を荒げた。
「貴様らっ! <荷物持ち>は野良とはいえ、一度ダンジョンに潜れば仲間であろう! 囮にして逃げるとは何事かっ!!」
「お、囮になんかしてないにゃ。ただ、遅くて着いてこれなかっただけにゃ……」
「それは貴様らの荷物を背負っているからであろう! 囮にしたのと同じことだ!!」
まあダンジョンに潜る以上、自分の身は自分で守る必要がある。
この猫たちばかりを責められる話でもないな。
「場所はどこだ?」
「真っ直ぐいって、突きあたりを左。二番目の右手の部屋の奥にゃ」
よし。そこまで距離がないなら間に合うな。
「ホントにすごい数のスケルトン・ナイトだったにゃ。やめたほうがいいにゃ」
「<モンスター・ハウス>には必ず宝箱があるからな。冒険者なら狙って当然だろ?」
「無謀にゃ。あんた、早死にするにゃ」
「くく。ギルドに戻ったら<黒の歴史書>の手配内容をみてみな? 骨の騎士程度、無謀でも何でもないってわかるさ」
猫たちは<黒の歴史書>の事を知らなかったのか、首をかしげている。
あんなど真ん中に張り出しておいたのに、情報収集が足りてないな。
僕は<エア・ライド>で加速して一気に迷宮を駆けていく。
さあ、ひと暴れだ!
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師匠が凄いスピードで通路の奥へと消えて行った。
慌ててその後を追いかける。
「突き当りを左に曲がって、それから……えーと、なんだったし?」
「二番目の右手の部屋の奥である! ルッル殿、お主の実力ではスケルトン・ナイトは危険だぞ」
「<荷物持ち>に言われる筋合いはないし。お前戦えるんだし?」
「未熟とはいえ武士ゆえ。それなりである」
見たところ、まだスキルを授かっていない年齢に見える。
あたしも人の事いえないが、あたしはホビット。
サスケはジパング人なんだから、普通の人間のはずだ。
それでそれなりに戦えるというのは、どれくらいのそれなりなんだろう?
二番目の角を右に曲がると、そこは小部屋だった。
真正面に、次の部屋へとつながる通路が見える。
通路の奥から爆発の音が聞こえてくるので、師匠がそこにいるのだろう。
あたしは部屋の入り口からそっと中を覗き込んだ。
「骨パラダイスだし……」
骨、骨、骨。
そこには剣と盾を持った、部屋を埋め尽くす大量のスケルトン・ナイトがいた。
師匠は部屋の真ん中あたりで壁を背にして戦っている。
その傍らには、変わった背負い袋を持った<荷物持ち>らしき人物。
いや、あれは背負い袋ではなく――カメの甲羅?
「かめめめめ……! 助かったカメ、助かったカメ……!」
「まだ助かってない。通路に向かって走れるか?」
「無理カメ……! 走れないカメ……! なぜなら甲羅が重いから――!」
「その甲羅、外せないタイプのやつ?」
海族かとも思ったが、明らかにただ甲羅を背負った人族の女の人だった。
どうやらまた変な人らしい。
師匠は両手に持った木刀で一体ずつを相手にしながら、他に近づいてくるスケルトン・ナイトを爆発するスキルの力で吹き飛ばしていた。
さすが師匠。あんな動きあたしには絶対無理だし。
「素晴らしい武芸であるな。それにしても鈍らとはいえ木刀で剣を受け止めて僅かにも斬れぬとなると、やはり――」
「お前戦えるんだし? さっさと中に入れし」
「馬鹿をいうな。取り囲まれたら敵わぬ。ルッル殿こそ弟子であろう? 助太刀せんのか?」
「あたしが入ったら死んでしまうし」
なんだかんだ師匠は大丈夫そうだ。
しばらくここで様子を見ていよう、と静観を決めたその時、後ろから何かが近づく音が聞こえた。
サスケと顔を見合わせて、入って来た通路を戻る。
一つ前の小部屋を覗き込むと、そこにはこちらに向かって来る魔物がいた。
まるで狼が二足歩行しているような魔物だ。
「コボルト・ウォリアーか。獲物が槍とは厄介な。通路で戦うと不利であるな」
「取り囲めば楽勝だし。手伝えし」
「承知した」
あたしとサスケは左右に別れて小部屋に飛び込む。
コボルトは唸り声をあげて、手に持った槍を構えた。その矛先にいるのはサスケだ。
らっきーだし。
「ええいっ」
あたしが放った突きがコボルトの脇腹に当たる。
犬顔が苦痛に歪んだ。
ダメージはあるようだが、逆にそれが気に食わなかったのだろう、コボルトがあたしをギロリと睨みつけた。
「うわわわ……!」
あたしはコボルトが薙ぎ払ってきた槍を屈んで避ける。
あたしより上手だ。
あたしコボルト以下だし……。
まずはサスケの方を攻撃してくれればよかったのに、よっぽど痛かったのだろうか。
なんかすごく怒ってる。
ちらりと見えたサスケは、まだ刀を鞘から抜いてもいなかった。
あいつサボってるし!
「好機!
サスケが鞘から刀を抜くのと同時に、コボルトへ斬りかかった。
完全に後ろを向いていたコボルトは、それを避ける事が出来ずに、首を両断され、光の粒となって消える。
どうやらああいう構えの技だったようだ。
サボってるんじゃなかったし。
サスケは刀をひと振りして、ゆっくりと鞘に戻していく。
「うむ、今日の
「なんだし、その美味しそうな名前?」
そういうお菓子があった気がするし?
「刀は武士の命。バカにするのはまかりならんぞ。ましてやこれは師から授けられしひと振り。拙者の誇りであるからな!」
「名前は師匠がつけたし?」
「うむ、師は刀鍛冶であるからな」
絶対バカにされてるし。
あたしはコボルトの魔石を拾って、腰袋にいれる。
あとはここで師匠が帰ってくるのを待とう。
疲れたし、ちょっと休んでてもバチは――。
「いかんっ! ルッル殿そこは――」
座りかけたあたしに、サスケが慌てた様子で声をかけてきた。
でも中途半端な姿勢で止まれず、あたしは地面に座り込んでしまう。
何か踏んづけてしまったようで、僅かにお尻が沈みこむ感覚があった。
「え。――うえぇぇぇ!!」
「落とし穴の罠であるぞっ! 危険であるぞぉぉぉ!!」
あたしが踏んだ落とし穴の罠が起動し、部屋全体の地面がボロボロと崩れ落ちる。
バカ侍とあたしは、二人揃って下層へと落ちていった。
もっと早く言えしバカ侍〜〜!!
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