ファミレス ‐4


 あの車に乗せてはいけない。あの黒い車は、右那をこの世から連れ去るものだ。

 これでいいのか? まさか、まさかまさかとんでもない。いいはずがない。解せない。こんな現実、許容できない。


「どけぇえええええええええええ!」


 暗殺武器〈タイラントダガー〉を装備。行く手を塞ぐ斎場に斬りかかった。

「敵対行動の継続を確認、障害の排除を再開する」

 口に咥えた一本と右手握ったもう一本は斎場の心臓と首を真っ直ぐに狙ったが、その空中にて太い尻尾が攻撃を阻み、またしても吹き飛ばされた。今度は横に飛び、雑居ビルの外壁にめり込んで止まった。

 この反応速度とパワー、人の身体能力を遥かに超越している。いや、そもそも尻尾がある時点で人なのか怪しいが、しかし今この男が何者だろうと関係ない。一瞬でも速く息の根を止めなければいけない。

「対象の武器を確認、中距離武器を選択」

 男はそういうと同時に、ホルスターから取り出した機関拳銃を両手に二丁構え躊躇いなく発砲。連続する炸裂音が駅前のビル街に木霊した。

 咄嗟に外壁から離れ、壁を駆けるように射撃軸線の追尾を逃れた。反対の壁へ跳び、その反力を合わせて上空へ飛ぶ。宙にて身を翻し斎場の背後へ着地した。

 今度こそ首を貰う。

 しかしその瞬間、斎場のコートが一部盛り上がり、何かがそれを突き破った。背中から、金属の腕が二本生えたのだ。

 尻尾の次は第三、四の上肢ときた。それらの腕は二本のダガーを受け止め、続いて尻尾の一撃がこちらの胴体ど真ん中に直撃する。

 体は先ほどの車のように上空を数秒間に渡って舞い、そして、落下。アスファルトに全身を強く打ちつけた。

 立ち上がろうにも、もはや体が言うこと聞かなかった。強烈な打撃を受けた胸部は空気を吸い込むことすらままならず、ダガーが口からこぼれ落ちる。

 視界が霞む。

「同伴者Nの無力化を完了。同伴者Nの殺害は種別Gに該当しない為、行動を終了する」

 行ってしまう。

 距離は数十メートル、走れば一瞬だ。しかし今、たったそれだけの距離が無限に遠い。

 右那が行く。

 開かれた後部座席のドア。彼女は振り返ることなく車に乗った。

 今、全身の何もかも全て、血と空気と魂を声にのせて、去り行く彼女の名を叫んだ。


「ライトホープ!」


 消え行く視界の果てに蒼い瞳が一瞥した。

 その光景を最後に意識は途絶え、ただ濡れた地面の感覚だけが残っていた。


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