低層域 ‐2


 その通り、第一目標はロイ・マクスウェルの居場所の特定である。

 先刻、勇気を振り絞って鬼電をとり、短いながら例の彼女と話をした。こちらとしては電話だけで要件を済ませたかったが、今は忙しいとの事で直接会う約束をとりつけられた。

 ロイ・マクスウェルの情報入手には『神里輪音』の協力を得るのが手っ取り早い。


 ……というわけだ、そいつに会って色々聞く」

 と、一通りあらましを右那に説明した。のだが、彼女の様子がおかしいのは気のせいか。

「ちょっと待って、今君、大変聞き捨てならないことを言ったよね?」

 不意に右那は服の裾を引っ張って寄せた。

「は? なにが?」

「だからロイ博士の情報を手に入れるのに、会いに行くんだよね? お友達に、さ」

「……、あ。おう。あ、いや違う。別に友達じゃないぞ」

 すぐに気が付いた。言葉選びを誤った。『神里輪音』の名前を出した際、気付かないうちに〈友達の〉という表現で喋ったかもしれない。もしくは言ってなくとも、右那がそれを友達だと鋭敏に察したか。

「ふーん、君には友達がいるんだね。そうかいそうかい。いや実に結構なことだよ。めでたいね、向こうに着いたらファミレスで赤飯かな?」

 未だかつて無いほど冷淡な口調で突き放される。あさっての方に目を側める右那はまともに向き合おうともしない。

「友達じゃねえっての。聞けよ」

「へえ~、呼び出して駆けつけてくれる女が友達ではないと? ああそういうこと、恋人か。なるほど確かに恋人がいれば友達なんて必要ないねぇ、はいはい」

「それも違う。輪音は、え~っと、大学の後輩で……」

「おやファーストネーム。仲がおよろしい事だ、友達でも彼女でもない女にね。ははーん、わかったセフレか。はい合点合点」

「待った待った、誤解だ誤解。輪音は……、あ、また輪音っつったけど違う」

「なんでもいいけど、君がどう認識しようと、客観的には友達以上の何者でしかないさ。あ~あ、死にたい。死ぬならこういう最高の日がいいね、清々しいほど空虚だなぁ」

「やめろって。そういうの言うの」

「あ~あ。君はさ、ボクの気持ちがどうやらとか言ってたけど、まるでわかってないじゃないか。まぁ無理か。友達がいるような男に、ボクの事なんてわかるはずがないのさ」

 そう言って両腕を横に広げて見せる右那は、今度はすっと肩を落とし、もう何も聞きたく無いとばかりに背を向けた。

「君はやっぱり違ったのかな。あの時少しだけ、彼の姿に重なって見えたけど、所詮別人ってことだよね、勝手に期待したボクが悪い」

「お前……、何言ってんだよ」

 そう背中で低く呟く彼女の言葉は半分も聞き取れなかった。

「結局ボクは一人なんだってね。まぁ、いいんだけど。結局これが現実なのさ」

 そして再び振り返ると右那はいつも通り。しかし澄んだ蒼い瞳が見つめる先は、ここにあるようで、どこか遠くを見ているように思えた。

「悪かったね、子供みたいに拗ねて。さぁ行こうか、君のいう後輩とやらの所へ……」







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