波長 ‐2
「俺だよ、俺。おれおれ。よお、元気してっかぁ? 俺は元気だ、見ての通りなぁ、っはっはっはっはっ。ぁぁ、しんど」
目が隠れるほど長い髪はワカメのように顔に張り付き、その隙間から暗い瞳を覗かせていた。無駄に深淵を感じさせる濁った目だ。男は扉から全身を見せると、今だに血を流し続ける左腕を振ってみせた。肘から先はついてない。
現れたのは、先ほど床下に叩き落とした男だ。
「逆襲の修羅が来てやったよ。ちょっくら挨拶にな。このクソアマが」
「貴様、なぜ今になって波長を帯びている!」
確かに、とどめは刺していないが、なぜあれがまだ立ち上がれるのだ。そして何故、まともなデリーターになって這い出てきたのだ。このほんの一刻の内に一体何が……。
「なぜって? そういうアプリなんじゃねえの? このフリーアサシンってのは」
「何をほざいてる、貴様いつ業を積んだのだ。そうでなければ能力は……」
「それができちゃうのが俺なんだよ。おれ」
「馬鹿な」
ゆらりゆらりと男は一歩ずつ迫った。その間合いは十メートル前後。ほど良い戦闘距離で足を止めると、片腕の男は腰からナイフを抜き取った。
「何者なんだ、貴様」
「俺か。俺は、……ニートだ」
「なに?」
「そん中でも頭ひとつ抜けた。いわゆるハイニートだぜ」
こちらも鞘から太刀を抜き取り、構えた。
全ての力において、この男よりも使徒たる自身の方が圧倒的である。はずだ。しかし、この謎の圧迫感が故、本気の構えを取らざるを得ない。こいつは本当にただのデリーターなのか。
「意味がわからん。もういい。茶番は終わりだ、くたばれ」
喋っていても埒があかない。速やかに叩きのめして、先を急ぐべきだ。なにを言おうと所詮はデリーターふぜい。この一振りで撃破する。
神刀〈サイヒョウミタマノシンガ〉、使徒の力を最大限まで引き出し、自身の力である絶対零度の異能を大気中に伝える究極の太刀だ。
そして、上段から振り下ろす一閃。その軌道上には瞬時に氷柱が連なり、男の右腕へ向かって突き進んだ。避けれるはずがない、この速度は人間では反応不能。戦いの行方など考えるまでない。これで終わりだ。
と、そう思った。
「ぅらぁあああっ!」
男の振るう右手のナイフは、この氷柱をなぎ払ったのだ。
「な……、なんだ、これは……」
「驚いたか。そうかよ、はははっ。……俺も驚いてる、いやなんだこれ。まじで」
「……なるほど、そういうことか」
「は? どういうことだ」
「その力。今ので全てがわかった。所詮は付け焼き刃だな。愚かしい。まさかその程度で私を倒せるつもりではないだろうな」
「やかましい女だなぁ。俺は右那を助けにきただけだっての。お前なんか知らん、マジ卍のアウトオブ眼中」
「なに?」
振り返ると、右那。不安そうな彼女の表情は、その男に向けられた。
「さぁ。ニートの本気、見せようか」
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