精霊王に祝福されし彼は、何がなんでも公爵家を継ぎたくないようです。

@Kurohyougau

第1話 小さな決意

物心ついた時、その人が父親じゃないと知った。


周りの子も、『親に捨てられた哀れな子』と言って虐めてきた。心無い言葉、暴力や物を壊された事もあった。だから、僕は森に引きこもった。


はっきり言えば、殺す事も出来た。


けれど、育ての親との約束だったから我慢した。物心つく前から、遊び感覚で剣を学び、物心をついてからは好奇心からいろんな本を読んで過ごした。


『ねー、ノイル?ボク達と、遊ぼぉー!』


そして、彼らと遊ぶ事も増えた。


「ちょっと、待ってね。ここまで、読ませて。」


『はーい!』


よしよし、読んだらシオリを挟んで本を置く。


そして、素早く周りを確認。妖精は、本来は気まぐれでおしゃべりで悪戯好き。なので、悪戯してないかを確認したのだ。精霊は、本来なら自由人でおせっかいで素直。どちらにも、共通するのは良くも悪くもちょっかいを出したがる所かな?


「お待たせ、森に遊びに行こうか。」


『わーい!行くなの!』


『よーし、競争だぁー!』


ノイルは、ため息を吐き出すと魔法を用意する。そして、素早く剣を持ち元気よく廊下を走る。


途中、足を止めて中庭に声を掛ける。


「おじぃーちゃん、遊んでくるね。」


「おう、気を付けるじゃぞ?」


ノイルは、笑顔で頷くと玄関をに向かって走る。


玄関を出ると、真剣な表情で剣を抜き、魔法を発動させる。すると、精霊や妖精達も負けじと追いかけて来る。ノイルは、ヒラリと樹々を回避して更に加速して行く。そして、魔物を見つけると剣を一閃。


瞬殺して、更に奥まで進んで行く。


そして、森で1番大きな大樹に到着。ノイルは、剣を鞘に戻してから息をととのえて明るく言う。


「僕の勝ち!」


『負けたー!』


『負けちゃったぁ!』


次々に、妖精や精霊が到着して笑う。ノイルは、大樹に背中を預けて涼む。とても暑い、夏の昼過ぎ。


『ノイル、大丈夫?』


「うん、少し疲れちゃった。」


ゆっくり、目を閉じると風の精霊と妖精が頷く。そして、優しい冷たい風をノイル向ける。


「ありがとう、涼しくて気持ちいい。」


『えへへ……』


『どーいたしまして!』


古の時代、人は彼らと盟約を結んだ。


『我らは、いついかなる場合も対等で、互いに強制的に押さえつける事を禁じる。』


っと。しかし、人はその盟約を蔑ろにした為に、精霊と契約が出来る人が希少となった。僕も彼らに、〈お願い〉はしても〈命令〉はした事が無い。


だから、彼らは僕とまだ遊んでくれている。


「さて、お家に帰っておやつ食べよう。」


ノイルが、そう言えば嬉しそうな彼ら。


『食べる!食べる!』


『食べるなの!』


ゆっくり、立ち上がり加速の魔法を発動。


「じゃあ、家まで競争ね。」


『まてまてぇー!』


『負けないなの!』


帰りは、魔物の討伐数を競う事となった。まあ、流石に妖精や精霊さんには負ける。複数VS僕だし。


手を洗い、冷たいお茶を入れると中庭の机に置く。


ガーレは、礼を言って飲む。ノイルは、隣の椅子に座るとお茶を飲む。空中で、未だに追いかけっこする妖精達を手招きする。精霊は、森で別れた。思わず、緩む表情で妖精にクッキーを渡すノイル。


「ノイル、公爵家から手紙だ。」


「要らない。」


すると、火の妖精が燃やす。器用に、机を焦がす事なく手紙だけを燃やす。ノイルは、笑顔で感謝。


火の妖精は、照れたような表情で空中を飛ぶ。


「もう、放っておいて欲しいんだけど。」


「そうも、いかんのだろう。聞けば、お前の腹違いの弟は傲慢鬼畜で、美女を年がら年中侍らせる。言わば、グスに分類される豚貴族らしいぞ。」


興味ない。弟が、グスだろうが知った事じゃない。僕は、静かにこの森で過ごせれば、それだけで良いのに。何で、捨てた癖に今更ちょっかい出すの?


…… 放っておいてくれないの?


ノイルが、唇を噛み俯くと頭を撫でるガーレ。


「そんなに、公爵家に戻りたいないのか?」


「うん。」


すると、ガーレは優しく笑うと言う。


なら、剣聖を継ぐか?


沈黙…。


「はい?いやいや、無理でしょっ!?」


「そうじゃな、剣聖を継げるのは成人男性のみ。お前は、まだ年齢的に無理じゃな。がははは!」


ノイルは、少しだけ慌てたように言う。


「そうじゃなーい!何で、自由人じゃ駄目なの!」


「強いからじゃ。強さには、責任が伴う。強い自由人を、そもそも国が許すわけがない。」


なるほど、脅威にならないよう権力と地位で縛る。


「ちなみに、うちに来てるダルガンは国王陛下じゃからな?しっかり、ロックオンされとったぞ。」


「なっ!?もう、おじぃーちゃんの馬鹿!」


ノイルは、しっかり国王にロックオンされてましたとさ。そして、彼は決意する。


「絶対に、公爵家は継がない!」


「国王陛下は、がっかりじゃろうな。」


そして、ノイル苦々しく呟くように言う。


「けっ、剣聖は……考えさせて。」


「まだ、時間はある。成人まで、ゆっくり考えれば良い。小さいうちから、夢を潰すのは悪い大人じゃからな。慌てなくて良い、大いに悩め……そして、自分の夢を見つけてくれれば嬉しいのぉ。」


こうして、数ヶ月後……


10歳の春、ついに公爵家から迎えが来てしまった。


「ノイル、騎士団に入れ。そして、寮で暮らすのじゃ。さすれば、公爵といえど手を出せん。」


「やっぱり、行かないと駄目?」


すると、ガーレは優しく抱きしめる。


「無力で、すまんノイル。」


「……分かったよ。また、戻って来ても良い?」


ノイルは、強がりな笑顔を浮かべて言う。


「ああ、良いとも。いつでも、歓迎じゃ。」


ガーレは、そんなノイルを見ながら言う。


「じゃあ、行ってきます!」


こうして、王都に行く事になった。


馬車の中で、泣いてしまったのは許して欲しい。本当に、大切な人との別れだったのだ。ここから、王都まで1週間はかかる。そう、簡単には帰れない事くらい、子供のノイルにだって分かっていた。


紳士な執事が、心配そうに僕を見ている。


「ノイル様、そろそろお休みください。」


執事の声を無視し、夜遅くまで泣いてしまった。


気が付けば、深く眠っており昼までノイルは起きなかった。執事は、ノイルを見て辛そうに視線を逸らす。そして、これまでノイルを蔑ろにしてきた主である公爵に、わずかばかりだが苛立ちを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る