お宝映像

 部屋の隅、天井にひっそりと設置された半球体、赤いLEDはつかないようにしてある。

 そう、監視カメラだ。


「あぁ……お兄ちゃん……いいですねぇ……。いくら見てても飽きないです」


 妹の購入した物件、地下室を監視する地上の部屋にて妹は恍惚としていた。


 画面の中では兄が床で寝苦しそうに寝ていた。


「あぁ……お兄ちゃんの抱き枕になりたい……」


 少々危険な思想を垂れ流しながら妹は監視カメラの映像を眺めていた。


「ふーむ……お兄ちゃんの心を手に入れるにはどんな手がいいでしょうかねぇ……」


 妹は野望を持っていた、多分信長もビックリするくらいの野望だ。


「兵糧攻め……お兄ちゃんが私に食べ物をねだる……悪くないですがもう少しこう訴えるものが欲しいですね」


 ロクな考えをしていないようだがようやく兄を手に入れたということで舞い上がっていた。


 兄を手に入れるために幼稚園から計画を続けていた、そうしてようやく義務教育という監視機関の手を離れた兄を手中に収めるために強硬手段に出た。

 とはいえ兄に嫌われたいわけではないのでもう少しソフトな手段を考えていた。


「食料を断つのは少々まどろっこしいですね水分を断てば……(以下検閲により削除されている)を飲んでもらえるのでは」


 非常に危険な思想へとシフトしそうになっているところで兄の目が覚めたようだ。


「あぁ……お兄ちゃんの寝起き、こっそり覗くのにも限度がありましたからねえ……ノーカットは貴重です」


 初見というわけでは無いらしかった。


 まじまじと兄の起床場面を食い入ってみていた。


「あ! お布団を忘れてました!」


 どうやら兄が堅い床に寝かされたのは妹のミスらしい。


「まあお兄ちゃんの寝姿の無修正を見るためには必要な犠牲でしたね」


 ちなみに監禁後初めての夜ということでこの妹、監視カメラを徹夜で眺めていた。


 うねうねと兄の起床をまじまじと眺めている姿は誰にも見せるわけにはいかない、この映像は私だけの物、お兄ちゃんは私だけの物。


「さて、私の春休みも終わることですしお兄ちゃんにいってきますと言ってから出るとしますか」


 妹は地下に降りていきドアを開いた。


「お兄ちゃん! いってきます!」


 兄は「え? どこに?」といった顔だ。


「学校に行かないと怪しまれますからね、お兄ちゃんとの別れは名残惜しいですが……! 大変惜しいですが……! 一年! そう、一年で卒業して一緒に暮らせるんです! なのでそれまで我慢してくださいね」


「ちょっとまてよ! 俺の高校は……?」


 そうだった、お兄ちゃんには伝えてなかったなと思い出す。


「あ、お兄ちゃんの行く高校は無いですよ」

「は?」


 お兄ちゃんは意味が分からないという顔をする。


「ほら、入学金ってあるじゃないですか? 滑り止めに入ったら本命の合否が出るまでに納めるお金、あれ、私が払うっていったんですよ、お父さんもお母さんも助かるって言ってましたよ?」


「お、お前まさか……」


 お兄ちゃんもさすがに察したらしい。


「そう! お兄ちゃんは入学金未納で高校生じゃありません! ニートですかね? あ、私に永久就職するのでニートじゃないのかな?」


「ニートですらねえよ! 被害者だよ!」


 まったくお兄ちゃんは人聞きの悪いことをいう、お兄ちゃんだって昔は「俺のお嫁さんだな!」と言ってくれたじゃないか、口約束でも法律上有効なことを知らないのだろうか。


「とにかく! お兄ちゃんはおとなしく……いえまあ男の子ですしそういったことはまあ……自由ですが……皆まで言いませんが後で確認させてもらいますね」


「その発言を聞いてどこの誰が不埒な行動をするんだろうなあ! 本当に!」


「ま、それはともかくお布団とご飯です、こっちは朝食、このお弁当はお昼です、空調が効いているので冷蔵庫がなくても大丈夫だと思いますから」


 ポンとお盆とお弁当を置いて部屋を出て行こうとするとお兄ちゃんが私に話しかけてきた。


「なあ……なんで俺なんだ? 俺はタダの人間で出来もよくないぞ?」


 まったく、お兄ちゃんも無粋な質問をする。そんなことは決まってるじゃないですか。


「お兄ちゃんが私のお兄ちゃんだからです、兄妹愛って奴ですよ」


 私はさらりとそう言うと部屋を後にした、その時のお兄ちゃんはポカンとしていたがきっと私の愛情を理解してくれるだろう、たとえどれだけかかろうとも、ね。


 私は笑みを浮かべながら退屈極まりない学校に後ろ髪を引かれながら行くのだった。


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