〜十一歳〜
第41話 ダンジョン③
※十一歳編を前に、今後を考えて、年齢を整えました。
クロエ 11
アーシェル(弟) 9 (二個下)
ドミニク第二王子 11 (同級生)
ルル 13 (二個上)
アベル第一王子 14 (三個上)
ジュード 16 (五個上)
これまでの文章も書き換えました。
混乱させましたなら、申し訳ありません。
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雪が溶けて春になった。領内を覆っていた重苦しい雰囲気も春風が飛ばしてくれた。
我がローゼンバルク領はジリギス風邪による死者は最低限に抑えられ、私の薬のおかげだと祖父や神官長に思いっきり褒められた。嬉しい。毎年やってくるジリギス風邪のシーズンに向けて、素材を地道に採取し備えておこうと思う。
馬が走れるようになったら、国境に行き、草と土の複合壁をドンドン作っていく。途中に珍しく草花を見つけると、エメルと二人、鼻息荒く興奮する!
「え、エメル!この釣鐘型の青い花! まさか伝説のエモネラじゃない?」
『何! これが一年に数日しか咲かないエモネラかっ!?』
ニーチェが申し訳なさそうに声をかける。
「えーっと、クロエ様? エメル様? その花ならその丘の向こうに年中咲いてますよ?」
「『…………』」
エメルとの付き合いも三年になり、すっかり親友になった。そして私は十一歳になった。
◇◇◇
「ダンジョンが見つかった」
夕食時、祖父がおもむろに言った。
「行きたい人っ!」
ホークの声がけに、
「『はいっ!』」
勢いよく手をあげる私とエメル。ホークが腹を抱えて笑う。
「今回も入り口が氷山のクレバスのあいだとかなり危険な場所でな。〈草魔法〉の自在に動く命綱があったほうが安心だとホークが推している。クロエ、エメル様、悪いが行ってくれるか?」
「『行きまーす』」
ワクワクしながら、祖父に詳しい場所を聞いた。
「エメル、そのダンジョンのこと知ってる? そこにもドラゴンがいたりして!」
『ドラゴンはいない。こんな近距離に別の個体がいれば、ガイアもオレも気がつく』
そういうものらしい。
「前回のガイア様のダンジョンは突然現れた。今回はわかりづらい場所ゆえに、今まで見つからなかったものだ。案外古いものだと思うぞ?」
祖父がお酒の入ったグラスを回しながら教えてくれる。つまり目ぼしいものは取り尽くされているかもしれない、ということだ。
「私はいつでも行けます。急ぎの調剤依頼もないし、学校に行ってるわけでもありませんし」
『学校といえば、ジュードに一言、言った方がいいんじゃないか? 後から知ったらきっとまた拗ねるぞ?』
「学業もそこそこ忙しいはずだ。それにジュードももう十六歳。事後報告でいいと思うが?」
祖父はそういいながらも、たんぽぽ手紙を送るようにベルンに言いつけた。
◇◇◇
兄は自分が戻るまでは絶対に出し抜くなと強めの口調の返事をよこし、学校に休みの届けを出して、速攻で帰ってきた。
「よかった……間に合ったか」
迎えに行ったエメルの網からもそもそと這い出す兄。エメルは兄の宅配に大量に魔力を使ったために、私の頭頂部からちゅうちゅうと魔力を吸い上げる。
「お兄様……私があらかた調査した後で来ればよかったのに。二週間も休学して大丈夫ですか? ひょっとしたら何の収穫もないかもしれないんですよ?」
「バカクロエ! またエメルみたいなイレギュラーがあったらどうするんだ! クロエは自分を後回しにする根性が身についている。俺抜きでダンジョン探索など許さない!」
いろいろと心当たりがあったので、何も口答えしなかった。
◇◇◇
下界は随分暖かくなったけれど、氷河のクレバスであるそこは、極寒だった。
兄とエメルは氷魔法適性持ちなので、寒さにやたら強い。
私とホークだけ、雪だるまのように着込んでいる。
「この二人ズルイよね」
「同感です」
ホークと鼻水を垂らしながら、兄とエメルを睨みつける。
「拗ねるなって。クロエも氷魔法もう少し鍛えたらいいだろう? ……このへんでいいか。クロエ、入り口までの草綱を頼む」
「はーい」
地表の氷に種を飛ばし、魔力を注ぐ。根がミシミシと恐怖の音を立てながら、ずっと下にあるであろう大地に向かって掘り進める。
根が侵入した場所の氷から、四方に亀裂がメリメリと入る。氷に根を張るのは初めてで、緊張が走る!
「……ちょっと、まずいかも」
「そうだな」
兄が魔力を噴射して、根の外側の氷を補強した。ピシリと音を立てて強固に固まり、ひび割れは再び固まった。
「さすがです! お兄様かっこいい!!」
『カッコイイ! さすがオレの魔親!』
「っ! ……ふん。行くぞ」
私はとっさにクレバスにもじゃもじゃと細くて柔らかい雑草を大量に成長させた。この寒さではすぐ枯れてしまうけれど、私たちがダンジョンに入るまで保てばいい。
「おお、クッションですね! これで万が一落ちても死なずにすむ。ではジュード様、クロエ様、私の順に下りますか」
「ホーク、やはりクロエは俺が抱っこして……」
「ジュード様、さっさと下りて、クロエ様を待ち構えてください! そのほうが安全だとわかってるでしょうに!」
『いざというときは、俺が咥えるって!』
ホークとエメルに呆れられて、渋々兄は一人で下りて行った。
これくらいの崖は何度も登ったり下りたりしているのに、兄はいつまでも私を六歳の子どもと思っている。
クスッと笑って、兄がダンジョンの入り口に入り、親指を上げたのを見て、私もよいしょよいしょと下りた。真横をエメルが飛行する。
入り口に足をつけるよりも先に、兄の腕に捕まえられる。
「大丈夫だったか?」
「はい。では、ホークを呼びましょう」
ホークも危なげなく下りてきて、エメルと四人? 揃った。
「では各自道標をセット。俺、クロエ様、ジュード様の順に進むぞ。エメル様、何か気配はありますか?」
『……幻獣が数体いるな。確かにダンジョンで間違いない。ガイアのトラップほど大掛かりのものは無さそうだ』
四人でコクンと頷きあい、奥に進む。
入り口が見えなくなると、やがて風は入ってこなくなり外よりも寒くない。
分岐の道が数度あり、皆で同じほうに進み、行き止まりだと戻る。
たまに中型のキツネのような動物が飛びかかってくるが、私の草壁に跳ね返されて、倒れ、ゆらゆらと消える。
「幻獣。やはりただの洞窟じゃなくてダンジョンだね」
『うん。まあダンジョンの主もガイアほど強敵ではないと思うぞ?』
たまにホークが敢えて草壁の前に出て剣で薙ぎ払うと、キラキラした小石が落ちる。
「なあに? それ?」
「一応宝石です。ただ、この大きさではそう価値はありません。武具の留め具に使ったり、硬いものは研磨に利用したり、といった使い道です」
ホークが拾ったそれを私の手に載せた。暗いのでよくわからない。
「これが通常のダンジョンのセオリーだ。そして大物をやっつけると、少しは金になるものを落としてくれるんだ」
兄が後ろから灯りを寄せてくれた。灯りに反射したそれは赤や橙に光ってなかなか綺麗だ。
「……エメルのダンジョン、なんもなかったよね……」
『アレは俺じゃなくて、ガイアのダンジョンだから! ガイアはあのとき宝石並べる余裕なんてなかったのっ!』
「冗談だよ! わかってるって! エメルがうちに来てくれただけで幸せよ!」
ムスッとするエメルを抱きしめ、謝りながら先に進むと、
『クロエ、腕を緩めて。そろそろ最奥だ』
※しばらく金土日の週末投稿になります。
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