永劫の罪人 光の咎人
天岸あおい
プロローグ
第1話 儀式
天井のステンドグラスから透ける光の中で、真珠のような
それらは互いにぶつかって混じり合い、さらに大きな珠となって輝いた。
太陽の光とは違う、真白く浮かぶ珠――光の精霊は辺りにきらめきを散らし、教会の大礼拝堂を明るく照らす。
大きくなった精霊たちは光をまたたかせ、ゆっくり室内を旋回する。そのたびに精霊は輝きを増し、神聖な空気を織り上げていった。
紺色の法衣をまとった僧侶たちが、次々に大礼拝堂へ入ってくる。彼らは悠然と歩き、中央の床にタイルで描かれた太陽の文様を囲んでいく。
僧侶たちが持つ黄金の杖は、精霊の光を浴びて輝く。小さな光の粒が飛び、部屋の中心へ集まった。
太陽の文様の上にあるのは、聖水が入った灰色の小さな壺。
そして、壺の横には一人の少年僧がたたずんでいた。
大人の中に混じって彼の背は頭ひとつ低い。
一見すると少女と見まごうばかりの、丸く大きな深緑の瞳に小さな口。柔らかな茶色の髪は短いながらも波打っており、白磁の肌によく映えている。
華奢な体で、まだ幼さを残した少年は頼りなく見える。だが、大勢の僧に臆することなく、背筋を伸ばして頼もしく振るまっていた。
僧侶たちが歩みを止め、一斉に中央の少年へ体を向ける。
『天駆ける光の精霊、今ここに、その存在の
一人のズレもなく声がそろう。
彼らの声は辺りに揺れながら天井へとのぼり、言霊は光の精霊に吸いこまれ、溶け合っていく。そうして精霊は少年にまとわりついた。
あどけなかった彼に、神々しさが宿っていく。
言霊は何度もくり返され、少年は生きながらに人と精霊の境目に近づいていった。
少年が両手を広げ、固く閉ざしていた口を開く。
『天駆ける光の精霊、今ここに、その存在の徴を見せたまえ。闇にさらわれし御魂を、光の精霊の膝元へと誘う奇跡の路を創り出す力を、日輪の聖水に宿したまえ』
ひとつ言葉を生むたびに、少年の口から光の粒が散らばる。
少年は天井を見上げ、さらに光を一身に浴びる。不思議とまぶしさで目は痛くならない。
光に受け入れられている。
そんな心地よさを覚えながらも、少年の心に一点、戸惑いがにじむ。
(……どうしてこの儀式をやるんだろう?)
こちらの心を読むように、精霊がまたたく。
(いけない、今は儀式に集中しないと……天駆ける光の精霊、どうか僕に力を貸してください)
少年が心の中で語りかけると、精霊たちは光を強め、了解の意図を伝えてくれた。
儀式が進むにつれ、ひとつ、またひとつ。精霊が壺の中へ飛びこんでいく。
次第に壺の半分まで入れられた聖水が、光を放ち始める。
壺の中に宿ったのは、精霊に恵みを与えられた太陽の欠片。
天井の光と相まって、大礼拝堂は金色に包まれた。
まるで、
精霊の祝福を得られたことに安堵し、少年は小さく息をついた。
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