お菓子の禁止された世界で
@nan18
第1話 お菓子を死ぬほど食べようとしたらマジで死にかけた
僕に臨時収入が入った。かなり大変な仕事だったが。
とあるお金持ちの家が悪い賊に占拠されていた。そこで僕がそいつらを追い払ったのである。その後、僕はめぼしいものをいくつか拝借して依頼主に報告、沢山の報酬を貰ったのだ。
こうして、僕は臨時収入を手に入れたのである。
さて、この金を使って僕は何をするのか。そう、タイトルにもある通りお菓子をいっぱい食べるのだ。
何を隠そう僕はお菓子が大好きなのである。チョコやクッキー、饅頭、大体のお菓子が好きだ。そんな僕の夢がいっぱいお菓子を食べることだ。
しかし悲しいかな、僕の財力じゃあ大した量のお菓子を買うことはできない。全財産注ぎ込んでも1日足らずで食べ尽くしてしまうだろう。そこで僕はこの臨時収入を使ってたくさんお菓子を食べるという計画を立てたのだ。
「フ、フフ、フハハハハ!」
僕は笑いが止まらなかった。長年の野望が、夢が、ついに実現するのだ! これが笑わずにいられるだろうか、いやいられない。
僕は早速お菓子を買いに出かけることにした。
壁にかけた黒いコートを羽織り、さらにフードを深く被る。外にはカラフルな鎧を見に纏った衛兵が巡回している。その衛兵を避けるようにして僕は街の薄暗い路地へと入った。そして隅っこの角にあるドアを2回ノックすると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「今トイレ中だよ」
「チョコレートですか?」
僕が合言葉を言うと解錠する音と共にドアが開いた。
「おばあさん久しぶり!」
そこには腰がほぼ90度に曲がった、あまり愛想の良くなさそうな表情のおばあさんがいた。
「あんた最近見なかったけど、どうしてたんだい?」
「ちょっとお仕事してた」
「・・・・・・ ま、生きてて安心したよ。ハンターに狩られたんだと思ってな」
「フッ、僕はあんなやつらにやられませんよ」
お団子頭を左右に揺らしながらおばあさんは僕と一緒に店の奥へと入る。
お店の中には肉や魚、野菜がたくさん並んでいる。しかし僕は彼らには一切が興味ない。
「おばあさん、最近どう?」
僕は何気なく聞いたが、おばあさんの顔は明るくない。
「また1人国家お菓子エネルギー法違反で捕まったよ。ジャムを乗せた荷馬車が襲われちまったらしくてさ、助けに来た衛兵にそのまま御用になったってさ」
「えっ!? そんな・・・とうとうジャムでさえも取り締まるようになったのか」
「あぁ、全くいつまで続くんだか・・・ エネルギー利用のためにお菓子を作る工場は王国が一括管理、甘いお菓子を持つのも作るのも禁止なんてね」
おばあさんがパイプを口に加える。
この国は昔絶え間なく戦争があったらしい。その結果、エネルギーの枯渇問題に面してしまった。そんなとき、お菓子をエネルギーにすることに成功しこれを使ってエネルギー問題を解決することにした。そのため、お菓子は国が管理することになったのだ。
「しっかし、そのエネルギーの利用先が国のためと言っておきながらほとんど貴族が食べて残りが兵器開発に使ってるんだからやってられないよね」
僕が文句を垂れているとおばあさんが床板を外して箱を取り出した。
「そんで何が欲しいんだい?」
「全種類ちょーだい!」
待ってましたと言わんばかりに僕は答え、全財産が入った袋をカウンターに置いた。
その高らかな宣言におばあさんの顔が一瞬固まる。
「あんた、どうしたんだい今日?」
「僕は今日、死ぬほどお菓子を食べるんです!」
「ふっ、なんだいそれ、仕事が相当上手くいったみたいだね」
おばあさんは箱から次々とお菓子を取り出す。
チョコ、もち、ドーナツ、僕はとにかく甘いお菓子を鞄に詰め込んだ。
ショーケースに並んだ肉や魚、甘く無い野菜には興味が無い。僕は甘党なのだ。
「ありがとう、おばあさん!」
「気をつけて帰るんだよ」
甘いものを包み込んだ鞄を背負い、フードを深く被ると僕はお店を後にした。
僕は街の人混みの中をかき分けながら進む。はっきり言うと僕はここの街の匂いが好きじゃない。甘い匂いが一切しないからだ。
この街ではほとんど誰も甘いものを持っていない。香水でさえも人々は甘くない。メントールってやつだろうか、甘くないミントの香りと火薬や鉄、油の臭いばっかりで鼻が曲がりそうだ。早く帰りたくて僕は少し強引に人を押し除けて進む。そのとき、ヒト型の警備ロボットとすれ違った。
するとロボットが甘い匂いを探知し、目を赤く光らせ僕の方を振り向いた。
「おい 止まれ!」
「やべっ、気づかれた!」
僕はとっさに逃げ出す。当然ロボットは僕を追ってきた。なりふり構っていられない僕は通行人を押し倒しながら走る。チラッと後ろを見るとロボットが銃を構えおり、僕の足を狙って光線を放ってきた。
「うわっ!」
僕は反射的に飛び跳ねる。光線は地面に当たるとコゲができ、辺りに甘い匂いが漂った。
「くそっ、しょうがない」
僕はポケットに入っている袋に包まれたアメを落とした。すると周りの群衆の視線が一気に集まった。
「拾うな! それを 拾った者は 即刻 捕らえる」
警備ロボットはアメをピンセットのようなもので丁寧にカゴに入れる。ロボットが顔を上げたときにはもう僕の姿は無かった。
「はー、危なかった」
僕は裏路地の方へと身を隠す。久しぶりの街で少し油断してしまった。
ひと息ついていると、路地の奥の方から女の子のすすり泣く声が聞こえてくる。しばらくすると男の子の声が聞こえてきた。
「泣くな、お兄ちゃんがついてるからな」
僕が奥に進むと暗闇から兄妹と思われる男の子と女の子とその父親と思われる男がうずくまっていた。僕は怖がらせないように話しかける。
「どうしたの?」
「今日妹と一緒に街の外へお花をつみにいったんだ。マジの方のお花を。そしたら帰りに警備ロボットに見つかって没収されたんだ」
男の子が女の子の背中をさすりながら言う。
「そうか・・・」
普通ならお花を摘むのはなんの問題もない。おそらく、警備ロボットが花の蜜を探知して取り上げたのだろう。警備ロボットは基準の甘さを探知すればなんでも取り上げる。
「・・・はい、これあげるから元気出して」
僕は鞄からさっきお店で買ったチョコを3人分取り出した。
「いいのですか!?」
2人の父が驚いた声を上げる。一般人は甘いお菓子を持つことを禁止されている。しかし、探知されなければロボットに見つかることはない。だから僕は袋に密閉して渡した。
「バレるといけないから家で食べてください」
親子はお礼を言うとチョコを持ってその場を去った。
僕も帰ろうとしたその時だった。
「見つけたぞ」
僕が振り返ると、さっきの警備ロボットが立っていた。目はさっきより赤く、体からは蒸気が溢れている。
「げっ、マジかよ・・・ しょうがない」
僕はポケットからひと口サイズのチョコを取り出して、口の中へと入れた。
「甘い チョコレートの 所持は 大罪 即刻捕らえる!」
ロボットは沸騰させたやかんのように蒸気を吹き出すと、右手から回転する刃のついた車輪が現れた。
警備ロボットは地面を蹴り、前のめりになって僕のところへ猛スピードで向かってきた。やつの車輪が僕の顔目掛けて飛び出してくる。
「!!」
僕は間一髪で上半身を横にそらし、ミンチになるのをまぬがれた。しかし完璧に避けられてはなく、頬にできた切り傷から血が流れた。
警備ロボットはそのまま通り抜け、僕の背後へと着地した。
「・・・・・・」
こんなものを作るために人々からお菓子を取り上げたのか・・・。
それのせいで・・・
「次は 外さない!」
再度警備ロボットが僕目掛けて飛び出す。僕は半身のまま右手をやつの方へ伸ばした。
「終わり だ」
その瞬間、流れる僕の血が集まり小さな塊となって僕の伸ばした手の前まで移動してきた。
ぷかぷかと浮かぶ血の塊を指で弾く。すると血の球は警備ロボットに当たり弾ける。
「爆ぜろ」
僕の言葉と共に奴の体が光り出す。
「なんだ これは?」
光はさらに強くなる。
「ま まさか 貴様・・・」
この言葉を最後に警備ロボットは爆発と共に停止、蒸気は消えてそのまま倒れ込んだ。
「ふぅっ・・・」
安堵のため息をついて僕は家路へと急いだ。
しばらくして、鞄にいっぱいのお菓子をひっさげ僕は家へと帰ってきた。ドカッとソファーに座り、買ってきたお菓子を机いっぱいに広げる。
「よし、夢の第一歩だ」
僕は小さい頃からの夢がある。お菓子のお城に住むという夢だ。そのことを周りに言うとみんな表情が曇る。
そんなものは無理だと、できないと言われ続けた。
でも僕は諦めてない。いつか一生かかっても食べ尽くせないお菓子のお城に住んでやる。
ただその夢を叶えるのは少し時間がかかりそうなので、第一歩としてこの死んだら戻る能力を使っていっばいお菓子を食べる目標を立てたのだ。
そして今、その夢が始まる。
お茶を少し飲むと早速、僕は目の前のお菓子に手を伸ばした。まずはフワッフワっの綿飴。最初はやっぱり喉を通りやすいものだ。次にクッキー、チョコレート、お餅と僕は誰にも急かされていないのに必死にお菓子を食べ続けた。
僕の体は特殊で、通常の人より多くのお菓子を食べることができる。それを爆発的なエネルギーに変えられるのだ。
お菓子が口の中に入るたびに幸せを感じる。僕はもう止まらなかった。手に取ったお菓子が何かを思考する前に口に入れている。
もはや僕を止められるものはいない。
そう思った矢先、事件が起きる。
僕は謎の緑色の見たことの無いお菓子を手に取った。
あれ、こんなの買ったっけ?
そんなことを思ったときにはもう既に僕の喉を通過していた。
気にしないで次のお菓子に手を伸ばそうとしたその時、僕は体が熱くなるのを感じた。
「かっ・・・」
体は一気に沸騰するかのように熱くなる。僕はお茶を浴びるように飲むが全く効果が無い。耐えきれず僕は崩れるように倒れた。
声にならない声が出る。やがて意識が遠のき、瞼も下がってくる。
そのとき、僕の視界に人の足が映った。少し華奢な脚とは対照的に丸い大きな靴を履いている。
そんな映像を最後に僕の視界は真っ暗となった。
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