第49話 会議の後


 異星からの魔物による襲撃をいかに撃退するか、長い会議が終わった。しかし夜はまだ始まったばかりだ。


 東京に戻った首相や官房長官、自衛隊幕僚長たちは首相官邸にいる。今この場には、あの会議に参加した政府側の人間が揃っている。




「では村田くん、さっそく報告を聞かせてもらおうか」



 内閣の特命でエヌの調査を行っていた研究者の村田が口を開いた。


「分かりました。現時点では、まだあの星エヌの場所は特定できておりません。星座に関するデータが唯一の突破口かと思いますが、我々の地球にあるデータとはまったく異なり、星図だけではその詳細までを把握することができません。オリオン座とか夏の大三角形とか北斗七星とか、そういったものは少なくとも滞在中に確認できませんでした。


 しかし太陽のような星があり、月のような衛星もあり、昼と夜があるのは事実です。


 おそらく時間をかけて様々なデータを分析することで、おおよその位置は把握することができるかもしれませんが、それは数ヶ月以上、あるいは数年かかるとみていいでしょう」



 現実的に地球から宇宙船などを使って行ける場所ではないということが、今の説明で理解できた。



「次にあの大陸ですが、これは素晴らしい資源の宝庫です、未知の資源に溢れています。日常生活で誰もが使用している魔石と呼ばれるものもそうですが、さらには鉱石にも未知のエネルギーが溢れていると思われ、おそらくそれをこの地球に持ち込むことができれば、間違いなくエネルギー革命になるでしょう。


 生物も地球のものと似たようなものもあれば、まったく異なる生き物もいます。ただし、基本的な構造、例えば地球の鳥や魚とほぼ同じ構造の生物もたくさんいます。ちなみに食味はかなりの美味でした。


 過去に召喚された日本の料理人が伝えた料理や調味料も普及しており、食文化はかなり共通点が多いように思います。


 また特筆すべきは人種です。エヌは大きく分けて二つの大陸がありますが、東の大陸は基本的に我々地球人と同じ人間種の国家です。しかし西の大陸に関しては、これは驚きましたがまさにファンタジーの世界。向こうの言葉ではなく我々の言葉で言えば、いわゆる獣人や竜人というような人種が数多くいます。ただしこちらの小説に出てくるような、エルフとかドワーフのような人種はいませんでした。彼らの身体能力の高さも素晴らしいのですが、彼らにしかない技術や特技、これもまた特筆すべきものです。ぜひ地球に連れて行き、DNA鑑定などで研究したいというのが本音です。ただ、それはあのマサノリくんは絶対に認めないでしょう」


「なるほど。彼らとの交流はどうだ?」


「先方の人間たちも獣人たちも、温和で文化を持ち合わせています。そしてある程度の教育水準はクリアしていると言って間違いありません。そして国家間の争いもなく平和であり、地球人に対しても召喚と戦争の件から友好的です。仮に日本と友好条約などを結ぶことになっても、マサノリ君の一言で前向きになるかと思います」


「君は本当にあの魔物がこの地球にやってくると思っているのか」


「根拠はありませんが、いずれ間違いなく来るでしょうな。これは私の直感ではありますが、あの魔物はイナゴの群れのようなもの。食べ物や住む場所を探しに星から星を回っています。そしてエヌを襲っている魔物は、あの魔物たちの本拠地からやってきたごく一部だと思っています。


 同様に地球にやってくるものも一部だと思いますが、実際にどの程度の規模が来るのか、相手の星がどこにあるのか、皆目見当もつきません。


 ただし、実際にそれが現実となった時、地球の常識は一変するでしょう」


「それはどういうことだ?」


「未知の星からの侵略、そして見たこともない魔物との戦い、今後世界は宇宙に向けて脅威を感じるのは間違いありません。おそらく手を取り合い、様々な対策を講じていくかと思います」


「その時日本がリーダーシップを取れるか、大きな権益を得られるかどうか、ここがポイントだな」


「現実問題、この問題の中心は日本です。そして対策が失敗した場合、大きな責任を問われるのも日本でしょう。その覚悟はおありなんでしょうな」


「確かにエヌの存在を把握しておきながら、他国に一切報告せず我々だけで話を進めているのは事実。確かにこれは大きな賭けだ。だがもはや戻れん。布石は打ってあるし、ここは彼らに期待するしかないだろう」







 一方、マサノリ達も場所を移し、あの場であえて議題に出さなかった話し合いが続いている。



「本当に外国を巻き込まなくていいんだな」


 大木の確認に対してマサノリは断言する。


「いい。一部の国は、この混乱に乗じて隣国に侵攻する計画も立てていたぐらいだしな。まぁ全力で阻止したが。


 そもそも各国はこの驚異を現実的にとらえていない。実際に目の当たりにしていないのだから、これはしょうがない部分でもある。ゆえに全世界を統一して共通の方向に話を進めることは不可能だ。結局のところ、何かの争いになるし、ここまでの話でも、EUとアメリカですら協力し合う姿勢はなかった」




「もともとエヌに連れていける人数にも限界があったし、武器の強化を世界中で行うにも限界があるわ。なら、当初の計画を万全に進める方が、しがらみもなくやりやすいわよ」


「実際にマサノリさんが主導権を握れなければ、この戦いは負けです。あの大国がそれを良しとするはずがありませんし、他国の意向を優先すれば、結果として取り返しがつかないことにもなります」


 マサノリの話に頷きながらハルとナツも同意見だ。



「問題はアイツだな」


「「「「「!!!!!」」」」」



 大木の言葉に、マサノリを含めた召喚者に緊張が走る。その姿を見てソーマジック・サーガのスタッフ達は戦慄を覚えた。


(あのマサノリさんが、怒ってる…?)



「あぁ、だが対策は済んでいる」



 あまりにも強い殺気がこもったマサノリの言葉に、誰もが恐怖すら感じた。


 その言葉の意味を知るのは、まだ先の話である。



「アメリカの思惑」へつづく

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