第48話 撃退方法


「ここからは私が進行を務めます」


 冒頭で会議の進行を進めていた女性が引き継いだ。


「まずは以前から提案し、自治体や各企業とも話を進めていたステイホームの本格的導入をお願いします。この魔物の特徴として、強力な捕食本能と優れた感覚を持っているものの、知能は高くないという調査結果が出ています。この魔物の襲来が予見された時、すべての企業も店舗も学校も休業とし、すべての住民は家で待機していただき、外出禁止令を出してください。つまり魔物の目に触れず屋内に待機していれば、魔物から襲われる可能性は大きく減少します。そして音を出さず、静かにしていることも周知します。加えて、昼も夜も街灯も照明も点灯したままにしてください。点灯と消灯が繰り返されると、魔物が反応する恐れがあります。病院などで不可能な場合は、外部に光が漏れないよう窓を工夫してください。以上を徹底することで、外にいる魔物は建物内にいる人間を認識できない可能性が高まります。そして自宅ではテレビなども音声は出さないよう、徹底させてください。これを約2週間、国民の皆様に徹底してください。その間の費用、つまり電気代やガス代、水道代などインフラの免除、そして臨時の食糧提供、さらにはインターネットの接続料金や、動画配信やゲームなどの有料コンテンツも、すべて無料で開放することで、ステイホームを推進してください。なおインフラなど自宅待機ができない従事者に関しては、その事業所に2週間は寝泊まりすることになりますので、家族も含めた対応をお願いします。また動物園や水族館など、屋外で閉鎖できない空間の生物を守ることに関しては、シーナ様の結界魔法にて隠蔽します」


「国民への対応はわかった。それも大事だが、この魔物をどうやって撃退するんだ?そもそも事前に撃退する方法はないのか?」


 幕僚長の質問に今まで黙っていたマサノリが口を開く。


「まず前提として、やつらが地球に来るのは防げない。具体的な方法が判明していないからだ。おそらく未知の能力か技術を使い、どこかに転移のための出入り口を作成していると思うが、現時点では見つかっていないし、それを調査するには時間が足りない。もちろん調査は継続しているが、仮に見つけることができても破壊できるのかは不明。事前の対応はあまり期待できないのが現実だ。


 以上の理由から、この魔物の対策は迎撃を前提とした方がいい。その迎撃方法についてはこれから説明する。


 考え方はいたってシンプルだ。


 集めて、閉じ込めて、ボカン、以上」





 その説明に誰もが唖然とする、


「は?もう少し具体的に言ってくれないか」



「その撃退方法は私が説明します。この魔物は知性は低いのですが、その行動は統率が取れているという特徴があります。そしてその統率は、相手の指揮官クラスの魔物がいることで成立しているので、まずはその指揮官クラスをこちらのアタックポイントに誘導します。


 日本全国の市街地で戦闘になった場合、分散した魔物の各個撃破は時間がかかり、市街地での被害も甚大になりますし、広がりすぎて手に余ると対処できません。


 そこで各地に分散している相手を、日本の数か所に誘導。シーナ様の結界魔法で閉じ込め、そこにマサノリ様の殲滅魔法で撃退するというのが大きな流れです」


「どうやって相手を誘導するんだ?アタックポイントはどこなのか?それにやつらは地球に来るんだから、日本だけでなく世界の各地に降りてくるのでは?」


「いい質問だ。まずこいつらはの主力は日本に来るだろう。その理由は、相手の上位クラスの指揮官をエヌで捕縛しており、そいつをエサにするからだ。こいつらは指揮官クラスの命令に従順であり、そいつが助けを呼べば、必ずそこに集まってくる。すでにエヌで実証済みだ。


さらに空中にエサとなる生物を波瑠に召喚させ、それを追いかけるようにも仕向ける。誘導漏れは、全国に設置した転移スポットを活用し、こっちのメンバーを転移させて倒すことになるだろう。そして攻撃ポイントはここを使わせてもらう」


 マサノリが地図の一か所に指を指す。


「「「富士の自衛隊演習場?」」」


「あぁ、他にも全国にある演習場を使うかもしれない。それは相手の出現ポイントによるが、いずれにせよ自由に使わせてもらう」


「補足しますが、おそらく包囲魔法と殲滅魔法で倒せないクラスの魔物が存在すると思います。その強敵は召喚者の皆様と5チームを使って各個撃破します」


「君の魔法ですべて倒せないのか?」


「マサノリ様の上位魔法では結界が破壊されますし、結界外の被害を防げません。結界魔法は相手を閉じ込めることと、周囲に被害が出ないようにすることが目的ですが、その防御力にも限界があります。核攻撃程度であれば防げますが、マサノリ様の全力は防げません。もし威力を上げた場合、相手は全滅できる可能性は高まりますが、包囲魔法も破壊されます。


 その場合、周囲の自然環境に多大な影響が出ます。具体的に言えば、富士山が欠け、富士五湖が蒸発してもいいのであれば、問題ありませんが…」


「ふ、ふ、富士山が欠ける?そんなのはマズイよ!」


「か、か、核攻撃程度… それ以上ということか…」




 その説明に周囲のメンバーは愕然とする。


「そ、それは困る。わかった、控えめでお願いするよ」


 総理大臣は彼らの話を大袈裟と感じていたが、召喚者のメンバーが全員頷いていたことを見て、寒気が走るほどの戦慄を覚えた。


「富士の演習場じゃなく、どこか無人島とかじゃダメなのか?」


「それも検討したが却下だ。理由は海に潜られて逃げられると、追跡と相手を倒す手段がなくなるからだ。世界中に散らばれると、対処のしょうがない。


 なおこの戦略の一部は各国の首脳部にも通知する。敵の主力は日本に来るだろうが、他国の被害もゼロではないだろうからな。


 ただ他の地域でも、場所によっては相手を誘導し、こちらに強制転移させることも考えている。だがシーナが結界を張り出したらそこまでの余裕はないので、これは対策の一つということになるが。


 なお日本もはぐれた魔物が各地に残るかもしれない。それらのほとんどは小物だと思うが、それは自衛隊に対処をお願いすることになるだろう」


「さっき、自衛隊の武器は通用しないと聞いたが」


「通常の武器では厳しい。そこで自衛隊の通常弾に魔物対策の強化エンチャントを施す。その実弾を使えば、下位ランクの魔物であればかなりのダメージを与えられるはず。ただ過剰なエンチャントは武器が耐えられない可能性があるので、それが限界だ」




 マサノリたちの説明では、地球に襲来した魔物を富士の演習場などに誘導、結界で閉じ込め一気に殲滅。そして撃ち漏らした上位の魔物は、召喚者と5チームで各個撃破する。この流れが2週間ほど続く予定だ。


 この作戦がベストとは言えないのは誰もが理解している。しかし現状ではこれがベターというのが結論。これから起こることは誰もが未体験である未曾有の災害であり、どこで何が起こるか、正確な情報は何もないのが現実だ。


 しかし相手はそんな地球の事情を知る由もない。着実に、襲撃の時期は迫っている。



「会議の後」へつづく

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