第44話 狭まる包囲網
サトルたちが3つ目の熊の山ダンジョンを攻略している間に、レンジャーチームに続いて僧侶のアサコをリーダーとする九州沖縄チームが猿の島ダンジョンをクリア、レベルは80に達した。
アサコたちはこの星に存在するダンジョンをすべて攻略したことになるが、日本に戻るためのレベル100にはまだ到達していない。
しかし攻略後、アサコたちはイスタ王国の王城でスカーレット王女と、初めて出会ったマサノリと名乗る日本人の説明に衝撃を受ける。
それはこの星の真実であり、4人がこの星に送られた真の理由であり、そして運命の瞬間でもあった。
この7日後、意を決した4人はレベル100を目指し、本当の戦場である黒き島に渡る。
この黒き島は惑星エヌにある二つの大陸に挟まれた離島。
大陸の大きさは正確に検証されていないが、東イスタン大陸は地球で言えば北アメリカ大陸と同じくらいで、西ウエス大陸はオーストラリア大陸ぐらいと推測されている。
この二つの大陸は海を渡って分かれているが、さほど離れてはおらず、船を使って行き来することができた。
そして強力な魔物に占拠された黒き島は、もともと火山の噴火と大地の隆起によってできた溶岩と岩だけの島であり、大きさはハワイ島ほどのサイズ。そして住民はもとより資源も生物も存在しなかった。
そこを黒い魔物たちが拠点とし、両大陸に攻め入ったのが、今から10年ほど前の話であった。
そしてアサコたち4人は、この黒き島へ渡るにあたり、スカーレット王女から案内人として2人の男女を紹介された。
2人は夫婦で男性は料理人、女性は店の女将だという。
「みんな、心の準備はOK?この島では致命傷を受けたらゲームオーバーだからね。蘇生とかできないから気を付けてね。じゃあ、出発~!!!!」
異様にテンションの高い花村夫人が先導し、6人は黒き島に脚を踏み入れた。
その島に植物はなく、しかし過去の戦いの痕跡は凄まじく、あまりに異様な雰囲気に4人は圧倒される。
「ここはダンジョンとはまったく違うんですよね…。もう一度、どんな魔物が出るか教えてもらっていいですか…」
魔法使いのロミが恐る恐る花村夫妻に質問する。
「う~んとね、基本的にあのダンジョンの魔物は階層にあったレベルの魔物しか出ないよね。でもここは何が出るかわからない。弱いのもいるし、手が出せないくらい強いのもいるかもしれない。そしてどんな攻撃をしてくるのかもわからないし、どんな威力なのかもわからないの」
「そう。だから常に自分たちより強い魔物が相手だと決めつけていた方がいい。見た目に惑わされたら、取り返しがつかないことになるからね」
花村夫妻の説明を聞いて緊張が高まる4人。花村夫妻に関しては、その素性や役割を聞いているが、温和な雰囲気の様子からとても自分たちより強いとは感じられない。
そして島に足を踏み入れて30分ほど経過した時、
「おっ、最初の遭遇だな」
「う~ん、あれはマズくない?いきなりAクラスが10匹くらいかな」
花村夫妻が前方からやってくる魔物を発見した。
「えっ、それってどれくらい強いのですか?」
魔法戦士のマサは緊張を隠せず2人に質問する。
「この島のAクラスの魔物は、レベル換算で150くらい。まぁちょうどいいから、最初は4人でやってみて。危なくなったらすぐに加勢するから」
アサコたち4人のレベルは80。そして向かってくる魔物はレベルは150が10匹だという。どう考えても絶望的な戦力差だ。
しかし花村夫妻は危機感を感じさせずに戦えと命じている。
この状況は事前に何度も聞かされ、何度もシミュレーションを重ねてきた。まずはやれるだけやってみて、ダメなら2人に頼めばいい、そうスカーレット王女たちにも言われている。
なので4人は覚悟を決めた。
「いくわよ。私たちが地球の英雄になるのよ!」
アサコの掛け声に3人は頷き、戦闘が始まった。
「なかなかやるじゃない。やっぱりレンジャーの4人よりずっとセンスがあるわ」
「特に僧侶のアサコが抜けているね。状況判断、位置取り、アドバイスと的確だよ。マサノリさんが気にかけるのもよくわかる」
「よくもっているけど、やっぱり相手の防御力を突破できないわね。
みんな~、そろそろヘルプ?」
「花村さん、お願いします!攻撃は防げても、あっちが硬すぎてダメージが与えられません!」
「オッケー、じゃあ、いくわよ!
う~ん、今日は火の精霊にお願いしようかしら」
花村夫人は片手を前に出し、手を広げて上に向け、力を籠める。
すると手のひらから炎が舞い上がり、竜のような形になっていく。次第に大きさを増し、その巨体は魔物たちのおよそ3倍、10mほどにも達している。
「アウィル、よろしくね!」
花村夫人が空に舞い上がった炎の竜に声をかけると、その炎は一瞬にして魔物に襲い掛かり、あっさりと燃やし尽くした。
しかしその炎を逃れた一匹が花村夫人に襲い掛かる。
「お、うまく逃げたね~。そっちよろしく」
花村夫人は怯えるそぶりもなく、料理人である夫に声をかけた。
すると料理人と思えない、目にもとまらぬスピードで夫人と魔物の間に割って入り、見事な正拳突きが決まり、魔物は粉々に砕け散ったのである。
その強さにアサコたち4人は唖然とする。
「初戦としては上々よ。この調子でいきましょう。あの感じなら、100レベルぐらいの魔物なら4人で倒せると思うわ」
アサコは自分たちと花村夫妻の実力差を痛感しながらも、ダンジョンをスムーズにクリアしたことで、天狗になりかけた自分たちを諫めてくれたと感じた。
そして大きな目標ができたことに、充実感を覚えたのであった。
一方、地球では日本を取り巻く環境に大きな変化があった。
アメリカは大統領選挙が終了し8年ぶりに新政権が誕生。
その結果、今までの融和路線と異なり外交は強気路線に変更、日本を含め他国との関係は悪化していた。
そして前政権が深く追求してこなかった、日本が未知の技術や資源を発見した可能性について、特別チームを設置して水面下で調査する姿勢を見せていたのである。
もともと前政権へは、マサノリによって地球を脅かす宇宙からの脅威の伝達、そして前大統領の“教育”は済ませてあったが、新しい大統領はマサノリの存在を知らず、結果として強気な行動に出たのだ。
また同様にマサノリが事前に根回しをしていた中国・EU・インド・オーストラリアなども、同様に水面下で諜報活動を強めていく。
そして「ソーマジック・サーガ」と「惑星エヌ」というキーワードを把握し、各国はその存在と意味について知ることとなる。
来たる将来に向けて他国を巻き込むことは、マサノリを含め日本政府やメンバーの総意であったが、結果として目に見えない弊害を生んでいく。
それが協調性を損なうこと、結果として大きなリスクに繋がることは、現時点でどの国も気付くことはできない。
そして徐々に、日本へ向けて各国の包囲網は狭まっていったのである。
その動きをマサノリたちが知るのは、これから数か月後のデッドラインを超えた後であり、もはや後戻りはできない状況になっていた。
「賢者」へつづく
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